第3章 異常
1度過去に戻ったユイト、ステージ上で歌っていたはずだったが
朝、目が覚めると時計はPM5:00と表示していた。
いつの間にこんな寝てたんだろう。
確か過去に戻って…
え?なんで俺家にいるんだ?
ステージで歌っていたところで記憶は途切れている。
時計には1月1日(水)と表示されているし、
スマホの通知には「明けましておめでとう」で溢れている。
またか…と思った。
前回よりも驚きは少なく、
「あと少し、上手くいきそうだったのにな」
昨日(11月22日)のことを思い出してはため息をついた。
友人たちからのLINEに丁寧な返事を送っていく。
バンドのグループでは、来週のレコーディングの話が行われている。
そうだった。そういえば、このタイミングは夏に放送されるドラマのタイアップが決まった時だ。
それで年始あたりでレコーディングすることが昨年末に決まり、
急ピッチで曲を仕上げ、展開の話し合いが行われていた。
このドラマ、しっかりと評判を獲得していたし、主題歌も注目はされた。
しかし、大多数に曲が受け入れられてヒットしたかと言われるとそうではない。
でなければ、「ボーカルの声が歌が」なんて言葉は出てくるはずがない。
やはりここでも、ツアー前のように何か変えられるチャンスなのではないか?
そう思った。
俺はどうすれば良い声になるのか、良い歌が歌えるのか、
ボイトレでは積極的に質問し、少しでも改善できるように俺なりの努力はしたつもりだ。
レコーディング当日、記憶の中にある言葉がよぎった。
<俺のせいで売れていない。だからみんな幸せになれない。>
絶対に繰り返してはいけない。ここで変えなきゃ何も変わらない。
良い歌を録って絶対に売れてやる。
顔を叩いて気合を入れ直して家を出た。
小雨の降る中、
ー苦しい
あの時の感覚。水の中にいるような感覚をふいに思い出した。
レコーディングスタジオに到着すると、すでにユキとリンが録り始めていた。
相変わらずこの2人は上手い、疾走感のあるビート、唸るようなベース、
混ざり合って一塊の大きなグルーヴを生み出している。
あっという間に終えるとジュンに交代、
ジュンは職人気質で努力家だ。作曲者であるがゆえにこだわりもメンバー1強い。
この人の頭の中ではもう音楽は完成しているし、アウトプットも上手い。
なのであっさりとレコーディングは終わり、俺の番が回ってくる。
あれ?こんなに身体重かったっけ?
椅子に座っていた腰が上がらない。
記憶でこんな気持ちになった覚えはない。
手元を狂わせて机のペットボトルを落としてしまったことで、
自分の手が震えていることに気づいた。
レコーディングを怖いと思ったのは初めてだった。
その日俺は納得のいかないまま歌録りを終えた。
帰りの電車で、メンバーに一言「ごめん」と言い残し別れた。
悔しくて悔しくてしょうがなかった。
何がいけなかったのだろう。
頑張ろうと思ったのに、努力したつもりだったのに、
結果全然上手くいかなかった。
部屋に着くと床にうずくまって叫んでいた。
もっともっと前からやり直したい、
自分を取り巻く環境が悪かったんだ。
10代後半、20代前半、いやもっともっと前から音楽に時間を費やせばよかったんだ。
バンドをやるってわかってたらもっと上手くいったと思うんだ。
こんな辛い思いしなくて済んだんじゃないか?
なんで俺はこうなってしまったんだろう。
今みたいに過去に戻れるなら、未来が変えられるなら、
<もっと昔からやり直させて欲しい>
読んでいただきありがとうございました♪




