家族旅行1
「フェリクス様。私はかなり頑張りました。主に、ドレスを着ようとしていた姉さんを止めることを」
「それは……ご苦労だったな」
ヘスティアたちを迎えに行った際のジークの第一声はそれだった。
というか、ヘスティアはなぜドレスを着ようとするのだ。私はどこに行くか、移動手段等全て伝達しているはずなのだが。
私たちは用意した車に乗り込み、目的地へ向かう。
電車や新幹線は人が多いし、私とヘスティアが揃っていると怖がられるからな……。
それに、この車はいいものだぞ。テレビがついているし、いろんな種類の飲み物や軽食も置いてある。運転は自動なのでする必要もない。人を雇ってもいいのだが、これも私とヘスティアが揃うのならば、普通の人間には嫌がられるのだ。低位のハンターも怖がる。中位以上のハンターをたかが足として利用するのももったいない。そうなったときに便利なのが自動運転魔道車だ。完成したという情報を聞いた時、いち早く購入を決めた。
「便利なものですねぇ」
「居心地もよかろう」
はしゃぐ子どもたちを見ながら、ヘスティアとそう話す。
ラウルが幼い時に、大人しくできない、シートベルトはねじ切る等でとても車に乗せることができなかったため、購入したのは今となっては笑い話だろうか。ちなみに例外として、何か食べているときはこちらが心配するほどおとなしかった。
この形式の車であれば、目的地に着くまで私があやせばいいからな。便利であった。車の魔法使いには感謝してもしたりんな。そういえば、当の魔法使いは車のとか呼ばれるのを嫌がっておったか。なんでもドラゴンカーなんちゃらの伝道師と呼んでほしいとか……。これを作った理由も聞いたはずだが、あまり思い出したくない理由だった気がする。まるで思い出せん。
「私としては、どうしてこんなに便利なものがあまり普及していないのかが気になりますね」
「ああ。単純な話だ」
「単純」
「高い」
ジークは私の身のふたもない言葉に「なるほど」と言って頷いた。
そう。これは画期的な発明であったし、防御性能もずば抜けていて本当に素晴らしい。自身で魔力を注げばガソリンが必要ないという利点もある。
しかし、一般の者が購入できるような値段ではない、とだけ言っておこう。今のラウルが値段を見れば卒倒するかもしれん。本人はいつからこれが家にあったかなど覚えておらんだろうが。
「なんでそんなもん買ったんスか? フェリクス」
ほら。不思議そうな顔でそんなことを聞いて来る。
「私が欲しかったからだ」
間違ってはおらん。
私の好きな色、好みそうな内装等でそれが事実であると思ったのだろう。ラウルは「アンタも妙なもん好きですよね」と言いながらサンドイッチを齧っていた。
「これ、美味いっスね」
「久々に私が作ったものだ。腕は衰えておらんだろう?」
「いや、アンタ普通にちょくちょく作ってんじゃねぇか。そもそも、フェリクスの料理はずっと美味い」
「え。それ、フェリクス様の作ったものなのですか!? 私の、私の分も残っておりますよね!?」
「あれが最後の一個ですね」
ラウルが指さした先に居たのは豆太である。
食べようとしていたサンドイッチを悲しそうな目で見つめ、ヘスティアに差し出そうとする豆太だったが、「いえ。さすがに子どもからご飯を奪う真似はしませんわ」と断られた。
「フェリクス様……」
「あんなもの、いつだって食べられるだろうに……。次に作ったときに届けてやろう」
その言葉にヘスティアの表情が明るくなった。
そんなに喜ぶものではないと思うのだが。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ヘスティア「フェリクス様の手料理だから欲しかったのですわ! 別に私が食いしん坊なのではありませんからね!?」
しかし、フェリクスからは『食いしん坊』の烙印をすでに押されているのだった。
哀れ、ヘスティア。




