Episode 6
2025/9/14 文がおかしくなっているのを修正しました。
誤:ミトコンボクのが移動に 正:ミトコンがボクの移動に
「なあ、ノアよぉ・・・。いい加減にしてほしいんやが。」
スタスタと歩いていくローズを追いかけていると、唐突にミトコンが目の前に現れた。なんだか、妙に息苦しそうに見える。
「えっと、なんの話?」
特に心当たりはないのだから、そうとしか返しようがない。すると、ミトコンはわざとらしく泣き出した。
「このミトコン様はプロタンティスであるがゆえ、お前と生き死にを共にしてるんやぞ!わかってんのかいな?お前、何回死にかければ気が済むんや!おぉ?」
「あぁ、それで急に出てこなくなったんだ。」
「もっと言うことあるやろ。うぅ、なんてハクジョーなヤツや・・・。とにかく、もう死にかけるのは勘弁やで。ええか?生きてることはいいとしても、もう危ないことせんでほしいねん。」
ここで、ローズの怒鳴り声が聞こえて来た。ミトコンが急に出てきたせいで、まあまあ離れてしまっていたらしい。
ちょうど足元からローズの魔力を感じたので、ボクは慌てて走り出した。
ミトコンがボクの移動に合わせて水平に動きだしす。オイオイと泣きながら。
「そうは言われてもなぁ・・・。次はドニスにいくことになっちゃったよ。」
それを聞いたミトコンは、ブルブルと震えながら頭を抱えてしまった。
「ドニスいうたら、バケモンがいるとか言ってたとこやったか?・・・まったく、オモロイと思ってお前についたのが間違いだったわ。インクレムの襲撃でも、こう何度も死にかけることなんてないんちゃうか?」
「アハハ、そうかもね。」
「笑ってる場合か!もういい!」
そう吐き捨てて、ミトコンは視界から消えてしまった。
それからしばらく駆け足で進み、ようやくタンナの東の出口に着いた。
見上げる高さの壁の根本に小さく開いた扉。そこにローズが寄りかかっている。まだ機嫌が悪そうだ。
「遅い!」
「いやいや、ローズが速いんだよ・・・。」
呼吸を整えながら、どうにか返事をした。
「そんなことは知らん!そもそも、速いと言うのであれば、空間魔法らしき力を使えばよいだろう。」
「あれはそんなに気軽に使えるモノじゃないよ。それに、使おうとすれば逃げたとか言いがかりをつけて、またボコボコにされる気もするしね。」
なんと、ローズが舌打ちをした。元から逃げるつもりはなかったけれど、これは大人しくしたほうがよさそうだ。
「まあ、どちらにせよ。今からお前をボコボコにさせてもらう。」
ローズが扉を開錠しながら、苛立ちをその言葉に乗せている。
「え、どうして?!」
ローズは応えることなく、扉を蹴破った。
「いいから、さっさと出て位置につけ。この先はちょうど開けた場所になっている。」
「ちょっと待ってよ。これからドニスに行くっていうのに、ケガするようなことはしないほうがいいと思うんだけど。」
「なに、ケガをしたら治して貰えばいいだけじゃないか。」
ローズはボクの後ろを指差した。そちらを見ると、ぎこちない走りでこちらに誰かが近づいて来ていた。その足元には、何かしらの魔法が今にも牙を向かんと地中を這いずり回っている。もちろん、ローズの魔法だ。
「ハァ、ハァ、ケホッ・・・。ようやく追いつけました。」
「ヒナ!どうして?」
ヒナが懸命に何かを伝えようとしている。しかし、息絶え絶えで何を言っているのかわからない。代わりにローズが話し始める。
「そいつはお前と同じく能天気らしい。お前に協力したいというものだから、好きにさせてやることにした。」
ヒナはそれを肯定するように、フラフラしながらも眩しい笑顔を見せた。
「それは頼もしいけど、いいの?人質なんじゃなかったっけ?」
「あぁ、それなら問題ない。ワタシも同行するからな。ホラ、さっさと行くぞ。」
振り返ることなく進んでいくローズを追いかけると、聞いていた通りに、ちょっとしたスペースがあった。一周ぐるっと回るのが少し時間がかかりそうなくらいの大きさで、その周囲を雪を被った木々が囲っていた。
出口を抜けて正面からやや左の方に、木々の間に一本の道がある。それはゆったりとした下り坂で、そのずっと先、雪が途絶えるもっと向こうに街が見えた。
「あれがドニスだ。」
ローズが扉の鍵を閉めながら言った。
「見ての通り、リタスまでの道のりの倍はあるだろう。つまり、今お前を叩きのめしたところで、十分に休息できるはずだ。」
ローズはボクから十分に距離をとりながら、身体から魔力がほとばしらせていた。
「ねぇ!どうして戦わなくちゃいけないのさ。」
ローズはそれに応えることなく、素早くボクの方へ迫って来た。心配になり、ヒナの魔力がある方を見ると、いつの間にか少し離れた木の陰に隠れていた。
ほっとしたのも束の間、頬に何かが打ち込まれる。ローズの拳だ。それは氷で覆われていて、硬く冷たかった。殴られた場所から血が滴り落ちた。
「よそ見をするんじゃない。真剣にならねば、そいつの回復でも復活できるかわからんぞ?」
深い青に染まったその瞳はあまりにも鋭い。背筋が凍りそうなのは寒さのせいだけじゃないみたいだ。
今度は反対の頬へ拳が迫っている。すぐにその速度を消したつもりだったけれど、接触を許してしまった。
その拳のまとう氷が、頬にガッチリとくっついてしまっている。ローズはなんのためらいもなく引き剥がし、再び距離を取った。
「ふむ、スピードまでも消せてしまうのか・・・。」
ローズの拳から氷が霧散する。
「さて、どうしたものか」なんてローズがぼやく。ところが、そう言い終える頃には無数の氷のイバラがボクを囲っていた。
見渡す限りの、息が詰まるようなトゲ。魔力の感じから、おそらく地中も油断できない。刺々しい光景の隙間からは、さらにイバラが見える。その密度はただただ急上昇。
死が頭をよぎるほど満ち満ちている。それなのに、まだまだ増加を続ける。
ふと、ローズ自身の魔力が感じ取れなくなっていたことに気づく。トゲの先端まで魔力がギッチリと込められていて、外の魔力が遮られているみたいだ。
このままだとマズイ。ボクはイバラの壁に穴を開けようと、腕を振りかぶる。
そのとき、ヒナをリタスから連れ出した時の、あの感覚を思い出す。すると、頭の中に外の様子がボンヤリと流れ込んでくる。
ローズの表情が暗い。眉間に皺を寄せ、爪を噛んでいる。
ボクを囲うイバラの量はかなり多い。ただでさえギッチリと密集しているのに、ボク5、6人くらいの大きさはある。こんなのに押し潰されたら、ひとたまりもないだろう。それだけでローズの勝ちだ。
それなのに、ただいたずらにイバラを増やすばかりで、目的が見えてこない。
ローズの目線が横にそれた。その先にはヒナ。
ヒナは口元に両手を添えて何かを喋っているようだけど、全く聞こえない。
弱々しく口を動かすローズ。ヒナが再び何かを叫ぶ。
ローズが手のひらを天高く掲げた。そして、大きく振り下ろす。ギュッと目を瞑りながら。
イバラの塊が急速に縮小する。
身体中にトゲが突き刺さる。それでも収縮は止まることなく、刺さったトゲが傷を広げながら、ボクは押し潰されていく。
多分、消してもキリがない。ボクはあの暗闇へ逃げることにした。
穴を開けると、イバラの圧力によって向こう側へと押し出された。
こっちにはあまり長居はできないけれど、とりあえず一安心。
ホッとため息をつくと、足に激痛が走った。
穴が閉じていく最中、元いた場所からわずかに差し込む光ではっきり見えた。イバラがボクの脚に深々と巻きついている。
穴が完全に閉じ、イバラは切断されたのを感じる。それでも、しっかりと食い込み続けている。
痛い。すぐに消してしまわなければ。
ここで、ローズに思い切り殴られたことを思い出す。
脚を離れない氷の塊を指で突いてみる。やっぱり硬い。そして異常に冷たく、指の皮膚が少し剥がれてしまった。
ローズの方に視線を移してみる。イバラの繭はいつの間にか、ボク一人分の大きさになってしまっていた。そこから滴る濁った水が、ポタポタと雪にシミを残す。ローズはそれを震える目で見つめていた。
何はともあれ、多分これはチャンスだ。
ボクはすぐさま、ローズの背後に飛び出て脚にまとわりつく氷をローズの後頭部めがけて、力任せに振り回した。
着地の音で、すでにローズは振り返っていた。虚ろな表情。しかし驚きに染まりながら、ボクの蹴りを真正面から受け止めた。
ローズの全身が雪に沈む。顔のあたり、白銀に真っ赤な花が咲いた。イバラの塊は砕け散り、キラキラと彩る。
「か、勝った・・・のかな?」
ただでさえ寒いのに、追加で氷漬けにされるものだから、もう身体が思うように動かない。
もうだめだ。そう思った時、何かが身体を支えてきた。
それは非常に冷たい。ハッと、閉じかけた目を無理やり開くと、氷のイバラが四肢を縛り付け、ボクを空中に固定していた。
正面からローズが迫ってくる。ここまで口角が上がっているのは初めてみる。一方、それより上は真っ赤に崩れていてよくわからない。おそらく、見えていないんじゃないだろうか。
「フフ、ハハハハハ!タイマンで一撃喰らうなんて、何十年ぶりやろか!ヒナとやらの言う通りなのは少々、シャクやが、まあいい。続けるで!」
そこから、ローズの猛撃が始まった。氷をまとうパンチは当たり前。氷のつぶてが四方八方から飛んでくる。氷のイバラの鞭打ちのおまけ付きだ。理解できたのはそこが限度で、あとは手枷足枷を消すのに精一杯だった。
何もかもが消したそばから再生する。こんなのに勝てるわけがない。
いつの間にか意識が途切れていたみたいだ。
ボクは慌てて立ちあがろうとするも、身体が全く動きそうにない。声も出ない。
目を大きく動かして、周囲を見渡した。
ボクは木製の大きな乗り物に乗せられているみたいだ。ときおりガタガタと揺れては、軽く床に頭がぶつかって痛い。窓の外では、雪化粧の木々が流れていた。
何枚かの毛皮が身体を覆っているおかげか、寒さは感じない。
「そうは言っても、少しはスッキリしたのではないでしょうか?」
聴覚がはっきりとしてきたところで、ヒナの声が聞こえてきた。
「ま、まあそうだが・・・。」
バツが悪そうに答えたのはローズだ。
「しかし、本当にお強いのですね。噂で聞いた以上に圧巻でした。」
「フン、あんなのは半分にも満たない。まあ、ここ何十年と、あそこまで本気を出したのは久しぶりではあるが。」
「フフフ。それで、少しは寂しさは紛れましたか?」
誰かが床を殴った。
「う、うるさい!そう、あんまりストレートに言わんでくれんか?」
「あら。正面から受け止めてくれるお相手が欲しかったんではなかったのですか、ローズ様?」
床が大きく揺れ、そこらじゅうの荷物がガタガタと喚いた。
「・・・そうやな。あいつはすごい。つい数日で、ウチに一発入れられるようになった。ウチはあんなに無理やり、しかもあんなに不自然に勝負しかけたいうのに、全力で応えてくれた。」
窓から見える木は、気づけば雪をほとんど纏っていなかった。
「それにしても、アンタの回復はとんでもないな。ハッとした時には、ノアを殺してしまったと青ざめてたんやけど、あっさり治してまう。ウチの目だってもうダメだと思っていたんやけどなあ。」
「お褒めいただき、光栄です。これで、心も治せれば良かったのですけどね。」
「ハハ、それは十分治してもらったわ。ずいぶんと荒療治やったけど。」
「ですが・・・」とヒナがこぼす。その先は声になっていない。
「もうスッカリ気が晴れたんや。ウソやない。まあ、ノアには少し悪いことしたが・・・。というか、そんなに人のことばかり気にしてたら、疲れてまうやろ。」
ヒナは力無く笑うだけで、何も言わなかった。
「・・・スマン。勝手に感じ取れてまういうてたもんな。ウチがうるさいだけやもんな、ハハ・・・。」
「い、いえ!どうか、お気になさらないでください。」
ヒナは、そう声を大きくした。ところが、おかしな笑いを抑えられなかったようだ。その合間にすすり泣く音。
乗り物はそれでも進み続ける。




