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空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Chapter 2 -Tantalus Side-
9/13

Episode 1

 「ったく、ノアのやつは一体どこにいるんだ?」

 今日はこの広場に、街の住人が全員集まる。

 朝一番に来てからずって探しているものの、どこにも見当たらない。

 思い返せば、昨日のレッジの見送りでも見かけていない。

 「まあ、アイツのことだ。まだ寝ぼけてるんだろう。」

 そうぼやくと、魔法粒子の塊3つが接近するのを感じた。新しく誰か来たらしい。

 オレは駆け足でその方向へ向かった。

 「ゲッ、なんだよ、お前達か・・・。」

 そこにいたのは、ソーク率いる3人セットだった。

 「おぉ、『なんだよ』とはなんだ、えぇ?朝っぱらから喧嘩売ってるのか、おぅ?」

 ソークが対面早々、沸騰寸前なっている。

 「へっ、売ってねぇよ。そもそも、お前みたいなヤツが買えるほど、つまんねぇものは取り揃えてないんでね。」

 オレは中指を立てた。

 「ふヒャヒャ、1ヶ月くらいかぁ?お前には全く修行をつけてやれてなかったからなぁ。」

 ソークが炎をまといながら、ゆったりとこちらに近づいてくる。

 「ちょ、ソーク!こんな人前で、やめてください!」

 ウドーが止めに入ろうとするも、力の差がありすぎた。近づくことすらできていない。

 周りのヤツらは、いつの間にオレ達から離れて、ただ見ているだけだった。

 突然、炎の壁で観客達が見えなくなった。

 意識を集中させて、魔法粒子の流れを読み取る。

 「なるほどなぁ、中途半端に変換させた魔法粒子を飛ばして、それを地面にぶつける衝撃で一気に炎へ遷移させてるわけか。」

 レッジのところで学んできたことが、感覚で理解できる。

 「意味わかんねぇことベラベラくっちゃべってねぇで、これでも喰らって頭冷やすんだなぁ!」

 ソークは中間体の塊を飛ばした。それが後ろの方で炎の壁に衝突する。

 衝突地点から、炎の刃が飛んできた。

 スピードはそんなに早くない。簡単に避けることができた。

 「チッ、避けられちまったか。だが今のは試し撃ちに過ぎん!ソーク様の出来立てホヤホヤの、必殺技でも喰らえぇい!」

 そう言って、ソークは同じような塊を四方八方に撒き散らした。

 この技の原理もなんとなくわかる。最初に炎に接触した中間体が変化して一気に燃え上がる。その衝撃で推進力を得るのと同時に、残りの中間体を炎に変換させているようだ。

 意識をより集中させると、粒子の組み立て方で、向きを調整しようとしているのもわかる。

 「ヘッ、チンプーなくせに、よくこんな複雑な魔法粒子の操作ができるな。これがセンスってやつか?嫉妬しちまうぜ。」

 「今更後悔してももう遅いぜぇ、ノゾムよぉ。しっかり痛い目にあってよぉ、テメェの無能さを噛み締めるんだな。」

 余裕そうな態度を保っているが、ソークの目線には少し焦りが見え始めている。

 当然だろう。例の中間体は炎の壁に接触することなく、全て空中で静止している。

 オレの魔法は、中間体も支配できる。レッジの予想通りだった。

 「おいおいソーク、必殺技とやらはまだか?」

 「まぁ、そう生き急ぐこともねぇだろ?せいぜい束の間の安息を満喫してな。」

 ソークは慌てて例の塊を再び放出する。しかし、炎の壁を維持するのがラクではないようで、ほんの数個しか出てこない。それらを追加で支配するのは苦ではなかった。

 ソークの息が荒くなる。

 「ハァ、ハァ・・・。ひ、必殺技はやめだ。気分が変わった!直接ぶん殴る!」

 ここで支配している中間体を、一気に炎の壁に接触させた。

 炎の刃がソークを四方から襲う。

 「最初からそうしてりゃあ、お前が勝ってたんだけどな。」

 崩れ落ちるソークを見ながらつぶやいた。

 炎の壁が消え去り、視線がオレ達に集まってくる。

 「ほわぁ、あのノゾムまでも、とうとうオシショーに勝っちまったわぁ。」

 マーチャが近づいて来た。どうしてか、少し嬉しそうだ。

 「えぇなぁ。どんどん強い子が増えてくわぁ。ノゾムぅ、今度ウチともヤってほしぃわぁ。」

 そう言いながら、マーチャは腕を絡めてくる。オレはそれを迷うことなく払い除けた。

 「そ、ソーク!大丈夫ですか?」

 遅れてやって来たのはウドーだ。

 ウドーはソークをひとしきり揺さぶり、ソークが咳き込んだのを見て、胸を撫で下ろした。

 安心し切った表情で、チラリとオレの方を見た。その顔色が次第に変わっていく。

 「あ、えっと。まぁ、ほら。昨日の件もありますし、ソークもカリカリしてたんだと思いますよ。許してやってくれませんかね。フヒッ。」

 オレはゆっくりと近づき、ソークの顔面を踏みつけた。

 「コイツだけがカリカリしてるとでも思ってんのか、なぁ?」

 ウドーはゴニョゴニョと何かを口ごもるだけだった。

 「ノゾムやぁ、それはやり過ぎじゃぁあらへんか?オシショーはもう動けへん。試合終了やろぉ?」

 マーチャが臨戦体制にならないのは、強者ゆえの余裕だろうか。すでにソークと互角以上にやりあっていただけはある。

 「何もかも、お前らが勝手に始めたことだろ?終わりまでお前らが決めるっていうのは、ちょっとワガママなんじゃねぇか?」

 オレはマーチャの魔法粒子の流れを注視しながら、脚に力を入れた。

 「コレ、何をしてるか。」

 不意に、そんな声と同時に後ろから頭を叩かれた気がした。

 振り返っても、誰もいない。マーチャはオレを怪訝な様子で見ていた。

 「チッ、わかったよ!」

 ソークは仲間に支えられながら、立ち去っていった。

 3人組が見えなくなったところで、急に眩暈に襲われた。

 あんな量の魔法粒子を支配したのは初めてだったんだ。無理もない。

 オレはとりあえず、広場の端の方へ寄って休むことにした。

 傍観者達が勝手にオレを避けてくれたので、実に歩きやすかった。本当に。

 しばらくして、誰もが広場の一点へ集まり出した。

 その中央には、ひときわ圧縮された魔法粒子の塊があった。

 「いやぁ、スマン。遅くなってしまった!とにかく、集まってくれたことに感謝する!」

 顔は見えないが、この声は小さい頃から何度も聴いてきたからわかる。この国の王の声だ。

 あたりが王を讃える歓声で溢れる。

 「さぁ、みんなも忙しいだろう。さっさと用件を済ませよう!と、その前に。確か今年の卒業生で、音の魔法を使うヤツがいたろう?ウドーだったっけか?ちょっと来い!」

 情けない返事がどこかから聞こえてくる。

 「いやぁ、いつもなら大声で話し続けないといけないからな、実に助かるわい。ハッハッハッハッ!」

 さっきよりも鮮明に声が聞こえるようになった。

 「さて、まずは昨日の件。もうみんな知っているだろう。レッジが死んだ。」

 あたりが急に静まり返る。王は続ける。

 「アイツは長い間、実にたくさんの頼もしい仲間を育ててくれた。もう、大半がアイツの教え子なんじゃなかろうか。正直ワレは、そんなに頭が良くない!アイツの素晴らしさは、きっとみんなの方が何倍も理解していることだろう。」

 辺りから啜り泣きがちらほら聞こえてくる。

 「そして、だからこそ。だからこそ!レッジの残してくれたものを守り抜かんとならん!そんなことは言うまでもないはずだ!」

 ここで王の涙腺が限界を迎えたようだ。

 「だからこそ、次のインクレムどもの被害は0にしたい!アイツの魂が安心できるように、どうか今年も、力を貸してほしい!」

 王の泣き喚く声を民衆の歓声がかき消した。

 歓声が静まり返るのを待って、王は再び話し出した。

 「と、言うわけで。今年もインクレムの討伐隊を募集する。もちろん、強制ではない。残って畑を耕すのであれ、家を守るのであれ、それらも立派な戦いだ。ただ、レッジの教え子には頼もしそうな者が実に多い。腕に自信のあるものは、ぜひ奮って応募してくれ。以上!」

 そう言うと、王は帰っていった。民衆達も、興奮に声を震わせながらも、ひとり、また一人と広場を後にした。

 「・・・討伐隊か。」

 つい1ヶ月前まで、全く魔法が使えなかった。

 そんなオレでも、討伐隊に参加できるだろうか。

 強くなって、オレを蔑んだ目で見る奴らを見返せるだろうか。

 顔が引き締まっていくのを感じる。

 「やってみるか。・・・おいジィさん、見てろよ!あんまりの頼もしさに腰抜かさねぇよう、気をつけるんだな!」

 オレは山に向かってつぶやいた。

 山の木々はもうすっかり新緑に染まっていて、風になびいている。

 一瞬、葉っぱの光の反射が、金属のように煌めいたように見えた。

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