業火の魔女ヘスティア
「あなたのヘスティアが参りました、フェリクス様!」
「お前はお前のものであり、私のものではないし、そんな仲でもない」
三日後の夜、この女は我が家にやってきていた。来るのを夜にするだけよい女ではある。私は夜行性だからな。
近くに来たヘスティアはニコニコと私を見上げている。その後ろを見ると金茶色の髪に鮮血のような赤い瞳の青年がジッと私を見つめていた。
「まぁ、ヘスティア、ジーク。お前たちが元気なようでよかったよ」
「はい。私はフェリクス様以外に傷つけられたりいたしません」
「もったいなきお言葉」
温度差のある姉弟だな……。
ヘスティアの後ろにいるのはジーク。諸事情あって私自ら吸血鬼にした男だ。本人的には姉を見守ることができるので長命種になったのはよいことであるらしい。
「無茶なことをしていないならよいが」
「ふふ。心配してくださるのですね。相変わらず優しい方……そういうところが好き♡」
心配もするだろう。
この娘、単純に火刑が気持ちよかったこともあるらしいが、主に冤罪をかけられた魔女を助けるために身代わりになっていた側面もあったし。拷問などは身代わりの術を使っていたようだし、体質的に火は彼女を傷つけることがない。だから彼女の自認としては傷つけられることがなく、罪なき魔女を傷つけた人間たちへ報復をしていたのだろうが……。
我々は丈夫ではあるが、死なないわけではない。長く生きていれば、それだけ同胞を見送る機会もある。知り合いを見送ることなど、ない方がいい。
「ラウルくんも久しぶりね。すっかり大きくなって……ジークより大きいかしら?」
「それはわかりませんが、身長は春時点で180㎝超えてました」
「まぁ……。それで……そこの、お嬢さんと、女の子型のオートマタは何?」
笑顔に圧があるのは気のせいだろうか。
しかし、しばらくこちらにいるつもりならば紹介は必要か。
「ヘスティア。この小娘は安倍清明の血筋の者で千明という。安倍のトラブル関連でジジイから預かっている。こちらはエマ。マデリーンが作った家事用オートマタだ」
「は……はじめまして、ヘスティアさん。安倍千明です」
サッとエマの後ろに隠れて、ペコッと頭を下げる小娘。ラウルに「あんな綺麗なお姉さんが来るなんて聞いていないぞ後輩!」と小さな声で主張している。エマは静かにカーテシーをするのみだ。
「セイメイ……あの古狐、またあなたに面倒を押し付けたのですか?」
「この度は取引あってのものだ。口出しには及ばん」
「しかし……、この娘も同じ家に住むことを許したというのでしょう?」
「いや、コイツは離れに住まわせてます」
ラウルがそう言うと、目をぱちくりした後に、小さな声で「いえ、それでも敷地は同じだから……」と悩んでいる。
「姉さんの嫉妬を引き出すための手段ですか?」
「言っただろう。ジジイとの取引だと。まぁ、小娘の家庭環境が悪かったため、予定以上に口を出すことになったのは確かだが」
「……フェリクス様がお優しいのは長所ですが、誰にでもというのは少しいただけないですね」
そう言われるほど『誰にでも』ではないと思うのだが。実際、小娘のその他家族は放置だしな。
「わ、私も! 私もここに住みます!! それでこの子達とお相子では?」
「バカを言うな。子どもと機械に張り合うんじゃない。お前は美しい女なのだから」
「はうっ……」
全く、困った女である。
溜息を吐くと、視線を感じた。ジークとラウルが何も言わずに私を見ている。何か言いたいならば言えばいいだろうに。
「そういうところですよ」
「早くくっつけばいいのに」
だから、私たちはそういう関係ではない。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
〇ジーク
ヘスティアの実弟。金茶の髪に赤い瞳。姉と同じように顔は整っている。
死にかけていたところに、フェリクスに血を与えられたことで後天的吸血鬼として生き残る。本人は姉を一人にせずに済んだので、感謝している。これは、フェリクスが血を与えた者をがちがちに管理し、扱き使う吸血鬼でなかったこと、そもそも吸血鬼に変えた理由がヘスティアが泣いていたからであることも関係しているかもしれない。
彼から見て、フェリクスは明らかに姉を気に入っている。さっさとくっついてほしい。




