今は『まだ』
「ミノタウロスの肉が、あんなに美味しいなんて……どう見たってガチムチなのに。マンドラゴラの葉っぱも、あんなに甘みがあって美味しいなんてどうやって知ったのかしら。ハニービーの蜜が美味しいという話は聞いたことがあったけれど、キラーツリーの実があそこまで美味しいなんて」
ヘスティアが衝撃を受けていた。
よほどのことがない限り、我々は魔物を食べようなんて思わなかった。むしろ、やつらから家畜を守り、育てることに重きを置いていた。しかし、この日本という国。ダンジョンが現れて少ししたころから「魔物も食えるぞ!」と言い出した猛者がいたらしい。そいつらの研究で食べることが可能な魔物の研究がいち早く進んだ。家畜と魔物を掛け合わせてもっと美味しい食肉を手に入れようとした研究者もいる。ちなみに成功し、世界的に『和牛』というものはかなりのブランド価値を誇っている。
それにしても、スライムを食べようなんて、他の国で誰が考えただろうか。食という分野に関して、この国は若干変態じみた結果を出すことがある。少し怖い。
「はぁ……、今まで倒してきたあれらも美味しかったのでしょうか? であれば、ぜひフェリクス様に献上したかった……」
「そこまで深く考えることもなかろう。現在、他の国でも食用にできるか試している最中のものもある。文化的に口に入れるものではなかったのだから仕方のない話だ」
私も初めはかなり驚いたものだ。
だが、慣れるとあの物騒なはずの連中が食料に見えてくる。食欲とは、恐ろしいものだ。
「それより、せっかく外に出てきたのだ。行きたい場所や欲しい物はないのか?」
「私は、フェリクス様のお隣に居られればそれだけで満足ですもの」
「いや、私と一緒にいるだけでは面白くないだろう。遊園地でも、動物園でも、水族館でもなんでも構わんぞ」
少しぐらい観光をするのもよいものだ。
そんなことを考えながらヘスティアにそう伝えると、不服そうに頬を膨らませていた。
「私は、あなたとなら、どこでも、よいのです!」
「そ、そうか……?」
「そうです」
なんというか、本音のようだ。難儀な娘である。
「それに、日中に出歩くのはお好きではないでしょう?」
「そうだな」
夜行性だからな。しかし、ラウルが幼い時は日中に活動もしていたし、動けぬほどではない。外で買い物をしたいならば、日中に出かける方がよいこともわかっている。
「それはそれとして、せっかく外出しているのだ。たまには甘い物でも買って帰ろう。スーパーマーケットもよいな。店で物を選ぶのは、ネットショッピングとは別の楽しさがある」
「え」
「好きなケーキ屋があるのだ。雪女が人間の夫と経営している店なのだが」
今日はしっかり寝てきたからな! エマが十分おきに「そろそろ睡眠をおすすめします」と言ってきて読書に集中できなかったし、日中だというのに久しぶりに目が冴えている。すぐに帰るのも少しもったいないと思っていたのだ。
「睡眠時間は、大丈夫なのですか?」
「昨日はエマにしっかり寝るよう誘導された故な。それに、普段でも一日遊んだところでどうにかなるほどやわではない」
そんなにやわな男に魔王なんてできん。そもそも、やりたいと思ったことはないが。あれを好きでやっている者もいるというのだから驚きだ。
目的地に向かって歩きだすと、ヘスティアが急ぎ足で隣に並んできたため、歩幅を縮める。
私の隣にいるだけでいいというのも本音なのかもしれんが、そこまで私に配慮する必要はない。
もう少しわがままを言っても許される相手だと思われなければ、この先はないな。初めはよくても、いずれその関係は息苦しくなるだろう?
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




