抗えない誘惑
それは魅惑のおやつ
子どもたちを連れて近くのハンター協会までやってきた。受付に小娘を預けて、ダンジョン踏破の手続きをさせる。こういうのも経験だからな。
「つ、疲れた……」
「そうか。喫茶店で一服してから帰宅するつもりであったが、すぐに帰る方がいいか?」
「俺、あのデカいパフェ食いたいです」
「あっちの季節のパフェがいい!」
戻ってきた小娘がげっそりしていたのでそう提案すると、併設されている喫茶店で甘い物を食べたいらしい。
ハンター協会に隣接されているだけあって、メニューはちゃんと喫茶店のようだが、爆盛バージョンのメニューも置いているのが特徴だ。ラウルのように人の数倍食べる存在もちょくちょくいるからな。裏にあるレストランも手ごろで量がかなり多いメニューが多いので助かっている。
子どもたちがパフェに心躍らせながら喫茶店に向かっているのを追いかけて歩いていると、スマホに連絡が入った。
ふむ。ただの清明の愚痴か。放置だな。
「フェリクス、なんか頼みます?」
「コーヒーを頼んでおいてくれ」
「了解です」
「こ、後輩! フルーツがたくさん乗ったプリンがあるぞ……!!」
「あ、ここのプリン美味いぞ」
子どもたちはデザートに夢中だ。プリンにも悩み始めた小娘や「まだか?」と判断を急かすラウルを見ていると平和だなと思う。日本での生活はこういうのでいいのだ。
結局季節のフルーツを使ったパフェに決めた小娘を見て、ラウルが店員を呼ぶ。
注文を終えると、ラウルが思い出したように「そういえば」と言った。
「フェリクスの試し切りはいいんですか? メンテナンス終わったところでしょう」
「ああ。裏山で適当に終わらせた。……美味かったろう? 昨日のステーキは」
「おいしかった! です!」
ラウルよりも先に小娘が瞳を輝かせながらそう言った。
ああ、そうだな。思ったよりも大きな塊を食べていたな。小娘の場合はちゃんと動いているので大丈夫だとは思うが。運動量が足りなければエマが追いかけまわしているだろうし。
「ドラクルさん家に来てから毎日美味しいご飯が食べられる。とても嬉しい」
「さすがに食事は普通に食べていたんじゃないか? 特に異常な痩せ方もしていなかったし」
「でも、なんというか……地味だった」
「地味」
食事の感想が地味とは。
「曜日で何を食べるかが決まってて、全部和食。おやつはなし。私だって他の子みたいにオムライスやハンバーグ食べたかった。でも、みんなそれをわがままって言う」
少しふてくされた顔でそう言った小娘は「それに比べて」と続ける。
「毎日違う料理が出る。味付けも色々。お肉もたくさん食べられるし、ご褒美おやつも美味しい。最高」
人間って食事だけでこんなに懐く生き物なのか、と少し呆れた顔をしてしまうのは仕方あるまい。私はそこまで贅沢をさせているだろうか? 家庭によって『普通』は違うから何とも言えないのがむずがゆいな。
そもそも、ご褒美おやつなんてそこまでいいものではないぞ。私がレシピ通りに焼いたホットケーキやフレンチトーストなどの簡単なものだ。甘い物自体が小娘にとっては満足のいく代物なのかもしれないな。
それにしても、清明のやつ。しつこいな。
小娘の家族くらい、そちらでしっかり引き留めろ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
相変わらずごはんとおやつに弱い子どもたち。




