家族旅行4
夕食後、軽く散策した私たちは今、のんびり風呂に入っていた。
「大きな風呂というのもたまにはよいな」
「ヘスティアさんはフェリクスと一緒に入れないのを嘆いてましたけどね」
「どうせ一緒に入っても鼻血を出して倒れるだけなんですから、諦めればいいのに……」
その分、散策の際はぴったりくっついて離れんかったがな。ヘスティアが私を見る目がたまに怖いのだが、あれは大丈夫か? 私から何か妙なものが出ているのかと疑う時があるぞ。
「豆太、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳はどちらがいい」
「うーん……僕はフルーツ牛乳ですね」
「では、このあと買いに行こう。ちなみに私はコーヒー牛乳を買う予定だ」
気分を変えて豆太に話を振ると嬉しそうに「楽しみです!」と言っている。
「俺もコーヒー牛乳がいいっス」
「私はフルーツ牛乳がいいですね」
「普通の牛乳も美味いですよね」
「わかります」
確かに、風呂上がりの牛乳というのはどうしてああも美味いのか。不思議である。
風呂の中の酒も美味い。部屋から見える紅葉も美しく、格別だった。
「飯も美味いし、こんないいとこあるもんですね」
「厄介ごとを押し付けられたりしてないんですか?」
「厄介ごとは片付けた後だ」
まぁ、厄介ごとなんてそこかしこに転がっておるがな。
ニュースを見ていればやれどこのダンジョンが危ない、新種の魔物が云々よくやっている。そのあたりは、各国の為政者や魔王が差配しておるし、私が考えることではない。いやあ、一般魔族というのは気楽でよいなぁ!
「そういえば、あの古狐が出張っているとはいえ、京都の件にフェリクス様が招集されていないのは理由があるのですか?」
「何。単純に適性の問題よ」
あの塔型ダンジョンに私が派遣されたように、清明のジジイが名指しで派遣されたのには理由がある。実際、私はあまり呪術を解くのは得意でないしな。石化させたり、若干精神に干渉するのはできるが。呪い合いは正直かなり面白くない。相打ちの可能性がそれなりにあるのが本当に良くない。
私はそれなりに強いから耐性があるし、一定以上の呪いしか効かない体質だが、逆に言うと一定以上の呪いに関しては分が悪い。
適材適所、というものだな。
「単純な破壊活動が必要ならば第六天はいつでも私を引きずり出すだろうな」
「それはまぁ……迷惑なことにいつものことっスね」
とはいえ、第六天は神やら天使やらが絡むダンジョンになると自分で出向くし、ただのんびりしているだけではないからな。ある意味、この国で一番忙しい存在なので、かなりウザいが言うことを聞いてやる気にはなる。
ところで、女子風呂の方が若干騒がしいが、何かあったのだろうか。
「そろそろ出るか」
「フルーツ牛乳―」
ルンルンと弾むような足取りで脱衣所に向かう豆太の尻から尾が出ているのは指摘すべきだろうか? まぁ、気が抜けている証拠だろうし、着替える時に気が付くだろう。
そんなことを思いながら、我々は風呂から出て各自飲み物を手にしていると、ヘスティアと小娘が出てきた。アルテは風呂が嫌だったらしく、私が風呂から出てきたのと同時にやってきて牛乳だけを要求してきた。うむ、お前はそういうところがあるよな。
そう思いながら顔を上げると、ヘスティアと目が合った。
「湯上りの、フェリクス様……っ!!」
鼻血を吹いて倒れた。
……この娘、日本に来てから私への耐性が下がっていないか?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ちなみに耐性は下がっている。
弟は頭が痛い。




