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Episode 3

 「さぁ!ノゾムに負けないように特訓頑張るぞぉ!」

 なんだか、身体がすごく軽い。どんどんと山の奥へと向かっていく。

 「お、おい、ノア。こんなに木がウジャウジャしてるとこまできよって、ちゃんと帰れるんやろなぁ?」

 周りを一瞥してみた。

 「・・・わかんない!」

 「うぉぉい!お前が死んだら、ミトコン様も死んでまうんやぞぉ!」

 少し離れたところで火柱が上がるのが見えた。

 「ひぃぃぃい!ほんとにこっちの方って、来て大丈夫なんかぁ?おいぃ、ノアぁ!」

 「あはは!大丈夫だよ。いざとなれば、魔法粒子で溢れてる方に逃げ込めばいいんだから。」

 「その行く先がバケモンだったら目も当てられんやろがぁぁぁあ!」

 肩の上で泣きじゃくるミトコンをそのままに、ボクはただ走り続けた。

 しばらくして、開いた場所に出た。

 「ぜぇ、ぜぇ。やっと止まったか・・・。そんで、ここはどこかいな?」

 「わかんない!でも、いい感じの場所だと思わない?」

 ちょうど、一軒家がひとつ建てられそうなスペースが、木が一本も生えずに保たれている。

 「なんや、この都合の良すぎる場所は。誰かが手入れでもしてんのやろか。」

 「あ、見て見て、向こうに滝があるよ!滝に当たると強くなるって、なんかの本に書いてあったはず!」

 早速やってみようと滝の方へ向かうと、ミトコンが目の前に来て止めてきた。

 「あんのなぁ、今のお前さんが滝に当たったところで、風邪引くのが関の山やわ。いいか、まずはそのホヤホヤの能力を理解するとことから始めるべきやないか。え?」

 「うぅん、そんな気がしてきた・・・。ところで、ボクの能力ってなんだったっけ?」

 「はぁ?今朝、説明してやったやないかぁ。魔法の逆!それだけや!」

 チンプンカンプンだった。ついつい、首を傾けてしまう。

 「まったく。あのレッジとかいうジッチャンが泣くで。まあ、えぇ。しゃーないから、もう一回だけちゃーんと説明したる。とりあえず、そのへん、座れや。」

 腰を下ろすと、目の前に黒板が現れた。字を書く部分だけが宙に浮いている。

 「おっと、ミトコン様の至れり尽くせりな講義に感動したからって、立ち上がったりするんやないで。これはお前さんに見せてる幻覚や。んで、お前さんが動けば、いっしょにコイツも動いてまう。えぇか、じっと聞いてるんやで。」

 ミトコンは黒板を手のひらで叩きながらそう言った。

 「簡単なとこから始めるで。お前はあのお空に浮いてる、エネルギーの塊みたいなやつは知ってるやろ?あそっから出てくるエネルギーが植物を育て、その植物を動物が食べて、こうしてできる食料をお前が食べる。要するに、お前が今、生きるのに使ってるエネルギーは、お空からもらってるようなものなんや。そんなら、魔法を使うエネルギーはどっから湧いてくるんや?」

 レッジ先生が、講義の最初の方にその答えを言っていた気がする。必死に頭を絞っても思い出せない。

 ものすごくガッカリした顔で、ミトコンは続きを話してくれた。

 「・・・お前、マジかいな。まぁ、しゃーない。正解は地下や。詳しくはまだ分かってへんけど、とにかく地面からなんかしらのエネルギーが沸いてる。お前たちの種族は『大地の恵み』なんて呼んでるが、もっといい名前なかったん?」

 「あぁ、なんか思い出してきた気がする。ボクとしては、覚えやすいから嬉しいけどね。」

 「覚えてないやんけ!」

 「ちなみに、ミトコンだったらなんて呼ぶの?」

 「そうやなぁ・・・」と、腕を組んで考え出した。少し苦戦しているようだ。

 「・・・うん、まぁ、それはどうでもええねん!続きいくで。大地の恵みをお前らの身体を通過する時、とある器官がそれに反応する。ホレ、この器官の名前くらいは覚えてるやろ?なぁ?」

 いい案は思い浮かばなかったらしい。一方でボクもこの質問の答えが思いつかない。

 しばらく沈黙を保っていると、ミトコンは頭を抱え出した。

 「お前マジかぁ、マジなんかぁ。今の様子、見られてたら、あのジッチャンがショック死してまうわ・・・。」

 「でも、合格したからオッケーだよ!それより、答えはなぁに?」

 「・・・前魔器官や。この反応で、体内に魔法粒子が生成される。それで、その魔法粒子を魔器官っちゅうヤツに通すと、各々で個性的な現象が起こる。炎出したり、金属作ったり、な。これがお前らが魔法と呼んでるものや。」

 急に質問を投げかけをやめて、スムーズに話し出した。最初からそうすればよかったのに。

 「ま、まとめるとこう言うことや。よく覚えとき。」

 そう言って、ミトコンは黒板に図を浮かび上がらせた。

 「おぉ、わかりやすい。」

 「そりゃどーも。で、こっからが本題や。お前の場合、色々とおかしい。前魔器官は機能してんのに、魔法粒子は作られないどころか、ただおんなじエネルギーを出してるだけや。なんなら、なぜか熱も発してるし、穀潰しって言ってもえぇわ。」

 ミトコンは何が面白かったのか、黒板をバシバシと叩きながら爆笑し出した。静かになるまで10秒はかかった。

 「ま、こっからが重要や。最初も言った通り、お前さんの魔器官は作用が逆向きなんや。つまり、その辺の物やエネルギーを、同等の魔法粒子にしてまう。」

 「おぉ、なんかすごそう!でも、今までそんなことできたことなかったよ?」

 「当たり前や。今までは魔法を出そうとしかしてこんかったんやろ?何度も言うが逆なんや。こっからはお前の感覚の世界だから、あまり助けてやれんが、なんか吸い取ってみる感じでやれば上手くできるんやないか?ま、とにかくなにかやってみ?お前の場合、考えたってしょうもない気がするわ。」

 ミトコンが指を鳴らすと、黒板が跡形もなく消えた。

 ボクは足元に落ちていた葉っぱをつまみ上げ、マジマジと見つめた。

 「吸い取る。吸い取るかぁ・・・。」

 目を瞑り、葉っぱを支える指先に意識を集中させる。魔法の逆・・・。葉っぱを作るんじゃない・・・。

 葉っぱを壊して、身体に吸い込むイメージを・・・。

 「おい、おい、ノア!おい、寝ちまったんか?ノア、ノア!」

 目を開くと、満面の笑みを浮かべてミトコンがボクの肩を蹴っていた。

 「やりよったなぁ!出会った時からおもろいやつだとは思っとたけど、ここまでとは思わんかったで。」

 ミトコンは葉っぱを持つ手を指差していた。

 ボクの手元には、葉っぱなんてなかった。地面にも落ちていない。

 「はは、ボク、ついに魔法が使えたんだね!」

 「あぁ、これを魔法と呼ぶのかは疑問やけど、やりおったなぁ!」

 嬉しさのあまり、ボクは水の中へと飛び込んだ。さっきの感じを忘れないように、いや、新しいことができるようになった高揚感で、ボクは手に触れる水を片っ端から消していった。

 「あ、待つんや!そんなに急に消しまくったら・・・」

 その瞬間、身体の中で何かが弾け飛んだ感じがした。身体のどこかがすごく痛い。すごく痛いのに、どこが痛いのかがぼんやりとしている。ボクは意識を失い、そのまま流されていった。



 オレはこれから、どうすればいい?

 魔法粒子を操る。それがオレの能力らしい。そんなこと、魔法を使う奴らなら、当たり前にできることだ。体外の魔法粒子であれば話は別ではあるが、それを操ったところでなんの役に立つというのか。

 いっそのこと、もうこのまま身を投げてしまおうか。そう思って川の方を見ると、なぜか先に川に流されているヤツがいた。

 よく見ると、そいつはノアだった。

 オレは自分の善意に負けて、ノアを川から引っ張り上げた。

 生きてはいるようで、胸を撫で下ろした。

 ふと、ノアの方からとんでもない量の魔法粒子を感じた。

 「何か面白いもんでも拾ったのか?」

 ノアの全身をくまなく調べて見たものの、何も見つからない。ここでようやく、この魔法粒子は全てノアの中にあることを理解した。

 「ありえねぇだろ・・・。」

 ここまで魔法粒子を溜め込んでいる奴はみたことがない。というか、ここまで蓄積しても身体は無事に済むものなのだろうか。

 試しに、ノアの魔法粒子を自分の中に取り込んでみる。半分にも移し終えないところで、苦しくなってくる。

 「どうして、おかしいだろ・・・。嘘だと言ってくれ。」

 意地になってそのまま続けるも、身体が弾けそうになってやめた。身体が熱い。

 今度こそ川に飛び込もうとしたところで、ポツポツと身体に冷たいものが当たった。

 ノアの方を見てみると、雨粒が優しく撫でているように見えた。

 「うぅん、身体中がイタイ・・・。ってあれ、ノゾム?なんでここにいるの?」

 「それはこっちのセリフだ、このノア『ホ』。お前が川から流れてきたんだ。」

 「あぁ、そっか。ちょっと特訓に夢中になりすぎてたみたい、助けてくれたんだよね?ありがとう。」

 その笑顔をめちゃくちゃにしてやりたかった。でも、きっとオレにはそんなことできる力はない。

 言うべき言葉を探しているうちに、ノアはだんだん困った顔になっていった。

 「と、とりあえず。もう暗くなるからさ、帰ろうよ。」

 もう少しで山を出るというところで、オレたちはもうフラフラだった。

 「ふヒャヒャヒャ!探したぜぇ、魔法なしコンビ!プロタンティスは来てくれたかぁ?」

 ソークに出会ってしまった。

 「まあ、どっちでもいい!今日はオレの新たな力を見せてやるぜ!せいぜい、参考にするんだなぁ。」

 次の瞬間、俺たちは炎のオリに閉じ込められた。

 すぐにソークの魔法粒子の流れを妨害しようとした。しかし、魔法粒子の扱いの年季が違いすぎるのか、ほとんど効果がない。

 「これだけじゃないぞぉ。今のソーク様はなんと、もう一個魔法を同時に使える!」

 ソークは炎の剣を作り出した。峰で肩を叩きながら、じわじわと迫ってくる。

 「ソーク、ありがとう。」

 もういつでもオレたちを殺せそうな距離まで近づいたソークに、ノアが言った。

 「ふヒャッ!ついに頭がおかしくなったのかぁ、ノアよぉ。とりあえず、これでもくらいやがれぇ!」

 炎の剣が、オレたちを薙ぎ倒さんと、空気を切り裂きながら迫ってくる。

 ソークが腕を振り切った。

 しかしオレたちは傷一つ負うことはなかった。ここでようやく、剣もオリも無くなっていたことに気がついた。

 「お、お前ら。いったい何をしやがった!」

 ソークが声を震わせながら叫ぶ。そこにノアがゆっくりと近づいていく。

 ノアが近づくのに対し、ソークは少しずつ後ずさっていくが、足が絡まったのか地面に尻をついてしまい、あっという間に距離を詰められてしまった。

 ノアの背中に隠れ、二人がどんな顔をしているか見えない。疲労からか、何を話しているかも聞こえない。

 オレはそのまま倒れてしまった。

・魔力

魔器官、前魔器官のはたらきや、魔法粒子の蓄積の限界量、魔法の出力等、魔法に直接関わる全ての力をまとめたもの。具体的に数値で測られるものでなく、なんとなくで強弱を語るようなぼんやりとした概念。

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