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土下座親子

 目の前には土下座をする親子の姿があった。

 壮年の男は安倍(あべ) 春清(はるきよ)

 襲撃者であった少女が安倍 千明(ちあき)



「申し訳ございません! 友好魔族の方に斬りかかるなど……」

「まぁ、斬りかかられることには慣れておるから構わんが」

「慣れないでください、フェリクス」



 ラウルにそう言われて肩を竦める。

 我々は突然変異によって生まれた種族である。それ故に、発生当初はかなり迫害されたものだ。親戚など、味方であった者に裏切られて死んだしなぁ。我々は『そういうもの』、で別に構わんのだが、今の世代の子どもたちは正しく受け入れられることを望む。



「友好、などとは言っても口だけである者がまだ根強く残っておることは把握している」



 私の発言に千明は不服そうだ。

 彼女にとっては私のような異形の存在は認めがたいのかもしれんな。

 そんな私をよそに、彼女の父である春清は自分の娘にブチ切れていた。



「ドラクル殿がそう言ってくださるのはありがたいことですが、現在、今まで魔族と言われていた存在が、ダンジョンや魔物と同じように地脈異常が人間に変異を起こしたものであるとすでに解明されております。そんな中で、今まで迫害を受けていたにも関わらず協力体制を築いてくださる方に喧嘩を売ったのです。簡単に許してはなりません」

「まぁ、こういった意識は差別に繋がるだろうしな。だが、そういった教育は親の役目であろう?」

「その通り、私どもの責任です。誰に、何を吹き込まれたのかはしりませんが、必ず再教育いたします。ですので、どうかこの度は……」

「幼子に牙を突き立てられた程度で、どうするつもりもない」



 そう言って肩を竦めた私に、春清は深々と頭を下げた。しかし、それを見た千明は「なんで魔族になんか頭を下げるのですか、父上!」と声を荒げる。



「魔族とは、邪悪な心を持つ、汚らわしい存在でしょう!?」

「殺していいっスか?」

「短気を起こすな、ラウル。しかし……千明とやらは対魔史を学び直す必要がありそうだな」



 おっと……思ったよりも呆れた声が出てしまった。

 しかし、まぁ、これくらいは仕方のない話だろう。



「でも、もう三十年以上も前にその説は否定されてるんですよ。この与太話」

「魔族などと呼ばれているが、実際は突然変異の人間。それはどこでも習うはずなのだがなぁ」

「本当に……忌々しいことこの上ない話ですよ」



 ラウルが怒るのも無理のない話だ。

 彼もまた、魔物ハンターをやっていた人間の夫婦から生まれた『人狼』だ。両親共に魔族ではない。彼等もまた、魔族と呼ばれる存在は、邪悪で、忌むべき存在であると信じていた。

 しかし、その夫婦から生まれた子は、狼として生まれてきた。

 浮気をした、人間ではないのに嘘を吐いたなどの修羅場を経て、DNA鑑定をした結果、子は夫婦の子で間違いなかった。

 そうなると、母親は自分の子が、余計に気味悪く思えた。子を悪魔と呼び、触れることすらできない。目を離すと殺そうとすらした。精神がより不安定になり、そんな彼女を案じた父親は子を抱いて、かつて殺し合う仲だった私のところに駆け込んだのだ。


 そう、あの阿呆。私のところにやってきて「子どもを育ててほしい」と土下座したのだ。

 生かそうとしただけマシだ。しかし、子より妻を選ぶとは……。あの女、次の子も魔族としての特徴を持って生まれていたら今度こそ子殺しをしていたぞ。いや、まぁ、結果として第二子と三子は『人間』だったが。


 それでも、実力が認められたハンターである父親の方が魔族もまた『人』であると認めたことで、風向きはまた少し良くなった。子殺しも、捨て子も更に減少した。それだけは良かったことだろうか。


 だから、こういった言説を聞いたラウルが怒るのも、仕方のない話だ。



「ふむ……。安倍の子の割に歴史の成績も悪いな」

「歴史なんて、魔族によって塗り替えられた紛い……むぐぐ」

「……身内に陰謀論者でもいるのではないか?」

「早急に、引き離し、本家にぶち込みます」



 春清の額に青筋が見える。本当に怒っているようだ。

 ラウルに目を向けると「……フェリクスの好きなようにしてください」と不機嫌そうに言われた。本音では一発くらいぶん殴ってやりたいのだろう。体質と言うのは自分の意思で変えられるものではないのに、それを嘲笑されるのは腹が立つだろう。



「それにしても……この国はその娘の忌むべき『魔王』のおかげで比較的平穏であるのだ、と教え込んでおくことだ。次は殺すぞ」



 あの親がラウルを私に捧げた時点で、これは私の子だ。

 子を傷つけられて怒らない親はいない。譲歩はこれが限度であると知れ。



「あ、こいつら失神しましたよ。フェリクス」



 ……殺気飛ばしたの、やりすぎだったか?



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