親バカか、バカ親か
楽しそうにサクサク進んでいく小娘の後ろで、私とラウルはのんびり追いかけていた。ダンジョンは消し去っても構わないそうなので、危ない真似をしなければ止めることもない。たまに「周囲に気をつけろ」とか「一人で先に進み過ぎるな」とは口を出すが、それだけだ。
「あれ、結構良い武器じゃないんですか? あんなポンコツに持たせていいもんです?」
「まぁ、実力はあるからな。ある程度のものを持たせておかなければ武器の方が保たないだろう」
今、もう一本、予備の武器も作らせている。それもそこそこの品になる予定だ。
おそらく、始めからそれなりのものを持たせておいた方が結果的に安くつく。
「粗悪品を持たせたところで、小娘の魔力ではな」
「それもそうっスね」
おそらく、一度使うだけで壊れてしまうだろう。使っては壊しを繰り返す方がよくない。資源も無駄だ。
それに、そういう点で言えば、ラウルは自分が持っている武器を見られる度に私が親バカ扱いされる事実を思い出してもらえばと思う。ラウルに持たせる武器の材料を渡した時のヴェルグはドン引きしていたからなァ!!
ヴェルグは宝物庫に入れていた鉱石や素材を引っ張り出してきた私に「何考えとるんだお前」と真顔で言ってきたぞ。それだけの品を持っているんだからなお前は。
「でも、俺の武器作る時の方が時間かかった気ぃするんですが」
「加工に手間取る素材も使用しているからな」
ヴェルグがテンションぶち上げるレベルの素材だぞ。私はそれなりに子煩悩なのだ。
ジト目で私を見るラウルに笑顔を見せると、そこでようやく何かに勘付いたようだ。そして、少し悔しそうな顔をする。
「これ、一体いくらしたんだフェリクス」
「子どもが気にするほどの金額ではない」
「答えになってねぇぞ」
「ははは、我が子の安全が金で買えるならば私はいくらでも金を積むぞ」
「我が子って、俺は……」
「間違いなく私が育てた、自慢の息子さ」
まぁ、私が困窮していたならばもう少し答えは違ったかもしれない。いや、その時かけられる最大限の金をかけていたような気もするな。IFの話なんて今の私にはわからんが。
しかし、こういう話をするとラウルがしばらく目を合わせてくれなくなるのが困るな。紛れもなく正直な答えなのだし、素直に受け入れれるだけでいいというのに。いつの間にか呼び方も「父さん」から「フェリクス」になって、パパとしては少し寂しい。ちなみにこの件について知り合いに愚痴ったところ、「キショい」という冷たい言葉が返ってきた。私、そんなにおかしいことを言ったか!?
「ドラクルさん、後輩! 見ろ、魔石がこんなに集まった!!」
魔物を倒すと落ちることがある素材を持って小娘が駆けてくる。
「……そういや、普通の武器で魔物を倒した場合より、対魔武器を使ったときの方がドロップ率って上がるんだったな」
「小娘の場合は今まで使ったことがなかったから魔石やその他の素材が集まる量も知れていたのかもしれんな」
多くの者たちよりも優れた能力を持ちながら、そんなことで喜ぶ姿を見ると、「よかったな」という気持ちの反面、哀れでもある。
本当なら享受できていたはずのものが、できていなかったということなのだから。
この小娘ならば、今からでも他者より多くの物を手に入れることも不可能ではないだろうが。
「あのジジイが『もったいない』というのもわかるな」
確かにここは初心者向けのダンジョンだが、それでも出てくる魔物の量が少ないという訳ではない。いや、立地が悪くあまり人が訪れない分、多いと言ってもいいだろう。それを、一人で、ここまで、突き進めてしまっている。私たちは何もしていないのに。
「向こうに大きな扉があった。勝手に進むと怒られるかもしれないと思って戻ってきた」
「小娘……少しは賢くなったな……」
ああ、勝手に進んでいたら怒ったぞ。こういうダンジョンでも、ボスがかなり強いという陰湿なダンジョンもあるからな。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
ラウルは帰ったら「やっと気づいたのぉ? アルテは知ってた♡」って言われる可能性が微レ存。




