『メリーさん』
「なぁーご (ラウルひとりで平気だったの?)」
「魔火のランタンがあるゆえ、大丈夫だろう」
「にゃ! (じゃあ、迷わなくていいね!)」
いくら養父といえども、子の学校の中まではついていけん。それに、ラウルにだって友人と共に遊ぶ日だって必要だろう。ラウル自身はあまり持ちたがらないが、星見の魔女から譲り受けた『魔火のランタン』があれば道に迷わずに済む。ちなみに、ラウルが持ちたがらない理由は『高価』だからだとか。
彼女たちの作る道具は確かに高額だが、並みの人間や魔族、怪異、魔物が壊せるような代物ではない。むしろ、その丈夫さゆえの値段だろう。メンテナンスにも相応に金はかかるが、それは飾っていても同じだ。
それはさておいて、我々もメリーさんを探さなくては。
「にゃあ……(金髪のお人形だっけ……)」
「そうだ」
メリーさんという怪異は最近ならではのものだ。元はただの都市伝説であったが、話が多くの者に広がり恐怖が地脈に刻まれた結果、立派な怪異に成長した。数年に一度は遭遇する。
基本的に、人形を手放すときにはきちんと供養をすることで回避できるが、まぁ、やらんやつは何を言ってもやらんからな。
そうして、引っ越すときなどに適当に捨てた人形が強い恨みや悲しみを抱いて『メリーさん』という怪異になる。最近のメリーさんはスマートフォンに電話をかけてくるらしい。現代怪異ならではだな。
今回の案件では、すでに持ち主を刺殺した後らしい。普通ならばそれで終わるはずだが、その人形はまだ何かを探している。これ以上の死者は出ないようにとハンター協会に依頼が出ていた。
こういう案件こそ、日本の変異者が得意とするところのはずだが、今は少し厄介ごとがあるらしく暇な私の所に回ってきた。
まぁ、私は祓などできんから、ここで消滅させるか、あとで神社に持っていくかだな。
「ふむ。電話がかかってきたな」
一人の少女が殺された後、その娘の友人に呪いが引き継がれたらしい。今回は依頼主より、その友人の電話と髪を一本譲り受けている。髪を使って気配を似せる薬を作り、逆にその友人には気配を薄める薬を飲ませてある。
それらの事前準備の結果、きちんと私の方に引き寄せられてくれたようだ。結構なことである。
『私、メリーさん。今、タバコ屋の前を通り過ぎたわ』
『私、メリーさん。今、〇×小学校の前を通ったわ』
『私、メリーさん。今、〇×公園にいるの』
順調に近づいているな。それにしても不気味だ。まだ若い少女が被害に見舞われたら恐ろしかろう。私は全く怖くないが……。
「だてにうん百年生きておらんからな」
何をしてくるかがわからぬ存在の方がよほど恐ろしいものよ。
その点、メリーはある程度何をやるかがわかる怪異だからな。
『私、メリーさん』
『今、あなたの後ろにいるの』
「そうか、ご苦労」
パチンと指を鳴らすと、結界が作られる。私の血を利用しているからか周囲が若干赤く見えるのがなんとも……ホラー感が出るな。仕方のないことではあるが。
「お、おまえ……違う。違う違う違う……! あの子はどこ」
「すでにお前が殺しただろうが。……ふむ、廃れた血筋だったとは聞いていたが小物にしては確かに魔力が高いように感じるな」
そう、私に依頼が回ってきたのは霊能力者の血筋のものが殺されたからだ。
正直に言うと、そんな血筋の癖に人形供養を怠ったことを考えると自業自得だと思うのだが。
そして、偶然だが、最近近隣に洞窟型ダンジョンとやらが見つかったらしく調査に人手を割かれているために人員不足でもあった。それ故に、こんな小物の処分が私に回ってきたというわけだ。
霊能力の娘はともかくとして、その友人は一般人であるらしいし、確かに暇ではあるので受け入れたが……。
「人形使いが好きなデザインだな」
「にゃー…… (たしかにー……)」
私では浄化ができぬゆえに厄介でしかないと思っていたが処分方法を指定されているわけでもないし、とりあえず捕まえてみるか。
読んでいただき、ありがとうございます。
〇フェリクス・E・ドラクル
吸血鬼の夫婦から生まれたうん百歳の吸血鬼。かつてはとある地域を支配していたが、後継者に『魔王』を譲って引退。その後、各地を旅してまわって、食事とゲーム目当てに日本に落ち着いた。
アルバイトとして、ハンター協会の手伝いと対魔防衛学園の戦闘術講師をしている。基本的には家に引きこもってゲームをしている。
家族は使い魔である白猫アルテ、養子のラウル。
以前、マルスカートというゲームにはまりすぎて36時間ほどかじりついた結果、ラウルにかなりガチで叱られたことがある。その後、一週間ほど無視されてかなり凹んだ。