殴ってやりたい
「うう……。しばらく海は見たくないかもぉ」
「どうして『塔』なのに海の階層があるんだ。人工物か大地に縁あるもので構成すべきだろう……!」
意味が分からん。誰だ、このダンジョンを作ったのは……! 殴ってやりたい。一発と言わず、相手が泣いて土下座するくらい殴りたい。
舌打ちをすれば、アルテと音が被った。我々は気が合う主従だな。
このクソみたいな塔に三日もいるのだぞ。舌打ちも出るというもの。登るだけならばそんなにかからんのだが、溢れそうな魔物もどうにかせねばならんからな。それに手間取った、というのが正直な感想だ。
それにしても四十九階層の海はカスだと思うが。
「引きずり込もうとしてくるタコの足……しばらく夢に出そうだ」
「フェル、うっかり引きずり込まれてたじゃん」
「……そうだな! おかげで髪が臭いったらない!」
心の底から身綺麗にするための魔道具を買っておくべきだったと後悔している。本当に自分が臭い。
腹いせに微塵切りにしてやったが。
「それで……やたら豪華な扉ということは五十階層で終わりか?」
「早く帰りたいね」
「全くだ」
そして、ちょっといい旅館を手配し、ゆっくり休もう。そうしよう。
「それでは、開くぞ」
「はぁい」
とりあえず風呂。帰って風呂だ。
絶対さっさとぶっ飛ばして帰るぞ。
私はそう思いながら扉を蹴飛ばした。気分はカチコミだ。
中にはガチガチに防具を身に着けたタコがいた。
「にくきゅーシールド」
肉球の跡がたくさん着いたシールドがやつの墨を防ぐ。この手の魔物の墨には毒が含まれていることも多い。気を付けるに越したことはない。
「爆弾は弾かれただろうな」
「投げなくてよかったねー?」
全くだ。前の階層が無駄玉になってしまったから警戒していてよかった。
それにしても硬そうな甲羅だな。
「あの程度で身を守れていると思われては癪だからな。少し、捌いてくるとしよう」
鬱憤も晴らそう。
私は大鎌を握り直し、足を踏みこんだ。血で残像を作って後ろに回り込む。刃を入れる前に私に気が付いたのか防具で防ごうとするが、遅い。
タコに当たった刃で傷つけた身体から血が出たため、それを利用して血の刃を作る。自分の血に傷つけられるなどとは思っていなかったのか、どこか怒っているような様子を見せるが、次の瞬間、硬化させた大鎌の刃が鎧を貫いてやつを切り裂く。
本当に手間取らせよって。
消えたタコが居た場所に輝くような、そして大きい魔石と三つ又の槍が落ちた。そして、目の前に大きなクリスタルのような物体が現れる。
「アルテ」
「はーい」
アルテと手を繋いでからクリスタルに触れると、それは激しく輝き、数秒の後、周囲の様子が変わる。場所が変わるならば、アルテを呼んだのは正解だったな。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
フェリクスは槍を見て「いらんが……」って言うと思うし、アルテは「どうせ落ちるならおさしみにして!」って言う。




