千明の対魔武器
数日後、私は子どもたちを連れてダンジョンに来ていた。
小娘にうっかりダンジョンを消されてしまっては困るので、家からは少し離れたダンジョンを訪れている。私たちであれば安全な場所でも非力な人間にとっては不安を覚える土地でなければ、安心して住むことができない。とりあえず、ラウルが卒業するまではあのダンジョンは間引きしかせぬことにしている。
今回のダンジョンはそういうものが関係ない小さなダンジョンだ。出てくる魔物もスライムやネズミ系のものくらいなので、初心者には良いと思う。だが、いかんせん立地が悪いので全然討伐されないそうだ。なので、ダンジョンごと消し去ってしまってもいいという風にハンター協会から聞いている。
「ほら、小娘。抜いていいぞ」
刀を渡すと嬉しそうに受け取って、勢いよく首を縦に振る。
見ていると面白くはあるが、何も起きないように願いながら見守るしかない。
「ラウル、何もないとは思うが気を抜くなよ。……主に洞窟の崩落などに気をつけろ」
「そっちですか」
「まぁ、事前資料を見る限り、かなり楽な部類のダンジョンだからな。管理人がたまに間引く程度で維持できているのがその証拠だ」
そんな話をしていると、「では、参ります」と言って刀を抜いた。小娘の魔力を吸い上げて、刀身が現れるとそれが青く輝くのが何とも美しい。
「大きさは変わらねぇみたいですね」
「しかし、雷を発するようだな。……家で抜くのを止められてよかった」
下手をすると、屋敷の電化製品全部が使用できない状態になっていた可能性があるな。私のゲームとか一部オートマタの機能に影響が出たら泣く程度ではすまない。
「すごい……綺麗……」
小娘は嬉しそうに刀を眺めている。刀身に頬ずりしようとしていたので慌てて止めた。
小娘、何しでかすかわからなくて怖い。刃に頬ずりしようとするな。
「顔がスパッといったらどうする。お前の親は確かにろくでもないが、お前をその顔で産んだのだけは褒めてやってもいいほどだぞ。もったいない。大切にしろ」
「そうだ。アンタはポンコツだけど顔と剣の腕だけはいいんだから」
「これ、私は怒っていいやつよね……?」
「我々は危険な真似をしたから止めているだけではないか」
「いらないことも言ってますよね!?」
言われたくなければ危険な真似をしなければいいのだ。全く、仕方のない小娘だ。
「それで、重さはどうだ」
「ちょうどいい」
「よし。それでは……ちょうどスライムが来た。いけ」
やってきた青くて丸い物体を指さすと小娘はキリッとした顔で頷いた。
いつものように刀を構え、スライムに向かっていく。相手が抵抗する暇すらなく真っ二つになる。
「どうだ」
「かなり使いやすい……こういう液状の魔物を斬るのは困難だった。コアを的確にぶち抜かないと一発で斬れなかったのに、この刀ならばもっと簡単に倒すことができる」
冷静な声音ではあるが、どこか興奮しているように聞こえるのは気のせいではなかろうな。
小娘は刀を見つめて頷く。
「よし、お前の名は『蒼月』だ」
小娘がそう言った瞬間、刀は青い光を発して散る。それは小娘の手首あたりに集まってブレスレットになった。
「ど、どうなっている……!? は、これが教科書で見た小型化した状態か」
「そうだ。そのまま理由がわからなければダンジョンから出てすぐにもう一度それを没収しようと思ったぞ」
私の言葉に小娘は手首を握りしめてあからさまにホッとした顔を見せた。
言っておくが、お前がきっちり学問を身に着けて、安全に取り扱えばいいだけの話だからな。いいか、安全に、取り扱うようにするのだぞ?
頷いているが、本当にわかっているな!?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
フェリクス「小娘、本当に頼むぞ!? 刀身に頬ずりは私が見ていなくてもやるんじゃないぞ!!」
千明「ドラクルさんは私のことを何歳だと思っているんですか」
ラウル「普段の行い」
それはそう。




