理解できぬもの
「それで、この可愛くもない人形を捕まえてきたんですか?」
「薄汚れているだけで、修理すればそれなりになろう。マデリーンに渡しておけば、いいように扱うだろう」
人形使いの魔女マデリーンはそう呼ばれるだけあって人形が大好きだ。特に持ち主を追いかけたり、髪が伸びたりするような呪いの人形が大好物だ。変な女である。
しかし、いい加減に掃除用オートマタの点検もしてほしかったし、呼びだすいい機会になった。
被害者? 知らんが。解決すればそれでよかろう。
「でも、檻に思いっきり噛みついてますよ。食いつくんスか?」
「飛び跳ねて喜ぶだろうな」
「マジか……。理解できねぇ」
それは私もだ。しかし、理解し難い存在というものはいるものだ。マデリーンなど、人形が好きなだけなのだから可愛いものだ。
一番理解できなかったのは、火刑が大好きで、火刑にあうためだけに各所でそこはかとなく魔女であることを匂わせながら、魔女狩り真っただ中の地域で楽し気に生活していた女だ。私が知っているだけでも火刑に処された数は五十は超える。
火刑に処されるのが大好きであるということからもわかるように、その女は燃やされたところで死なない。縛られ、足から燃やされるのがたまらなく気持ちいいのだという変態に私が言えることなどあるはずもない。
「世界は、広い……」
性癖も、様々だ。
ちなみに私は火炙りの魔女から串刺し処刑が大好きな吸血鬼だと思われているが、それは私の趣味ではないぞ。
「ところで、ラウル。お前のところの怪異はどうだった」
「ああ、ロリコンの花子さんでした。俺が男であることにかなりガッカリして、凹みすぎて溶けてました。そのまま、核ごと潰したら『ロリに殺されたい人生だった……』って言いながら消えました。キショかったっス。もうあんなもん回さんでください」
本当に嫌な時の顔をしているラウルを見て、私はだいぶ引いた。まさかそんなヤバい案件だと思っていなかったのだ。
「これからは、下調べをかなり本格的にする」
私が遭遇するならまだいいが、子どもに解決させる問題ではなかった。なんだ、その花子さん。成立までにはいろんな説があるが、花子さんを殺した側の存在なのではないか?
「まぁ、課題内容はクリアできたんで、紹介はありがとうございます。ハンター協会は最近見つかったっつーダンジョンに誘ってくるんで面倒なんスよねぇ。中にいるうちに満月の日がきたりすると厄介だし」
「だが、ダンジョンに行ってみるのも勉強としてはいいかもしれんな。機会があれば散歩がてら踏破してみるもいい」
「踏破を散歩がてらでやろうとすんの、アンタくらいっスよ」
よほどの場所ならともかくとして、おおよその敵など大した苦労はせんからな。油断している痛い目を見る、などと忠告されたこともあるが……。ヤバいと思う相手というのは少し接近すればわかるものだ。
例えば、第六天の魔王、安倍のジジイ、火炙りの魔女、海底の魔女、茨の龍等々。どれも敵に回すことを考えたくない存在だ。
「これでも、かつては恐れられた存在故な」
「フェリクスみたいな温和な魔族が恐れられてたの、あんま信じられないんスよねぇ」
「私とて、始めからこんな性格だったわけではないさ。年を取って、随分と丸くなったものだよ」
そう言って苦笑すると、ラウルは不思議そうに「そんなもんスか?」と首を傾げた。
そんなものだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
〇ラウル・ドラクル
フェリクスの義息子。人間の両親から生まれた人狼。
現在十六歳高校一年生。国立対魔防衛学園所属。成績上位。
赤髪に緑目。あまり表情の変わらない寡黙なタイプ。
小さい頃はフェリクスを「父さん」と呼んでおり、片親であることをバカにしてきた同級生と喧嘩をしたこともある。義父であることを知らされたあとから「フェリクス」呼びになった。
稽古で一本取れたら、再び「父」と呼びたいと思っている。