特別番外編 すれ違いバレンタイン
和解前の話
少し早めに出します♪
シャルルは異世界についての恋愛小説を読んでいた時だ。
ある冬の日、シャルルは画期的なものを見た。
「メイラン!異世界には”ヴァレンタイン“なるものが存在するそうなの!」
「ヴァレンタインじゃなくてバレンタインじゃないのか?」
「そこはどうでもいいのよ!」
「いやよくないぞ。ちょっとの違いで怒る奴は怒る」
シャルルがメイランの元へ本を持って行き、目を輝かせながら告げる。
メイランはシャルルはのニュアンスの指摘を間髪入れずに訂正する。メイラン自身もどちらでもいいが、一応だ。
「メイランはバレンタインを知っているの?」
「もちろんだ。チョコやらお菓子やらをくれるもんだろ。昔、貰ったことがある」
「へぇ、誰にもらったの?もしかして、好きな人?」
まさか、メイランが異世界のイベントを知っているとは思わなかったシャルルは思わず聞く。
メイランは過去をあまり喋らない。絶好の機会だ。
バレンタインでもらった、友チョコという名の不思議物質または実験物。
普段は思い出せないのにこういう時だけは思い出す。アイツの常に貼り付けられた目の笑っていない冷徹な微笑みをさらに深めて、蔑みながら渡してきた、暗黒物質。その後のことは、何も覚えていない。弁明しておくと、悪いのはアタシだ。
嫌なことを思い出した。
記憶を振り払うようにメイランは一回、呼吸をおく。
「…昔ノ主」
声が震えてしまうのは仕方のないことだ。
「メイラン、大丈夫?」
シャルルも思わず心配してしまうほど、声も身体もガクガクと震えている。
「シャルルはルードに渡さないのか?」
意外にも早い復帰をしたメイランはシャルルに問う。
メイランの元へと本ごと慌てて持ってきたのはそういうことだろう。
「…うん、渡したい」
シャルルは一気に顔面やら耳やらを真っ赤にさせて消え入りそうな声で頷いた。
シャルルとメイランはその足でキッチンへ行き、場所と食材を確保してもらった。
「今回するのは、これを溶かして固めて飾るっていう簡単なものだ」
メイランはまるで言い聞かせるように固い言葉でシャルルに向き合う。
ここまで、鬼気迫る勢いのメイランをシャルルは見たことがなかった。
「奇跡だ」
一体、なんだというのだろうか。
湯煎や型にチョコレートを流す度に、メイランはそう言うのだ。はっきりいって、怖い。
なんやかんやありながらも、無事チョコが完成する。
「ルード、今日も帰らないのね」
先ほどまで浮かれていたが、ルードが家にいること自体が稀だということをシャルルは失念していた。
メイドの一人から告げられた言葉でシャルルは我に帰ったのだ。
「どうした?ルードに直接渡すんじゃなかったのかい?」
「もう良いの」
「もう良い、ってそのチョコどうするんだ?」
シャルルは自室のベッドにくるまる。
落ち込むのと拗ねるのと悲しいやらで心がグチャグチャだ。
メイランの問いに答える気力もない。
「なら、アタシが貰うぞ?」
「うん、どうせ腐らせちゃうなら、食べて」
冗談のつもりでメイランは言ったのだが、シャルルは真に受け、顔さえ出さない。
ここまで何年も拗らせた夫婦にメイランはため息しか出ない。
シャルルは扉が閉まる音を聞いて、一人になったところで人知れず、涙を流した。
その日の真夜中、ルードは少しだけ時間が取れたため、屋敷へと帰っていた。広い屋敷内は静まり返っているため、少々不気味である。
「おい」
不意に声をかけられた、まったく気配がなくいつの間にかそこにメイランがいた。ルードは驚き、思わず臨戦体制をとった。
「シャルルからバレンタインチョコだ。アンタ良い加減にしないと飽きられるぞ」
メイランは丁寧に作られたチョコを渡す。
ルードが声をかける間もなく、メイランはそこにはいなかった。
ルードは包装を取り、チョコを食べる。
甘く、あたたかな気持ちとなるそれが疲れ切った頭に回る。
あと少しで証拠が掴める。そしたら、お返しを買いに行こう。
どんなのがシャルルに似合うだろうか。
ルードは自分の選んだ物を身につけるシャルルを想像して再び諜報活動に精を出す。
「ホント、面倒な生き物だな。ヒトって」
メイランはあくびをして、与えられた使用人寮に戻った。
アイツらが見たらお人好しと言うだろうな。
ふっ、と過去を思い出して今日はいい夢を見れそうだ。と軽い足取りで戻った。
ヘタレルードはお返しを日和って渡すことができませんでした。ほんと、ヘタレ!
同じ世界の未来である「フォルトゥーナ学園物語〜夜明けの大地でまた会いましょう〜」
目指すは学園シリアスコメディ。
ぜひ読んでみてください。




