年越し
日本の年末年始は若干のお祭り感があると思うのは私だけだろうか。
和室に改造した部屋にこたつとみかんを用意すると、小娘と豆太も居つくようになってしまった。テレビでは毎年恒例の歌番組が行われている。
「やっぱりこの時間の方が、フェリクスは元気だよな」
「仕方あるまい。私は吸血鬼だぞ。夜行性なのだ」
こたつに埋まりながらみかんを剥く。うむ。甘い。いい値段がしただけあるな。
マデリーンは小娘と場所の取り合いをしている。お前、最初は「興味ないので、マデリーンは工房に籠ろうかしら」とか言っていなかったか?
「あー! フェリクス様、みかん食べ過ぎではないですか!」
「私のみかんを私がいくつ食べたところで咎める者などおるまい」
「そうですね。俺もそう思います」
マデリーンは私とラウルの言葉に少しばかり悔しそうな顔をする。
第六天から支援があるため、生活が苦しいと思うほどには金に困っていないが、それでも私ほどの余裕はないらしい。私の菓子を本当に羨ましそうに見ていることがある。……私もそこまで無駄遣いはしていないはずだが。
「マデリーンは特売のみかんなのに……」
「マデリーンさんはダンジョン攻略とかしないんですか? 行く場所によってはすごくいい素材が手に入るって聞いたことある」
「そんなにいい素材が手に入れば、マデリーンはお人形を作るわ」
小娘の問いに即座にそう返す彼女の言葉に嘘はない。
まぁ、ヴェルグでも同じことを言うだろうな。職人というのはこれだから。
「以前、イギリスで支配型ダンジョンを手に入れたことがあるのだけど、マデリーンのほしい素材が手に入るようにクラフトしたら、周りの人間にとても怒られたの! 酷いわよね? マデリーンのダンジョンなのに!」
マデリーンが必要とするような素材ならば、相応の価値があると思うのだが……。よほど危険な魔物だらけのダンジョンにしたのだろうか?
「腹が立つから、マデリーン以外入ることができないように、凶悪な魔物だらけにしてやったの。今も持て余しているみたいだわ。ざまぁみろ」
楽しそうな彼女を見ていると、やはり魔女に喧嘩を売るような人間は愚かだと感じる。とはいえ、マデリーンはかなり付き合いづらいタイプだから何とも言えんが。そのあたりは、過去に魔女狩りや迫害をしてきた人間たちを恨んでもらおうか。
まぁ、そんなことをしていれば住む場所に困るようにもなるか。そういえば、太郎のやつは正月を家族で過ごすために実家に戻ったのだったか。あれも住む場所には苦労していたようだし、魔族支援の一環として住む場所を提供してやれば大人しくなる者もいるかもしれんな。昔より差別が少なくなったとはいえ、なくなったわけではない。環境を少しばかり整えてやれば……いや、これは私が考えることではないな。もう『魔王』と呼ばれていた私ではないのだし。
「フェリクス様はよく人間にダンジョンを開放しましたね?」
「私は職人ではないからな。自分の欲しい素材なんて、武器の修理やメンテナンスの時だけだ。それに、ここの人間たちとはそれなりにうまくやっている」
それに、人間がうまく戦えるように育てば、私の仕事は減るからな。
あんなダンジョンをクリアした程度で私に勝てるようになるわけでもなし。
「それに、私の味わった悪夢を他の人間にも味わってほしい。そういう意図を持った設定にもしてある」
「ああ。嫌がらせだってネットの掲示板に載ってたやつですか」
いいところだけ持っていかれるのは癪だろうが。
というか、ネットの掲示板? 何それ。私、知らんが。
「帰って来た時のドラクルさん、すごく機嫌悪かった。仕方ないと思う」
元のダンジョンが最悪だったから仕方ないだろうが。
そう思っていたら、番組が年越し行事をリレー放送しているものに変わって、除夜の鐘の音が流れていた。
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