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引きこもり吸血鬼の怠惰なる引退生活  作者: 雪菊


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おじさまと子狸


「フェリクス、客が来てますよ」

「こんな時間に来る気遣いのできる客?」

「いや、普通は嫌がらせになるような時間帯なんスけどね……」



 ラウル、この家は吸血鬼である私が家主なのだぞ。嫌がらせならば朝一番に決まっているだろう。ちなみに、それをやってくるのは清明である。あいつ、地味な嫌がらせが得意過ぎる。私だって相手の生活に合わせるくらいの気遣いはするのに。

 逆に、そのあたりを考えてくれるのは蘆屋道満という男である。向こうもジジイに絡まれることが多いからか、とても同情してくれる。ちなみにこの国で手に入る偽血錠は道満殿が作ったものである。足を向けて寝れぬな。



「道満さんです」

「すぐに向かう。……道満殿が好むような菓子はあっただろうか。いや、この時間ならば酒の準備をした方がいいか?」

「あのジジイとは対応が違う」



 性格の差ではないか?

 そう口に出そうとして、やめた。

 あのジジイ、どこかで見ている可能性を否定できない。忙しくても情報収集をおろそかにするタイプには見えない。というか、どこでそんなこと聞いたのかと問い詰めたくなることを知っていることが多いので、絶対何かやっている。

 ……私も人のことを言えるものではないが。


 エマに準備をさせて、部屋に向かうと疲れた顔の道満殿がいた。



「やぁ、久しぶりだね。フェリクス君」

「ああ、よく来てくれたな。道満殿」



 握手をすると、少し安心したように笑顔を見せる。



「本当に申し訳ないのだが、頼みがあってきた」



 ふむ。他ならぬ道満殿の頼みならば少々頑張ろうと思うが……。その。

 ……膝の上にいる動物絡みでは、あるまいな?



「この化け狸の子どもなのだが」



 動物絡みだった。



「長期出張に行くことになって、預かり先を探しているんだ」



 あの蘆屋道満が、長期出張。

 ちょっと理解しにくい言葉ばかり並ぶな?



「まだ変化が苦手で、人型を取れない子でな……。出張先は危険なこともあって、預け先を探していたのだが、見つからなくて」



 曰く、身寄りのない化け狸を引き取って、一緒に暮らしていたらしい。しかし、断れぬ筋から海外への出張を頼まれてしまい、急いで預け先を探していたが、みんな色んな理由をつけて断るのでどうにも困っている。それで、友人である私に頼みに来たということらしい。



「さすがの私も、たぬきと暮らしたことはないな」

「可愛いぞ」

「まぁ、それは同意するところだが」



 軽く調べてみたが、通常のたぬきは飼育がかなり難しいし許可がいるらしい。

 これは、断られても仕方のないことだろうな。



「化け狸、か。意思疎通に問題はないか?」

「変化はできないが、一応話せはする。……私にも変化に対する知見があればよかったのだが」



 それなら私じゃなくて清明に……いや、性格に影響が出るか。子狸が「よろしくです」とぺこぺこ頭を下げる。まぁ、こういう子どもならいいか……?


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


蘆屋(あしや)|《道満》

 平安時代から生きるすごい陰陽師(そのに!)。フェリクスのお友達。フェリクスに懐かれている。

 日本で偽血錠を開発したすごい薬師でもある。

 身寄りのない化け狸(♂)を引き取って育てている。可愛いものが好き。

 フェリクスの家に訪れる際はちゅーるの詰め合わせをくれる。なので、アルテにも懐かれている。

 夏・冬におっきなハムを送ってくれるのでラウルにも好かれている。

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