その5
屋敷内の夫婦共同の場所。今日初めて二人でこの場所にいる。存在は知っていたし、シャルル自身はそこでルードが来るのを待っていた時期もあった。それも女々しく来るはずのないルードを『今日なら来ると』自己暗示をかけて待っていた健気な時期。もはや、シャルルは懐かしさを感じている。
ルードはゆっくりとシャルルをベットの上に下ろして、その隣に座る。絶対に逃さないと殺気だっているようで、シャルルは萎縮し冷や汗が流れ始める。
シャルルは竜に睨まれたように声さえも出せず、ルードの言葉を待つしかできなかった。
「さて」
ただ声をかけられただけで、シャルルは肩を弾ませて反応する。
「なぜ、私から離れようとしたのか説明できるよね。君にはお金も欲しいものも与えて、何不自由ない生活を与えたよね?」
有無を言わない物言いで、シャルルは答えるしかなかった。しかし、シャルルはただ答えるだけではない、完全に堪忍袋の尾が切れたのだ。放置していたのに、シャルルがやっとの思いで決めたのに、この男は今更、逃さないと言っているのだ。
交流を持とうとしたのに、拒否しているのはそちらでしょう。
シャルルは怒りのままに口を開いた。
「何不自由ない生活!?どこが!!」
シャルルに憤慨されるとは思っていなかったルードが逆に狼狽える。
「確かに日常生活は充実していたわ。むしろ、実家よりも高待遇よ!」
「なら・・・」
「けど!初夜に夫は来ない。音信不通で手紙さえも出せない。私がどんな気持ちで待っているわかる?こんな結婚生活は嫌なの!!」
ポツポツと溜まっていた怒りと本音が漏れ出始めてしまう。視界も涙で濡れ、ルードの顔もしっかりと見ることができない。
そんな弱った自分を見せたくなくて、シャルルは顔を俯かせる。
「初恋の人と一緒に過ごすの楽しみにしていたのに、こんなのもう嫌よ。結婚したのが間違いだった。挙げ句の果てには、愛人なんて囲っていたし」
やっと吐き出した言葉はシャルルが出そうと思っていた声量よりも小さくて、蚊の鳴くような声だった。
この時、シャルルは思っていたよりもルードに心残りがあったことに驚いていた。
こんな態度じゃ、離れたくないっていているようなものじゃない。
鼻を啜りながら、案外女々しいのは自分なのかもしれないと考え始める。




