手紙
火炙りの……いや、今は他者に『業火の魔女』だなんて言われているのだったか。
あれは、定期的に手紙をよこすし、実際、元気かどうかくらいは知っていたいのだが……かなり面倒なので会いたくはないのだ。
私にそのつもりはないと言ってもぐいぐい迫ってくる。
「日本に来るのか。フランスに強い変異者が現れたから現役引退まではいいのが」
私の了承を得ずに「これであなたのお嫁さんになれます♡」はちょっと違うのではないか? いつものことではあるが。絶対に私よりもいい男が今までにいただろう。せっかく美しい容貌なのだから、そういう男と結ばれて勝手に幸せになればよかったのに。
「ヘスティアさん、来るんですか?」
「ヘスティア? だれ?」
「フランスの『業火の魔女』と言われている魔女だ。おっとりした優しい人で、フェリクスのことが好き」
「優しいのに、業火?」
そう、あの女は基本的にラウルの言うような人格だ。まぁ、魔女になってから火炙りにされるのが大好きという謎の性癖を開花させたよくわからん人物ではあるが。
「あの娘は、昔、異端審問官を焼き殺したことがある。それによるものだろう」
それに、そもそもの話をすると、やつらがあの娘や、変異者でもなんでもない人間を冤罪で火刑に処そうとしたのが悪い。ヘスティアはその体質から火刑にされたところで痛くも痒くもないが、他の者はほとんどの場合、そうではないのだ。
「何もしなければ、良い娘だぞ」
かなりしつこいのが難点だがな。
全く……どうして私に執着するようになってしまったのか。初めからか。出会って少し落ち着いたころにはああだったな。
「そんで、いつ頃来るんですか?」
「そうだな……数日以内には来るのではないか?」
本気で永住しに来そうだし、少なくともこの国の魔王と会ってからにはなりそうだな。それにしても、こんな小さい島国に私たちのような割と強い存在が集まってきているのは政府が頭を抱えそうな事態ではある。私には関係ないが。
「そういえば、ドラクルさんはなんで日本に住んでいるの?」
「私か? 私は面白いゲームがあって、食事が舌に合ったからここに住んでいる。あと、よその国に行くと、やたらと再び魔王になってこの地域を治めてほしいなどと声をかけられるのだ。せっかく辞められたのに、再び背負うつもりはない」
そういった存在になると、政治をしなくてはいけなくなる。何が楽しくてそんなものをしなくてはならんのだ。面倒くさい。そういうのは十分やらされた。もういい。あんなものは、やりたい奴がやればいいのだ。私は外野から文句をつけるくらいでいい。これを口に出すと「質が悪い!」と言われるがな。
「偉いのって面倒なの?」
「かなり」
「フェリクス、そういうこと言うのって、ちょっとどうかと思いますけど」
そうは言われても、私はかなりの年数を魔王として過ごしてきたのだ。かなり忙しいのだぞ、あれは。任せっぱなしにしていると増長する阿呆もいるし、不正がないように各所目を光らせて置く必要があるし、人間たちに攻め込まれれば反撃する必要はあるし。
もう二度とあの手のことはしたくない。ワークバランスとはなんぞやという有様だった。
「今はかなり時間ができてありがたい。昔はのんびり寝る暇もなかった」
「そこはかとなく漂う、ブラック感」
実際、かなり酷い労働時間だったぞ。
位が上がるとな、義務もまた大きくなるのだ。自分について来る多くの民たちを守るために、とても頑張らなければならない。それは当然のことであるが、疲弊していくのもまた仕方のない話だ。
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