クッキー狂騒曲
「裏の空き地、往生さんに売ったんスね」
「売ってない。貸しただけだ。やらかせば追い出す」
「家、建てさせといて……」
住む場所がないと泣きついてきたのはやつだぞ。要らん事をすれば追い立てる。絶対にだ。
まぁ、甘えはあるものの、基本的にやつは性格が悪いわけではない。隣人としてはまだマシな部類だろう。
「たまに手合わせとかしてくれますかね」
ワクワクしたような声でそう言うラウルに「頼んでみればよい」と返して本のページを捲った。
まぁ、そのあたりはやつが暇ならば「いいよ! ついて来られるか……俺のスピードに!」などと言いながら乗ってくれるのではないか? ちなみに、このセリフは以前、後輩にしていたものである。お前、スピードではなくパワータイプだろうと少しだけ突っ込みそうになった。楽しそうだったので、放っておいたが。
「後輩! 私も一緒に頼みたい!! 行くときは誘ってくれ」
「勝手に行け」
「そんなぁ!」
この二人も随分仲良くなったものだ。そう思いながら顔を上げると、菓子の取り合いをしていた。
「……何をしてるんだ、お前たちは」
「ドラクルさんが作ったクッキーが美味しくて……後輩だけいっぱいだからもう少しくれないかなって」
「うるせぇ。フェリクスのクッキーは全部俺のもんだ」
「そんなことない。私も食べる」
……ヘスティアにやったクッキーのあまりが取り合いされていた。確かにラウルは食べる量が元々多いから、相応の量を残していたが、もしかして小娘も結構食べる方なのか? マデリーンの食べる量を参考にしたのだが……。
「はぁ……それならば、これを食べるといい」
「いいの!?」
「それ、フェリクスの分だろ」
「別に構わん。自分で作るよりも店で買う方が美味い」
手間もかかるしな。ラウルたちが本当に喜ぶものだからたまに少しだけ作ってみるだけだ。こういうのも趣味と言っていいものか。
大喜びで私の皿を持っていく小娘を見ながら紅茶を飲む。普段はコーヒーだが、たまには紅茶もいいものだ。そういえば、お中元でもらったいい緑茶も残っていたか。こんどネットショッピングで合う菓子を仕入れるか。
「アンタ、意外と甘いもん好きなのに」
「私は私の菓子がある。気にするな」
腹ペコのラウルでも私の菓子には手を出さない。理由を聞くと「……高級だから」と言っていた。確かに、そこそこ値が張るな。それに、ラウルは一度食べ始めたら皿が空になるまで止まらない。その自覚もあるのだろう。
ひたすらクッキーを食べている高校生組をよそに、豆太はお行儀よく「ごちそうさまでした」と手を合わせていた。賢い。
「フェリクスさん、美味しかったです!」
「それはよかった」
にこにことお礼を言う豆太。こういうのを見ると「また作ってもよいな」と思う。
「そういえば、ヘスティアさんは喜んでいましたか?」
「いや、なにか……喜んで、いたのか? あれは」
クッキーを掲げて跪いていたが……。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ちなみに、ヘスティアは呆れたジークに連行された。
「どんどん症状が悪化している気がします」
せやな。




