心配性の吸血鬼
小娘と一緒に最奥まで進むと大きな扉が現れた。
無駄に凝った扉だな……。
「スライムばっかで弱いと思うんだけど」
「以前、アメリカに『ゴブリンの巣』と呼ばれていたダンジョンがあった。それは、弱いゴブリンしかいないダンジョンだと思われていたのだ。階層は多く、少しずつ緩やかに敵も強くなる仕組みだった。それでも難度としては高くなく、初心者向けだと思われていた」
「『いた』? 実際は違ったの?」
「その最奥。ここのようにボス部屋と呼ばれる場所にいたのが高位の悪魔族の魔物だったのだ。ゴブリンジェネラルやカイザーゴブリンの死体を操って、疲れた敵を捕食する質の悪い魔物でな……。表層に出ていたゴブリンたちが弱いものから始まり、だんだんと強くなっていく仕組みも餌が自分で美味しくなるようにという仕掛けだった、という胸糞悪い場所があったのだ」
その優秀さに将来を期待されたハンターたちが行方不明になっていたことから、当時そこに滞在していた魔族、ハンターたちに声がかかり、その数名が命からがら帰ってきたことで判明した。
相手がどうにも強すぎて、このまま討伐部隊を組んでもかなりの被害が想定されるというので、物見遊山にダンジョンに入れば、かなりエグイことになっていた。私もあまり思い出したくない光景だ。
あまりにも悪質だったので、ダンジョンを制覇してコアもアメリカの魔法使いにくれてやった。いくら強力な力でも、気持ちが悪くて持っていたくない。壊そうとしたら「もったいないからぜひ引取らせてくれ」と縋り付かれたのだったな。あれは確か……時の魔法使いと呼ばれていたな。
「まぁ、そういうこともあって、基本的にどんなダンジョンでもある程度、逃げる準備をして入る」
「もしかして、帰還用の魔法陣がかなりいい値で流通してるのもそれが理由ですか?」
「ああ。金も名誉も、命がなければ役に立たんからな」
死後の世界にそれらを持って行ったとして、使う場所も、自慢する相手も、ちやほやしてくれる取り巻きも、何もないからな。ある程度賢い、経験を積んだ者たちならば逃げることの重要性をよく知っているはずだ。
「じゃあ、ドラクルさんがいるから、ダンジョン消し去ってもいいとか言われたんだ」
「そうかもしれぬな。私に倒せぬ相手の方が少ない」
厄介な物が潜んでいた場合、サクッとぶっ壊してもらった方がこの国、地域としても安心、という訳だ。
「でも、入っちゃいけないってことはないんだ?」
「倒せるかもしれんだろう? そも、こういった場所に来るような連中に何を言ったってどうにかして出し抜き、入る者はいる。それを思えば、ダンジョンに入るという申請だけでもしてもらって中にいる者を把握できる仕組みにしておく方がマシなのだとか」
私も詳しいわけではないが。
個人的には、ラウルたちにはあまり無理をしてほしくない。堅実が一番だ。
「お前たちは私の目の届く範囲で、きちんと逃げる手段を確保してから挑むのだぞ」
「はい」
「はい!」
帰還用のそれなりに高い魔法陣や身を守る魔道具は絶対に持っておいた方がいい。主に私のメンタル維持のために。
私も親なので、子どもが危ない場所にいると思うと胃がきゅっとなる。
「フェリクスは案外心配性だもんな」
「そんな気はする」
「実習ある日はずっとウロウロしてるらしい」
「想像つく」
なんとでも言うがいい。
私はそういう生態の生き物なのだ。
魔王やジジイには呆れられるが、仕方あるまい!
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
「なんでこいつに妻子いないんだ?」と言われている男フェリクス。
千明目線でも割と過保護。そして、千明にはそれがちょっと嬉しくもある。




