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引きこもり吸血鬼の怠惰なる引退生活  作者: 雪菊


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これは脈あり!?


「私の用事は終わったし、とりあえず昼食でも取るか?」

「ははは、はい!」



 鍛冶屋を出てから、かなり挙動不審なヘスティアを連れて向かったのは馴染みの店である。鬼がやっている定食屋なのだが、ダンジョン産の肉や果物、野菜を出していてなかなか美味い。店主が直接ダンジョンまで採りに行っているのだとか。



「フェリクス様はいつもこういったお店をご利用なのですか?」

「そうだな」



 ここならばラウルを腹いっぱい食わせることも容易だ。なんというか……金額の問題ではないのだ。量をな、用意できなければいけない。金など、どうとでもなる。

 それに何より美味い。



「昔はシェフに作らせていたフェリクス様が……」

「そんな身分ではなくなった、というだけの話だ」



 昔は特に食に対して大きな興味があったわけではない。栄養が取れればよかったからな。血を適当に摂取して終わりということもよくあった。一部の人間や変異者を保護していたこともあって、シェフを用意もしていたが、常に人と同じ食事を摂っていたわけではない。ヘスティアたちの目の前でだけそうしていただけだ。

 敵を数名生かしておいて、血液タンクにしていた時代を考えると、小さな錠剤一つで不味い血を我慢して飲む必要がなくなってかなりよくなった。たまに、ラウルの担任のようなかなり美味そうな血の持ち主もいるが……それでもやはり、普通の食事の方がよい。



「時代が変われば、私とてふるまいを変える。ただそれだけのことだ」

「……そうですね。私たちも随分変わりましたから」



 のんびりとそんなことを話しながら店に入ると、鬼の娘が「いらっしゃいませー!」と言いながら現れた。



「あ、ドラクルさん! とキレイな女の人ぉ!?」

沙耶華(さやか)、個室を予約していたはずだが」

「は、はい! こちらです!」



 元気なのは良いことだが、私が女と歩いているのはそんなに不思議なことだろうか。たまにアルテやマデリーンに付き合うこともあるのだが……いや、彼女たちは見た目が幼い。もしかしてそういった目では見られていないのかもしれない。



「ここはオーガの店ですのね」



 日本では鬼族と呼ばれる彼等だが、外ではオーガとも呼ばれる。まぁ、私だってドラキュラやヴァンパイアと呼ばれることもあるから、同じようなものだろう。


 席に案内されて、沙耶華がソワソワとした顔で私たちの顔を見ているのを感じる。興味津々だ。何がそんなに好奇心を刺激するのだろうか。



「……言いたいことがあるのならばさっさと言え」

「彼女さんっスか? 綺麗な人ですねぇ……!」

「まだ違う」



 とりあえず否定をしておくと、沙耶華はつまらなさそうな顔をした。ええい、父親に言いつけるぞ!



「じゃあ、でき次第お持ちしますね!」



 視線で私の言いたいことがわかったのだろう。沙耶華はそそくさと立ち去った。全く、騒がしい娘だ。父親はどちらかと言えば寡黙なのにな。息子と娘は無邪気というか、よく話すというか……。



「ふふ……『まだ』! まだ、ということは可能性があるということ。つまり脈あり、というやつですね!!」

「何か言ったか?」



 ヘスティアが小さな声でブツブツと何か言っているのが聞こえたので、内容を聞くと笑顔で誤魔化された。一体何なのだ。


いつも読んでいただき、ありがとうございます。


〇定食屋『ほおずき』

 鬼の父娘がやっているお店。ダンジョン産のお肉・お野菜・果物を使用しており、とても美味しい。

 たくさんの量が用意できるため、ラウルを連れてやってくることが多い。

 店主は寡黙な男でそのまま鬼灯、娘は沙耶華。ちなみに鬼灯のお嫁さんは普通の人であり、勤め人。息子もおり、彼は母親と住んでいる。別居の理由は仲が悪いとかではなく、鬼組は力が強すぎて人間用の家具などを壊してしまうことが多く、鬼用の家具はただの人が使うにはかなり大変だからという生活上の理由である。仲は良い。というか、ラブラブである。


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