甘い大人たち
子どもが真面目だと、助かるものである。
要するに、豆太は割と早々に変化をものにした。まぁ、化け狸だからな。才能があったのだろう。
「それでお祝いにケーキを買おうとするの、フェリクス様は少し子どもたちを甘やかし過ぎでは?」
「懐かしいな、ジーク。お前が吸血鬼として戦えるようになったときは私が手ずからアップルパイを焼いたものだ」
「あの、はい。美味しかったです」
そうだな。甘いかもしれんなぁ? 昔から。
そういう気持ちを込めて笑顔を向けると「揶揄ってますね? フェリクス様」とジト目で見られた。
お前もまた我が子どものようなものだ。出会ったときは小さかったものな。
「出会ったときは、フェリクス様だってもう少し小さかったですよ」
「ああ、人間で言う十四、五くらいの姿の時であったな。懐かしい話だ」
その時点で倍以上の年齢だったがな。魔力が強かったからか、私の成長はかなり遅かった。今はそういった成長を阻害するような仕組みを解決する薬もあるが、当時はそんなものはなかったものだ。何も恥ずかしい話ではない。
「手作り! いいですね」
「買いに行くのは取りやめて家で作るか?」
豆太がぴょこぴょこ跳ねるのを見てそう尋ねるが、少し迷って首を左右に振った。
「家で作るのはその……量的に辛そうなので」
普段のラウルの食べっぷりを思い出したのだろう。豆太はそう訂正した。
我が家はたくさん食べるのがいるからな。金を考えなければ外で食べる方が楽なことは確かにある。今は家事用オートマタたちがいるのでかなりマシだが。
「ヘスティアも夜には来るのだったな」
「はい。今日はフェリクス様とお買い物に行けず、大変悔しがっておりました」
「……私との買い物なんて何も楽しくないと思うが」
まぁ、ヘスティア曰く「一緒にいられるならばそれだけでいい」ということなので、場所や買うものなどなんだっていいのかもしれんがな。
それはそれとして、来ないならば彼女のケーキは私とジークが勝手に選んでもよいだろう。
「フェリクスさん、あそこに本屋が!」
「三冊までだぞ」
嬉しそうに頷く豆太。うむ、嬉しそうなのはよいが、耳と尻尾がでておるぞ。
伝えるために耳を突くとハッとした顔をする。ぎゅっと目をつむって力を抑えるとポンッというどこか可愛い音でそれが消えた。
「僕もまだまだです……」
「何、このくらいならば大したことはない」
見ているだけならば子どもであることも相まって可愛らしい。
道満殿の影響か読書が趣味なのも、ラウルや小娘とはまた違って面白いな。
「ですが、小学生であるうちに制御できないと大変ですからね。フェリクス様もそこは考えておいてくださいね」
「そうだな」
「はい! 頑張ります!」
ジークはむんっと拳を握る豆太の頭をしっかり撫でていた。
おそらく、お前もあまり私のことをどうこう言える性格はしていないぞ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
言ってることはちょいちょいあれだけどジークもせっせと可愛がっている。




