望まぬ訪問者
メリーさんだった人形は予想通りにマデリーンが大喜びで抱えて帰った。
「最近の呪いの人形はガッツが足りませんでしたの! 相手を殺してもなお恨みが募り、周囲まで巻き込んでいく最高のお人形ですわぁ……マデリーンうっとり……」
そんなことを言いながら自分の腕に噛みつく人形を愛おし気に撫でる彼女を見ながら、「やはり変な女だな」と思う私だった。
まぁ、私個人としては、無料で家事用オートマタの点検修理をしてもらえたので嬉しいことしかないのだが。この家は無駄に広いからな。自分で掃除することなど考えたくもない。使用人でも雇えばいいのだろうが、私も仕事以外で人に会うのも面倒だ。
人と会うことがなければ、このようにジャージで過ごしても何も言われん。これに慣れてしまうと、堅苦しい服を着るのが億劫になる。コンビニ程度なら、このまま外に出かけてもよいらしいが、それにはまだチャレンジできておらん。
最近は外出も仕事もしたし、またしばらく引きこもってゲームでもしていようか。
ウキウキとしながらゲーム機を起動させると、呼び鈴がなって真顔になる。
「フェリクス、なんかオールバック黒スーツの安倍清明を名乗る不審者がアンタを訪ねて来てます」
「ちょっとインターフォンの映像を見せてみろ……本当にジジイじゃないか」
かなり面倒くさい。横にこの間の小娘がいるじゃないか……。
それにしても、その服とスタイル。隣にいる小娘の現在の恰好も含めて完全に堅気には見えない。
「はぁ……。着替えるゆえ、応接室に通しておけ」
「これ、知り合いなんですか? 見た目かなりヤのつく職業っスけど」
「間違いなく、この国で最も有名な陰陽師だ」
かなり会いたくないが、放置しておく方が面倒事になる。なるというか、この男が面倒事にする。それなりに付き合いが長いので手に取るようにわかる。
ラウルに指示を出して、あいつらが移動している間に着替える。
せっかく一日ジャージでのんびり過ごそうと思っていたのに、何の用なのか。なるべく楽な案件であることを願いながら応接室に向かうと、安倍のジジイはラウルに茶を注がせてまったりしていた。
部屋に入った私に気が付いたジジイはニッコリ笑って「久しぶりだね、フェル坊」と言った。
「人の子の成長は早いねぇ……。この赤い髪の男の子、この間養子にしたっていう赤子だろう?」
「そうだ。その節は世話になったな」
「いいとも、いいとも! 代わりに僕も相応に良い働きをしてもらったからね」
相応に、なぁ……? 結構、扱き使われた気がするが。
「……俺が引き取られたのって十五年以上前の話では」
「はは、僕たちのような者からすれば瞬きの間さ。そうだろう、フェル坊」
「そんな話をしたくてここに来たわけではないだろう? さっさと本題に入れ」
私個人としては十五年は結構な時間だと思うが、千年以上生きると価値観が変わるのかもしれんな。いや、これは私が子育て? をしていたからかもしれん。
「ああ、そうだ。最近、うちの千明が迷惑をかけたとか」
「我が家にこれ以上喧嘩を売らないように、ということで解決させたはずだが」
「そうだね。でも、そのおかげで今安倍家に入り込んでいる差別主義者が暴れていてさぁ」
春清が千明を引きずって行った本家で再教育をしていたところ、妻とその両親が怒鳴り込んでいったらしい。差別思想を持っていたのは彼女たちだったそうだ。
そして、魔族はみんなモンスターだ魔物同然にぶち殺せなどと発言した結果、清明が出てきてしまったらしい。
アホすぎる。
「そんなしょうもないことで化け物を呼びだすのは本当に愚かとしか言えん。小娘、おまえの両親は『危険物には手を出すな』と教えなかったのか?」
「僕をストレートに化け物扱いするのは君とノブくらいのものだよ」
呆れたようにそう口にした清明は困ったように千明を見た。
あくどい顔にしか見えない。
「それで、粛清に時間をかけたいから、この子の教育をお願いしたいんだ」
「ラウル」
「え。嫌です」
意見を聞こうとしたらすぐにそう答えたラウルを見て一つ頷いた。
息子が嫌だと言っているなら無理である。
読んでいただき、ありがとうございます。
〇アルテ
フェリクスのお膝の上が定位置の使い魔 (白猫)。こう見えて魔法職だったりもする。
人化した姿は白髪に金色と青色のオッドアイの童女。とっても可愛い。
フェリクスが猫の姿を望むので基本は猫形態。
人形使いの魔女に連れて行かれそうになったことがある。人形にされるかと思ってマジ泣きした。