第1章 序章
売れないバンドマンのやり直しライフ
野崎ユイト。
29歳バンドマン。ボーカル。
週の半分以上は飲食店でアルバイト。
賃貸は東京ではそこそこ安めの6万1K。
野崎ユイト。
29歳バンドマン。ボーカル。
週の半分以上は飲食店でアルバイト。
賃貸は東京ではそこそこ安めの6万1K。
寝起きでユニットバスに立っている。
つまり、俺はお世辞にも売れているとは言えない。
しかし、今まで有名になるタイミングはいくつもあったように思う。
例えば、1番初めに決まった大型アニメのタイアップ、
その次に決まった人気俳優が出演する深夜ドラマのタイアップ、
他にもまぁいくつかあったが、これと言ってスマッシュヒットすることはなかった。
22歳以下が出場できるようなバンドコンテスト系にも出場したが、
「若かりし頃の栄光」など手に入ることはなかった。
この歳になって売れるとしたら、世間からは「遅咲き」と部類されるだろう。
今まで大勢の前でライブをする機会はいくつもあったが、
もっと上手くやれていれば、この現状にはいないだろう。
「俺の声が歌がもっと魅力的だったらなぁ」
”そんなこと”を思いながら歯を磨いている。
鏡に映る顔。
ただならぬ悲壮感が出ていて面白い。
今日はワンマンツアー初日前夜。
大阪へと向かうバンドワゴンを待っていた。
忘れ物がないかを確認して、家を出る。
集合場所で待っていると、
ベースのリンとギターのジュンがやってきた。
おはようと挨拶するが、少し気まずい。
なぜかというと、 ”そんなこと” を考えていた原因が2人にあるからだ。
昨日スタジオ練習のとき、
人気が出ないのはどうしてか?という話で言い合いになった。
お互いに引き際がわからなくなって、
モヤモヤを抱えたままその日は解散した。
もっと上手くやれていれば….
帰り際そう思った。
なので、気まずい。
案の定、向こう2人も距離があるように感じる。
無言のまま到着したバンドワゴンに乗り込んでいく。
運転席にはマネージャーのハル、
助手席にはレーベル担当のカイ、
後ろの席にはドラムのユキがいる。
俺以外は和気藹々と話をしている。
1人だけ疎外感を感じながらヘッドフォンをして、
窓の外を見ながらぼーっと揺られている。
移動中ずっと考えていた、
ここらへんが引き際なのかもしれない、と。
でも、どこか諦めきれない自分がいたので、
声として発することはできない。
「あのバンドはボーカルがいい声なんだよな」
「あのバンドのボーカルは歌が上手いよな」
うっすらバンドの話が聞こえてくるたび申し訳なさを感じていたし、
怯えていた。
その度に音量を上げて爆音で音楽に縋った。
自分だけが自分を慰めることが出来るのに、
最近はそれすらも出来ず、
心の中で「全てお前のせいなんだ」と俺は自分自身を攻撃していた。
世界が灰色に見えた。
読んでいただきありがとうございます♪




