姉妹喧嘩
小娘の姉は清良という名である。
面倒くさいので捕獲して職員室に連れて行き、小娘に引き合わせてみると、「あ、姉」と呟いた。呼び方はそれでいいのか。
「久しぶりね、千明。清明様の養子になんてなって、調子に乗っているのではない?」
「あれはそんなにいいことじゃない。どうせだったらドラクルさんがお父さんの方がいい」
「私はお前のように手がかかる娘を持った覚えはない」
そう言うと、教師一同から「え?」という言葉が発せられた。それは一体どういう意味だ? 貴様ら。これは預かっているだけだぞ。
「祖はやたら短いスカートを履かせたり、胸が零れ落ちそうな服を着せようとする。ドラクルさんが用意してくれる服の方がいい。あと、ドラクルさんのホットケーキが好き」
「え。清明様はちょっとえっちな恰好がお好きなの? 試してみようかしら」
「? 姉はどっちもボリュームが足りていないから同じ服を着ても普通にしかならない」
「なんですってぇ!? ちょっと胸がデカくて足がむっちりしてるからって!」
「むっちりはしていない。ナイス程よく筋肉がついた足」
「二人とも、体型についての話は公にする話ではない」
窘めると、小娘は不思議そうな顔で「わかった」といい、清良は「ふん!」と言ってそっぽ向いた。態度が悪い。
「ごめんなさい、ドラクルさん。姉は祖以外に対しては誰に対してもこんなだ、です」
「そうか」
面倒な娘である。
「ともかく、そういうことなら直弟子を辞退なさい!」
「私は別に祖に何か教わっているわけじゃない。祖に両親と祖父母の茶々入れの間に入ってもらうためにそうなったと聞いた。直弟子になりたいなら祖に自ら訴え出るべき」
小娘の言っていることがまとも過ぎて少し泣けてきた。
周囲を見ると、数名の教師が目を手で覆っている。気持ちが痛いほどわかってしまうな。少し前の小娘ならこんな話はできなかったろう。成長したものだ。
そう思って頷いていると、神前女史が苦笑していた。
「どうかしたか」
「いえ、本当に父親みたいだな、と」
そんなことはないと思うが……。
「だいたい、姉は祖の顔が好きなだけだろう。別の男にしておけ」
「嫌よ! というか、顔だけじゃなくて筋肉と呪力も好きよ!」
「金は」
「好き」
なんだ、この姉妹。なんか、この会話を聞いていると逆に仲が良い気すらしてくるな。
清明には一応連絡しておいたが、めちゃくちゃ面倒そうな声で「ええ……一番面倒なんがそっちおるやん……」とボヤいていた。
ジジイは「僕は胸が大きくてケツがデカい安産型の弁えたええ女が好きなんや」という発言をしていたので、なんというか、小娘姉はいろいろ諦めた方がいいと思うぞ。
とりあえず、条件を満たせば別の男でもよさそうだと言っておいたが、どうなるだろうな。
そんなことを考えていると、スマホが震えた。JOINが来ているな。
「うむ……。小娘の姉」
「何よ!」
「ジ……清明のやつの直弟子のひとりがドッペルゲンガーレベルでやつに似ているらしい」
「え……?」
ちょっとときめいた顔をしている姉に小娘がドン引きしている。いやまぁ、気持ちは少しわかる。これが実姉なのちょっと嫌かもしれん。
「見合いを」
「するわ」
ガンギマリした目をしているが、お前。これは清明のジジイが持ってくるような話だぞ。絶対にやめた方がいいと思うのだが。
え。それでもイケメンと会えるならそれでいい?
……私は止めたからな?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
〇安倍清良
千明の姉。めちゃくちゃ面食いで清明の顔と筋肉と呪力が大好きな厄介お花畑女。清明には避けられている。
妹と比べると色んなところがだいぶささやか。
成績は良いがこの通り、かなりアレな人物。父親が用意した見合い相手の顔が気に食わないという理由でぼっこぼこにしたあげく「なんだ、私より弱いんだ……結婚する価値ないじゃん」と言って数名のトラウマを作っている。




