表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Last

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/45

Episode 6

 街が起きて、その動きが落ち着いた頃、マーチャが来た。暇なので、戦ってくれとのことだった。

 ボクたちは街の北の方の山の、開けた場所にやってきた。ヒナとローズ、そしてミルとザードも来てくれた。

 ノゾムはいなかった。ボクがタンナの方へ行く前に、お互いの力を見せ合おうと約束をした。それなのに、ノゾムはボクのことを避けているようで、ここ数日は会うことすらできていない。ちょっと集中すれば居場所はわかるんだろうけど、それは何だか違う気がしてやっていない。

 「なあ、ノア。アンタが強いのはよう知ってるけど、そんなふうにボーッとされるんわ、ちょっと傷つくわぁ。」

 戦いの始まる前、向き合っている。マーチャは少し悲しそうに目を細めていた。

 「えっと、ごめん・・・。じゃ、始めようか!」

 ボクがそういうのと同時に、マーチャは突っ込んできた。

 ボクの能力では、直接、相手を攻撃する手段がない。相手の身体を消し去ることはできるし、それをやった時にはヒナが回復できてしまうけれども、流石に気が引ける。

 マーチャの拳が顔面に迫る。想定より速い。ボクはその拳の速度を消して、慌てて距離を取った。

 しかし、それをマーチャは許さない。速度の消去で何回身体を硬直させられても、ひたすらに殴りかかってくる。

 マーチャが速い。ドニスに魔法抜きでも戦えるようにとしごかれていなかったら、ボクはもうボコボコにされていたかもしれない。

 防戦がしばらく続いて、ついにマーチャの拳がボクの腕の防御に届いてしまった。

 速度の消去が間に合っていないだけで、まだ大した威力を叩き込まれていない。その拳は熱かった。

 マーチャの魔法の炎のような熱さではなく、体調を崩した時の、頭がボンヤリとするするくらいの熱さ。

 そういえば、ドニスがこんなことを言っていた。

 「生き物は、力を使いすぎて死なないように、途中で制御する仕組みを持っている。だからピンチになった時は、それを消して仕舞うのも戦略としてはあるかもしれん。もっとも、オマエがそこまで追い詰められるなんて、オマエ自身のおマヌケくらいじゃろうがな。ガハハハ!」

 方法は分からなけれど、マーチャは熱で感覚を麻痺させているのかもしれない。だから、こんなにも速い。そして、この状態でしっかり動けるくらいに、身体を慣らしているということになる。その表情は、辛さを微塵も感じさせない。

 でも、マーチャは一言も話さない。昔、ソークやボクと戦う時は、いつも楽しそうにしていた。「ウチの攻撃はすごいやろ」だとか、「アンタも強うなってるなぁ」とか。それが今は、一切ない。

 マーチャの足先が、鼻先に触れた。口角が上がるのが見えた。でも、その顔は真っ赤になっていた。肩が上下に激しく動いている。

 これ以上は、危ないかもしれない。早く勝負を終わらせるべきだ。でも、口で言っても聞かないだろうし、降参は認めてくれない気がする。

 そんなことを考えた一瞬、隙ができてしまったみたい。ボクはマーチャに押し倒されて、背中から頭を地面に打ち付けてしまった。

 そのままマーチャがボクに馬乗りになる。マーチャが乗っかっているところが、熱い。

 マーチャがボクの方へ両手を向けて、炎の塊を撃ち出した。だいたい、頭の大きさくらいの炎。この距離であれば、なるほど、消せるとはいえ、対処が難しくなる。マーチャが今まさにやっているように、連射されれば尚更だった。

 炎の隙間から、その発射の反動に倒れそうになっているのが見える。やっぱり、早く止めるべきだ。

 戦いを見ている人たちに視線を向ける。止める力が無いか、最後まで戦えと言いそうな面構えだった。

 マーチャがこんな熱にうなされるような戦いをしなければ、ボクももっと安心して戦えたのにな。そう思ったところで、一つ思いついた。

 熱を消せばいい。

 ボクは防御を諦め、マーチャの方へ手を伸ばした。マーチャは避けるそぶりは見せたけれど、手は簡単にその腹部へと到達した。

 体温はさらに上昇していた。

 一気にマーチャの身体中の熱を消し去る。ちょっとやりすぎた気はするけれど、まあ、大丈夫だと思う。

 マーチャの動きが急激に鈍くなり、思い出したかのように、深く、深く、しかし苦しそうに呼吸をした。

 頭が復帰していないのか、トロンとした目つきで、さっきボクが触ったあたりを、何かを確かめるように撫で回している。

 そして、ボクの方を見て、くしゃみを一つ。しばらく見つめあった後、マーチャが倒れた。

 ボクの心配とは裏腹に、マーチャはすぐに目を覚ました。ヒナが治してくれたとはいえ、このたくましさは、ローズを彷彿とさせる。

 だからかローズを自然と見ていた。ローズは怪訝な表情を返してきた。

 「アハハ・・・。まだ誰にも見せてないとっておきを使ったいうのに。こんなにあっさり負けてまうとは思わんかったわ。」

 マーチャは笑顔の中に困惑を隠しながら、ため息をついた。

 顔の火傷はミルが治してくれているけれど、まだちょっと痛む。それなのに、「あっさり」と言われてしまうのは、変な気分だった。

 「それにしても、あんな無茶は良く無いよ。ソークたちは反対しなかったの?」

 何気なく聞いたつもりだったのだけど、マーチャはボロボロと泣き出してしまった。

 「ちょうどアンタがいなくなってからすぐ、ソークもウドーも、ウチから離れてまった・・・。」

 「え、どうして?あんなに仲が良かったでしょう?」

 マーチャはワッと泣き出してしまった。手のひらでクシャッと目を押さえ込んで、その隙間から流れる涙が、歪んだ口元のそばを通った。

 ヒナとミルがそばによって、あたふたと励まそうとしている。マーチャがヒナへ抱きついた。ミルは一瞬、悔しそうな顔を見せた。でも、すぐに持ち直してマーチャに優しい言葉をかける。

 「もうついていけんって・・・言われてもうた。ウチが強くなって、足を引っ張りたく無いって。でも、ウチは、そりゃぁ、バチバチに戦えないのは残念やけど、でも、でも。ちっちゃい時から一緒にいた、ソークが、ウドーが、大好きなんや。」

 ヒナの腕の中で、マーチャがモゴモゴとしている。ふと、ヒナはずっと、誰かを撫でているような気がした。

 「よし、アタイがガツンと言ってやるから、そのバカ二人を呼んできなさい!」

 ミルが鼻息を荒げながら腕まくりをした。

 「いや、もうこれでええんや。ウチがソークに連勝するたびに、ソークは苦しそうにしてたんや。ウドーに相談するところを、何度も見かけてもうた。ウチは、あの二人にそばにいちゃいけないんや・・・。」

 「フン、どうせそれ、二人には話していないんでしょ?だったら、決めるのは早いわ。」

 ミルがあまりにも自信満々に言うからか、マーチャはそっとミルの方へ振り返った。目元がうっすら赤い。

 「こんなとき、ノゾムがいれば心強かったけど、あのバカは朝からいないし・・・。ま、仕方ないわ!みんなで、ソークとウドーを、マーチャの前に引き摺り出すわよ!」

 ミルがそう宣言すると、ヒナは嬉しそうに応えた。ザードとローズはちょっとめんどくさそうだったけど、ザードはミルに、ローズはヒナに逆らえないらしい。戦えばその関係は逆だろうに。

 ミルを中心に、ポンポンと話が進んでいく。ボクはマーチャと二人で街の外を探すことになった。

 「なんか、色々付き合わせてもうて、すまんなぁ。」

 マーチャがボクにおぶさりながら、耳元でつぶやいた。さっきの戦いで、まだ身体がだるいらしい。

 「いやいや、インクレムでも来ない限り、暇だから。気にしないで。」

 マーチャはヘヘッ、と朗らかに応えた。

 街中をザッと調べたつもりだけど、二人は見つからなかった。でも、ボクは空間を俯瞰して見るこの感覚を、ドニスほど正確に扱えるわけでもなかったから、ヒナたち四人が街中を探すことには何も言わなかった。ボクたちが街の外を彷徨っているのは、そのどこかにいるかもしれないと、ボクが言い出したからだ。

 「なぁ、ノア。」

 二人の目と感覚を集中させてしばらく探索していると、マーチャが声をかけてきた。

 「ウチ、二人に話したいこと、いっぱいあるんや。長く話してなかったからなぁ。」

 ボクは何と返せばいいか分からなかったので、集中しているふりをした。それでも、マーチャは喋り続けた。

 「特に、プロタンティスのこと!王に教えてもらっただけで、まだ誰にも話してないんやけど、きっと、ソークは腰を抜かすやろなぁ・・。今から、ちょっと楽しみやわぁ。」

 「そっか。」

 「うん、そうや。はよ会いたいわぁ。昨日だって、街中で見かけたっていうのになぁ・・・。」



 「いい加減、諦めたらどうだ?帰りの体力を計算する頭もないのか?」

 オレはまだ、一人になれていなかった。後ろにいるソークもウドーも、まだオレから離れようとしない。

 しかし、余裕はないようで、二人が言葉とわかる音を発さなくなってから、しばらく経った。その間、ただただ、オレの後をつけるだけだった。

 ここで走ってコイツらを振り切ることは、不可能ではないだろう。でも、それは流石に気が引けてしまった。じゃあ、二人が倒れたら外まで引き摺り出してやるのか、と聞かれれば、少し答えに迷ってしまうだろうけど。

 「さっさと帰れよ。まっすぐにしか進んでねぇんだから、そのまま後ろに行けば帰れるだろうよ。」

 返事はない。

 「あのなぁ、オマエが勝手に修行なんて言っただけで、オレは一言も、これが修行なんて言ってねぇぞ。こんなことで野垂れ死ぬなんて、みっともねぇぜ。」

 この紫の環境に慣れてきたのか、耳が機能するようになってきた。そのせいで、後ろの足音が耳障りで仕方がなかった。

 「オイ!返事もできねぇんだろ?さっさと失せろよ。」

 返事はない。だが、その歩みは止まらない。

 意味がわからなかった。どうして、こんなに馬鹿げたことを続けられるんだ。何がコイツらを突き動かしているんだ。

 もし、オレにこれだけの気概があれば、ミルの哀しそうな顔を、あんなに見ることはなかったのだろうか。

 そんなことが頭をよぎると、何かに衝突した。それを手で探った感じ、壁としか言えない何かだった。

 壁らしきものを調べていると、後ろからぶつかってくるものが一つ。ソークだ。そして、遅れてソーク越しにぶつかったのは、ウドー。

 「ハァ、ハァ・・・。つ、着いたのか?」

 ソークの掠れた声は、本当にギリギリ聞き取れるものだった。

 「・・・目の前に、よくわからん壁がある。だから止まった。というか、目的地なんてないって何度言わせんだよ。さっさと帰りやがれ!」

 ここまでの道のりで、ずっと返事がないものだから、耳がやられてしまったかと思っていた。でも、ソークはオレの横に立って、壁を手探りで確かめていた。ウドーもそれに従う。少し、腹が立った。

 オレは昂りそうな気持ちを舌打ちで誤魔化しながら、改めて壁を触ってみた。

 石でも木でもない感触。それは磨き上げられたように滑らかで、川の水のようにヒンヤリとしていた。

 そしてそれは高かった。紫のモヤで遮られているので、どこまで広がっているかはわからないが、少なくともジャンプ如きじゃテッペンを触ることは叶わなかった。

 こんなにも巨大で、不気味なほどにまっすぐに滑らかなそれは、誰かが作ったかのように思えたけれど、一体、こんなものを誰が作れると言うのだろう。

 ふと気になって、壁の根本を調べて見る。地面を掘っても掘っても、その壁の末端は現れなかった。その代わりか、水が染み出してきたので、オレは反射的にそこを埋め直した。

 壁の正体への関心が薄れてきたところで、すぐ横で爆音が響いた。

 紫のモヤが一瞬腫れて、ソークの姿が顕になる。足でしっかりと地面を捉えて、両手を壁の方へ向けている。まさに、壁を壊そうと魔法を撃ちましたと言った感じの姿勢だ。

 あっという間に、紫雲があたりを満たす。

 「オマエ、バカだろ?こんだけ濃い魔法粒子に晒され続ければ、体内の濃度だって異常に上がる。それで魔法を発動させたとなれば、魔器官がぶっ壊れるぜ?」

 ミルだって、限界以上の魔法粒子を流したから、あんなことになった。

 突然、ソークが笑い出した。フッフッフッ、といった感じの鼻につく感じで。魔法粒子が排出されてちょっとばかし楽になったんだろうが、この状況で笑い出すとは、ついに頭がやられたか。

 「そうか、わかったぜ!目的地があるんじゃなくて、ここで歩き回るのが修行だったんだな!」

 またまた、ソークがキチガイじみたことを言い出した。やはり、頭がやられてしまったらしい。

 「なるほどなぁ。考えたなぁ、ノゾム。これだけの魔法粒子に晒され続ければ、魔法粒子の操作精度も上がるし、圧縮の練度も上がるし、魔法の出力も上がるだろうよ。いや、上げざるを得ないと言ったところか?」

 バカの発想だ。ぶっ倒れるまで走り続ければ、一日で足が速くなると言っているようなものだろう。

 「よし、こうなったら、とことんついていってやるぜ・・・。」

 ここで限界が来たようで、その声は次第に弱々しくなっていった。

 ソークの執念が、気色悪くすら思えてきた。しかし、それ以上に、目の前にたたずむ壁を気色悪く思った。

 先ほどのソークの一撃で視界が晴れたとき、壁は全く傷ついていなかった。それはひたすらに無色透明で、オレたちのいる世界の外側に、真っ白な世界が広がっているのを見せた。

 オレは再び、壁に魅せられた。壁の向こうの世界はもう見えないが、より強い誘惑を放っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ