第4章 憧れ
レコーディングで思わぬ挫折を経験したユイトだったが...
朝、目が覚めると時計はAM11:00と表示していた。
起きるたびに過去になっているから、すぐに日付を確認した。
2023年4月15日(土) 2年前だ。
今回は随分と前に来たみたいだ。
LINEの通知が鳴る。
「ジュン:今日何時入り?」
「ユキ:15時入り!」
「ジュン:了解!」
「リン:やるぞ!!!!」
確か今日は、初ワンマンライブの日だ。
東京に上京してきて、コロナ禍を経験し、初めてのワンマンライブ。
周りと比べてあまりにも出遅れてると感じていた時期だっけな。
胸を張ることではないが、もちろんチケットも余っていた。
それでもみんなやる気満々だった。
会場に到着すると、緊張していたメンガーがそこにいた。
だが、みんな目は希望に満ち溢れているようだった。
俺たちならなんでもやれる。怖いものなんてない。
そう言っている目をしていた。
そうだった。今となっては忘れそうになってしまっていた。
曇りのない澄んだ目をしていたことを俺は思い出した。
メールの通知が入っていた。
今日は大手事務所の関係者も見にくることになっている。
まだこの頃、無所属で活動していた俺たちにとって、
とても嬉しいことだった。
でも、記憶ではライブ後に良い連絡はなかったことを覚えている。
ここからだっけ、みんなからよそのボーカルを羨ましがる話がよく聞こえ始めたのは。
今も当時も自分の声が好きだったわけではない、
歌に特段自信があったというわけでもない、
メンバーから褒められることもなかったと思うので、
思い切って聞いてみることにした。
「ジュンって俺の声どう思ってる?」
「うーん、他に似てる人もいないし個性的っちゃ個性的だと思う」
「いいこと?」
「いいこと」
ふーんと言いつつ、内心すごく嬉しかった。
だって、ずっと嫌いだと思ってたから。
作曲者にとって声と歌は命だ。今となっては痛いほどわかっているつもりだ。
好きとは言われていないが、嫌いってわけではないという事実が知れて嬉しかった。(この時はだが)
「リンは俺の声どう思う?」
「良いと思う!ヘムゥ!(奇声)」
「ユキは?」
「歌うまいと思ってる」
なんだかライブ前に自信がついた気がした。
やはり思ってることは他人にはわからない、こうして積極的に話すことは大事だ。
リハーサル、もう今はやっていないセットリストに並んだ曲たちを歌い上げていく。
未来のメンバーとはちょっと違った感じがして懐かしかった。
ただ、大きく違ったのは俺だった。
自分では気づかなかったのだが、明らかに歌が上手くなっているみたいで、
周りがびっくりしていた。
レーベルの担当のカイも「え!ユイト君めっちゃ調子良いじゃん!」と笑っていた。
<あぁ、俺ってちゃんと上手くなってたんだ。努力ちゃんと実ってきてたんだ。>
そう思うとなんだか涙が出てきて、気づいたら4人で笑っていた。
終演後、ボーカルが成長するだけでここまで出来が変わるのかと思い知らされた。
周りの反響が明らかに違っていた。
まずはお客さんの顔がイキイキしていたこと、
物販の売り上げがすごかったこと、
写真の列が長蛇だったこと、
SNSの反応が倍以上になっていたこと(記憶と照らし合わせて)、
そして事務所関係者から先輩バンドマンを紹介しますと言われたこと。
リンもジュンもユキもとても嬉しそうだった。
本当にすべてが違っていた。
だが、そこにハルはいなかった。一緒に喜びを分かち合えればもっと最高だったのに。
嬉しかったと同時に、この2年を無駄にしてしまっていた絶望が押し寄せてきた。
このままここからやり直せたらどんなに幸せだろう。
眠ればどこか別の過去に飛ばされる、もしくは未来に戻ってしまうのではないだろうか。
ー怖い
漠然とした不安で眠りたくなかった。
帰りたくなかった。
しかし、今日は終わってしまう。
あぁ、なんて良い日だったんだろう。
成功した喜びを噛み締めながら眠った。
読んでいただきありがとうございました♪




