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引きこもり吸血鬼の怠惰なる引退生活  作者: 雪菊


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Sランクハンターのデュラハン


 旅行を終えて帰ってくると、次はアルテに引っ張りまわされたが……。これでしばらくは何もやることはないだろう。

 子どもたちは学校だし、ヘスティアも少し遠くへ仕事に行ったそうだ。これで私ものんびり引きこもれるというもの!


 そう思っていた時もあった。



「いやー、すんません! ドラクル先生!! 先生のダンジョンがあんまりおもしろかったもんで、つい感想を言いたくなって来てしまいました。許してください、俺の顔に免じて。まぁ、俺首から上ありませんけど! HAHAHA!」



 ……なんか、やたら騒がしいのが来てしまった。せっかく安らかに眠っていたというのに台無しだ。本気でぶん殴ってもいいか、と少し考えてしまったまである。

 自分で言った通り、目の前の男に首はない。やたらと強そうな黒い馬を引いており、屈強な身体をしていることが見た目からわかる。

 こいつはデュラハンという種族として生まれた日本人男性である。名は往生 太郎。笑い声を聞いた者はこの名前を聞くと、絶句するか腹を抱えて笑う。


 こいつは上は特別ランクのSSS、下はFランクまであるハンターの中で上から三つ目のSランクを最年少で獲得したかつての教え子である。去年の卒業生であることを考えるとその昇格の速さが伺えよう。



「太郎。貴様、京都には行かなかったのか?」

「あれですか? いやぁ、あんま興味なくって。こっちにいればいざってとき、ドラクル先生を頼れますけど、向こうに知り合いはいないし、気合入れてかなり早くランク上げたんで恨み買ってますからね。やらかすと見捨てられます。俺のモットーは命大事になんで。まぁ、他人から見れば首ないからもう死んでるようなもんらしいけど!」



 死を招く者のモットーが命大事にとは……。従来のデュラハンが聞けば気絶するかもしれんが、太郎は突然変異型だからな。

 ちなみに、太郎の場合は特に家族から迫害されていたという事実はない。むしろ同じように陽気な人物だそうだ。

 父親に会ったことがあるが、「いやぁ、息子の太郎は俺に似て年々男前に拍車がかかってますよ! まぁ、顔どころか首から上ねぇんだけど!」と反応に困ることを言って笑っていた。男前かどうかはわからんが、性格は間違いなく父親似だろう。



「それで、先生のダンジョンを一通りクリアして来たんすけど、質問いいですか?」

「なんだ?」

「なんで四十一階層からいきなり海になるんですか? しかも、引きずり込んでくるめんどくさいやつ大目でしたよね。というか、一度引きずり込まれた上に墨吐かれてえらい目にあいました」



 なんでって、そんなもの私が経験した腹の立つことを多くの者たちに味わってもらいたかったからだが?

 私だけがあんな目にあって、他の者は報酬でにっこりなんて許せんからな。その階をクリアしたら帰ることができるようにしてやっているだけかなり良心的だと思うのだが。



「あと、最後のタコ? イカ? 鎧被ってるせいでどっちかまではわかんねぇけど、あの鎧かなり硬くないですか? どうやって倒したんですか?」



 中々に苛立ってくれたらしい。そんな事実に思わず笑顔になってしまうな。



「……めちゃくちゃ嬉しそうな顔しますね」

「いやぁ、思った通りのリアクションをしてくれて、私はかなり満足だ。ちなみに、海系のあれは私が味わった苛立ちを皆に味わってもらいたくて再現したのだ」



 Sランクハンターがこれだけ苛立ってくれたのだ。頑張った甲斐があるというものだ。



「まぁ、一度通しでクリアするのは腕試しにもなっていいですね。」

「そういう趣向のダンジョンだからな」

「自分の力量を量り間違えると死にそうなところも含めて、俺は好きですよ」



 そのあたりの意図も勘付くとは素晴らしい。



「それはそれとして、ムカつくんでタコの差し入れを持ってきました。ちゃんと美味しいタコですよ」

「要らん」



 というか、見たくない。



「そう言わずに。見てください。ラウルくんがたくさん食べると思ってたくさん用意しました」

「貴様、人の話を聞け」

「ちゃんと姿がわかる形にしてあります」



 太郎、貴様、嫌がらせをしにきたな!?


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


往生(おうじょう)太郎(たろう)

 国立対魔防衛学園OBでフェリクスの授業を受けていたデュラハンの青年。

 両親は人間で突然変異的に爆誕。普通に陽気に生きてきた。

 戦闘センスの良さから、サクッと高ランクになってしまったが、彼自身のモットーは『命大事に』。

 今回は例のダンジョンの最後らへんがフェリクスの嫌がらせだろうと思ったので、それを返しにやってきた。

 ムカついたので。

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