ダンジョンクラフト
「ダンジョンボスを倒してもダンジョンが消えないやつだな」
支配型ダンジョン、というやつだ。
多くのダンジョンはダンジョンボスを倒した時点でアイテムを残して跡かたなく消えるが、この支配型ダンジョンは違う。ボスを倒した時点で支配権が『倒した者』に移るのだ。この場合は私が今の塔型ダンジョンの支配者、ということになる。
クリスタルに触れる前にアルテを呼んだのは支配者としての部屋に行く際にそうしておかないと、彼女をあのボス部屋に残すことになるからだ。
まぁ、残していたところでおそらく何もないが、世の中に『絶対』というものは存在しないからな。リスクは排除しておくに越したことはない。
転移した場所には塔型のクリスタルがあった。それに触れると脳内に「イラッシャイマセ アラタナ マスター」という声が響いた。気持ちの悪い感覚だ。これも慣れれば達成感に変わると言っていた変わり者もいたが、私は別にダンジョン攻略を趣味としていないのでな……。
「今の設定は……ふむ。スタンピードは永久停止にしておいて、せっかく五十階層もあるのだから、鍛錬にちょうどいいように一階から徐々に難易度があがる仕組みにしておくか」
一度入ると脱出用の魔道具を持っていない限り出ることができない仕組みであったし、各階に復帰・帰還ルートも作っておくか。構築エネルギーが足りない? はぁ。では、先ほど出たやたら大きくて光る魔石を使用しておくか。私は要らんし。
あとは、どの階まで来たかがわかるセーブ機能も付けて……これは割と便利かもしれん。
「戦いなのだから、自分の状態を把握できん者がプロでいる方が悲惨だ。命の保護とかは要らんな」
ドロップアイテムは……そんなに出さんでいい。鍛錬に使う塔にそこまで求めるのはわがままだろう。
しかし、褒美は必要か。十階層ごとに大きい魔石と稀によいものが落ちるようにして……またエネルギー不足?
「適当に集めていた魔石でも突っ込んでおくか」
無駄に魔物が多かったので、集まった量もそれなりだ。魔石を入れるのに使っていたマジックバッグを傾けてジャラジャラと入れていく。
「もったいなくなぁい?」
「大きい物はさっきの物以外置いているし、この量はいらんだろう」
「でも、お金にはなるんでしょう?」
「ここに入場料をかけて金をもらえる仕組みにでもすればよかろう。それに、我々は金はあるのだし」
「それは確かにぃ?」
入るやつがいるかは知らんが。
まぁ、多少の需要はあるだろう。
ご褒美ドロップは初回確定でその後は百回に一度に設定することでエネルギー消費を落とす。最終到達点はあの武装タコでよいだろう。あとはこの部屋の立ち入りを私とアルテのみに変更し、最終地点のタコを倒した場合は『congratulation!』と表示するのと宝箱演出。入口へのワープ地点が出るようにして……。
よし。帰りに協会に依頼して中を見てもらうか。
「それでは、帰るとするか」
そう言って、このクリスタルに再度触れれば、塔の前に戻ってきていた。
とても疲れたな。
「ドラクル様、無事の帰還をお待ちしておりました」
「ご苦労。一応、制覇は完了している。中は作り変えて鍛錬用ダンジョンにしておいた」
「たんれんよう、だんじょん……?」
「あー……身体が臭い。協会に寄って説明してさっさと帰るか」
「アルテ、お風呂嫌いだけどさすがに今は入りたぁい! 気持ち悪いもん」
唖然としていた協会職員は「待ってください! ドラクル様、説明! 説明をお願いします!!」と言って追いかけてきた。
ええい! 私は依頼も含めて話をしたいからそれは全部協会に行ってから……何? 依頼書もそこの対策本部で受け付ける?
ならば、時短になるし構わんか。
さっさと帰って、私たちは温泉旅行の予約をする。絶対にだ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
フェリクスはこの後、諸々説明を行い、家に帰って即風呂に向かった。




