お嫁さん希望
結局、ヘスティアは隣に引っ越してきた。まぁ、この周辺は家が少ないしな。裏にダンジョンがあるから。
それにしても、家ってそんなにすぐに建つものか?
そう思っていたら、ジークに「魔法で家を持ち運んでいるので」と言われた。
「空間の魔法使いの名を聞いたことはありませんか?」
「聞いたことはある。会ったことはないが……」
「彼をとても大きい熊の魔物から助けてさしあげた報酬に、マジックバッグをいただきました。なので、フランスで暮らしていたときの家をまるっと入れて持ってきたのです」
それはなんともよい能力だな。私も欲しいくらいだ。武器を縮めておける技術を開発したのも、確かその魔法使いだったな。しかし、その能力は戦いに向かないという話を小耳に挟んだことはあったが、魔法使いと呼ばれていながら熊の魔物ごときに手こずったのであれば事実なのだろう。
「優しそうな男性でしたよ」
「そうか」
私の返事に、ジークは何とも言えないような顔をしていた。それ以上にどう言えばいいというのだ。
「裏のダンジョンは制圧しないのですか?」
「しない。良い魔石が採れるし、あれがなければこの辺りにも人が増えてしまうだろう」
人は自分たちが住めると思うとすーぐに魔族は出ていけーと言い出すのだ。私、良く知ってる。
何度かやられたからなぁ!!
それまでは「あなたがいるから平和なのです」とか言いながら、本当にダンジョンが消えると「お前たちほど危険な存在が他にいるとでも言うのか!」と叫びだす。本当に面倒だ。勘弁してくれ。
あれを思えば、たまに間引いて魔物が外には出てこないという状態をキープしておく方が無難かつ、争いが起きないのだから平和だというものだ。
「そういえば、お前たちはなぜフランスから出てきたんだ?」
「他にダンジョンを維持・平定できるだけの能力者が現れたのですよ? フェリクス様がいる場所へ移動したいと願うのは私たちにとって自然なことです」
気付けば、小娘の勉強を見ていたはずのヘスティアが隣に来ていた。
いやまぁ、お前たちがそれなりに私を好いているのは知っているがな? 私の側にいてもいいことがあまりないぞ。
私と仲が良いというだけで狙われるし、嫌悪される。敵対しなければ、何もせんのだがな。しかし、吸血鬼という種族はそれだけで嫌われるものだ。大人しくし過ぎていても「今が倒し時だ!」などと言われる。本当に苦労しかしない。ラウルもよく狙われたものだ。
「私はもう守られるだけの弱き者ではありませんよ」
あれだけ人に怖がられていれば、「そうだろうな」としか言えんが。
今まで、そういった相手は私に対する手段として活用されかねないと控えていたが、そろそろ考えてもいいのかもしれん。ラウルも強くなったしな。
「そうだな」
「では……、私をお嫁さんにしてくださる!?」
「距離の取り方にバグでもあるのか、ヘスティア」
そうだった。この女は、始めからこうだった。
初手から求婚はおかしくないか? そういうのはもっと、関係性を進めてからだろう。いやこれ、私がおかしいのか? 普通だよな?
「こうなるまで姉さんを放置しておきながら何を言っているんですか?」
「私が放置したせいみたいな言い方をやめろ。よく考えたらヘスティアは出会ったときからこうだった。お前が息を吹き返した後、私を見上げて一番最初に言ったセリフが『私をお嫁さんにしてください』だった」
「そうでしたか?」
そうだが。
何を言っているのかわからなかったし、始めは新手の命乞いかと思った。だから、「間に合っている」と返した気がする。
「ええ。フェリクス様ったら、独身なのに『間に合っている』なんて言ったのよ」
結婚するのは私にとってデメリットしかなかったからな。
周囲は私の子を欲しがっていたようだが、誰があの不穏な時代に、信用できぬ者たちが多い中で、妻子を得たいと思うのか。私が普通の人間であれば、家の存続のために等あったのかもしれんが、そうではない。魔王など、能力があってやりたいやつがやればいいのであって、私の血を繋ぐ必要もない。
しかし、今はかなり状況が変わったしな。少し考えてみてもいいかもしれん。
そうなると、まずは恋人からとなるはずだが……。
「どうかいたしましたか?」
どうしてだろう。
それを言うと、ヘスティアが翌日には婚姻届けを差し出してくるんじゃないか、としか思えない。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
〇ヘスティアのお家
敷地はフェリクスの家のお隣。日本の魔王に無理を言って用意してもらった。
お城のような家。並んだ屋敷は千明に「魔王城と可愛いお城」と言われた。
管理がとても大変。
ヘスティアは「私の家にもオートマタがほしいわ……」と溜息を吐いている。




