少しの羨望
清明のジジイに指定された日時を伝えると、小娘姉はルンルンで帰って行った。
「あれは本当にいいのか?」
「あれが姉の選択。仕方がない」
あの清明が良縁を持ってくるか少し不安になるのは、私がやつのことを大変厄介な男であると考えているからだろう。しかし、やつにそっくりとかそれはそれで大丈夫か? 顔だけ似ているとは正直思えんのだが。性格の悪さや女癖まで似ているようなら正直おすすめできないが。
……まだ見合いの段階でこういうことを考えるのは、良くないな。小娘姉たちがうまくいくとも限らんわけだし。
「それにしても、お前の家族関連は全てジジイに任せたはずだったのだがな」
「祖はあれで普通に仕事しているし、忙しいから……」
そう。あのジジイは、あんななのにかなり真面目に仕事をしているので責め難いのだ。この国の天皇等要人のための結界を一部担当していたり、倒せなかった魔物の封印を行っていたりと手広く仕事をしている。まぁ、その魔物のいくつかは私が殺したが。第六天に日本に住む際の条件として提示されたからな。それでも『全て』ではない。緊急性の高いいくつかだけだ。そういった爆弾は他の国にもあるので、大したことではないが。
「そういえば、ドラクルさんの仕事を祖が一部引き受けていると聞くが、見ていると二人の能力はかなり系統が違うのではと思う。大丈夫なのか?」
「まぁ、さすがにやつの手に余るような始末は第六天からこちらに振ってくるはずだ。それがないということは大丈夫だということだろう」
やつが抱えていた仕事も、いくつかは安倍の連中で手分けをしているだろうし、そんなに心配するようなことにはなっていないはずだ。もし、それができていないとすれば、現在の安倍家自体の価値が薄くなるしな。そうなると、清明は見捨ててもいいレベルだ。
「そういうものか?」
「我々は代わりがそう簡単に見つからないくらいの強者ではあるが、だからこそ倒れた時に少しばかり周囲に影響が出ることも理解している。無理をする必要が出てきたならば互いに助け合うことくらいする」
「ドラクルさんも祖を助けてあげるということ?」
「必要があれば、だがな」
それは反対の立場でも変わらん。いらん面倒が増えるくらいなら協力はするさ。まぁ、あのジジイとは「人外の発想ほんまわからんわぁ!」と叫ばれつつ共闘したことのある仲ではあるしな。しかし、そんなにおかしいか? 敵だぞ。多少躯を手荒に扱ってもよいと思うのだが。
「それにしても、ジジイそっくりの若者か……あまり顔を見たくはないな」
「本当に似ているぞ。噂では妖狐らしいが」
「ああ、安倍家にはたまに現れるな」
「何も知らなかったのが恥ずかしい」
そう思えるならば大丈夫だ。少しはいろいろと知ることの重要性を理解しているようで安心する。言ってもわからんやつはわからんからな。
そう思って小娘の頭を撫でる。
「……ドラクルさんって」
「なんだ」
「そういうところが『お父さん』なんじゃないかな」
どういうところだ。
そう口に出そうとしたが視線が集まっていて、彼等は深く頷いている。
「本当にお父さんならよかったのに」
小娘がそう呟いた瞬間、職員室の扉が開いてラウルが現れた。
「あ、いた。そろそろ用事終わりました?」
「ああ。では、小娘もそろそろ帰るぞ」
声をかけると、小娘は頷いて近くに来た。
「ちょっとだけ、後輩が羨ましい」
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