間抜けな襲撃
ラウルに「あれは高いから困るっス」などと言われつつ、なんとか皿を選んで配送してもらうよう手続きをして帰ると、家の前に制服姿の人間の女が立っていた。
そして、我々の姿を確認すると、「あなたが魔王……」と言って刀を向けた。
「ふむ……懐かしい名だな。だが、残念ながら私はもう『それ』ではない」
「問答……無用! てやーっ!!」
殺気立つラウルとアルテを制して、刀を血で作った剣で弾く。それを見た彼女は「吸血鬼……ッ!」と警戒するような声音で口に出す。
私がどういった存在で、どういった経緯でこの場所にいるのか知らない可能性があるな……。それは、何とも。
「度し難い」
彼女は私を現役の『魔王』だと思って挑んで来ている訳だ。で、あれば強敵と戦うにあたって情報を集め、仲間を集め、相応の武器を持って挑む。それが最低限の作法というものだろう。
しかし、目の前の子どもにはそれが一切ない。全てが欠けている。
「何をしにきた。まさか、本当に戦いに来た、などとは言わないだろうな?」
「それ以外に何がある!?」
「……話にならぬな」
「フェリクス、あとは俺がやりましょうか?」
「アルテでもいいよ?」
子どもたちの提案に首を横に振る。
この子たちに任せてしまえば、目の前の少女など抵抗するまでもなく死んでしまうだろう。
(それでも別に構いはしないが、あの制服は……なぁ……)
溜息を吐いて、ジト目で彼女を見る。
仕方なく、「かかってくるがいい」と口にすると、本当に、心の底から気に食わないという顔をしたラウルとアルテが一歩退がる。
少女は我々の様子から、自分が『なめられている』と思ったのだろう。怒りに顔を歪ませて斬りかかってきた。
(搦め手があるわけでもないのか)
自分の顔が無になっているのを感じる。
私は剣の形にしていた血を使って、彼女の足を拘束する。転んだ彼女の刀を蹴飛ばすと、ラウルが思いきり踏み抜いて折っていた。
「おい、それはそれなりに良い品だったのだぞ」
「アンタに必要だとも思いませんけど」
確かに、私には必要ないが……。アルテの割った皿よりは高級品だぞ。我が家のものが壊れるのと、他人の物が壊れるのとでは違うのだろうか。
「まずは……」
殺される、と思っているのだろう。青い顔をしているが、別にそういうつもりはないぞ。
「情報不足。マイナス75点」
「……へ?」
「きちんと調べれば、ここが現役魔王がいる場所ではなく、引退した魔王……つまりは現在ただの魔族である存在の屋敷であることはわかるはずだぞ。この国の魔王に言われて登録? とやらも済ませている。更に、お前は国立対魔防衛学園の生徒だろう? 私はそこで月に一度、高等部三年の授業を受け持っている」
「え」
「討伐対象だと断じた暫定魔王を相手に一人で挑むのも悪手だ。あと、ラウルが簡単に壊せる程度の武器で勝てると思ったことも良くない。総合すると0点どころかマイナス査定だ。何がしたかったのだ、お前は?」
私の言葉に、今度はおそらく違う意味で顔色を失くしている。
「フェリクス、素直に殺してやった方がいいんじゃねぇっスか?」
「いや、流石にバイト先の娘を殺すのは良くないだろう」
成人済みのハンターとかなら正当防衛として殺していたが、学生など敵にすらならんしなぁ……。