『元』魔王フェリクス・E・ドラクル
かつて、暴虐の限りを尽くし、様々な人間や魔に連なるものを支配した『魔王』と呼ばれた吸血鬼がいた。名はフェリクス・エルドラド・ドラクル。
その土地では全てが男の管理下に置かれ、皆、恐怖で眠れぬ夜を過ごしたという……。
――そんな『魔王』は現在。
「やはり、ゼルナの伝説は神ゲーだ……! つまりこれを作りし任空堂も神!!」
「何バカなことを言ってるんスか、フェリクス」
「ナァ~」
日本という島国で使い魔たちと共に引退生活をエンジョイしていた。
元居た場所の『魔王』という地位を後進に譲り渡し、私は各地を旅していた。そして、何となく訪れたこの国に居つくことにしたのである。
何、この国の魔王には許可をもらっている。日本の魔王は人間に手を出さないことにしているため、そのルールも守っている。そもそも、戦うこと自体が面倒なので私としても人間との対立は避けたいところだ。
それに、この国の人間は好ましい!
食事、娯楽……まぁ、昨今の気候はあまりよろしくないが、とても素晴らしい。
特にゲームは素晴らしい。私はそのために日本語をマスターしたといっても過言ではない。この国にいることで、他国にいるよりも早くゲーム機器を手に入れられるのも最高だ。
最近のスマホゲームも中々だが、私は据え置きゲーム派だ。
「バカなこととはなんだ。私はほぼこれのためにこの国に居を構えたのだぞ!」
「この悪趣味な屋敷ね」
「悪趣味とは……いや、私も正直そう思っているが、友人に用意してもらった物にケチをつけるものではない」
ラウルに言われて見回すが、まぁ……若干不気味であることは認めよう。「吸血鬼に相応しい洒落た館であるぞ!」と言われて、故郷のティーセットと引き換えに破格の値段で用意してもらったものだ。あまり文句をいうものでもない。実際、普通に暮らせている。
「でも、アンタはもう少し外に出た方がいいんじゃないですか?」
「通信販売でほとんどの物が手に入る時代に、わざわざ外出をする必要がどこにある。そもそも、人と違って、私の活動時間は基本夜だ。店もほとんど閉まっているだろう」
確かに、私は物語で綴られるように日差しで灰になるわけでもないし、十字架など効かないし、好みはしないがニンニクも食せる。だが、活動時間が変わるわけではないのだ。
「それとも、何だ。ラウル。お前が何か欲しいもの、行きたい場所でもあるのか?」
「……それは、まぁ」
「ふむ。ならば場所や行く日を決めておけ。……日傘はどこにしまったか」
おお、わかりやすく嬉しそうな顔をしているな。
私とて生活リズムが狂うだけで、大した手間でもない。……いや、少しだけ嘘だ。この『夏』という季節は異常だ。ちょっと前までは夏と言えば30度ちょっとだったというのに、今は地域によっては40度を超える場所もある。とても酷い。
しかし、まぁ、活動ができない訳ではない。たまには外に出ておくのもいいだろう。
たまに昼から顔を出しておけば、まさかこの私が吸血鬼であるとは思わないだろうしな!
別にバレたところで、ではあるのだが、吸血鬼という種族は何かと恐れられ、嫌われやすい。面倒事の種になる可能性がある以上、そうではない存在だと思われていた方が気楽だ。
私などより、人を選ばぬ怪異の方が恐ろしいと思うのだが、まぁ……人にとっては己の脅威となる時点で変わらぬだろう。
「なぁーーーん!!」
「ん? なんだ、アルテ。お前も外に出たいのか? それではお前の準備もしておこうな」
「にゃ!」
使い魔である白猫のアルテが自己主張をしているので、そう言うと私の足に頭を擦りつけた。顎を触るとゴロゴロと喉を鳴らす。愛いやつである。
「しかし、暑いことは覚悟しておけよ」
私は必要な物と場所を確認するために立ち上がった。
だいたい週一くらいで更新出来たらな……と思ってます。
よろしくお願いします。