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空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Chapter 2 -Elpis Side-

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18/45

Episode 1

2025/8/27 最後のローズのセリフの間違いを修正しました。

誤:ノゾム 正:ノア

 上下左右もわからない。ただただ、真っ暗な場所。

 ふと、両手を見てみるも、光は無く、そこに手があるのが納得できない。

 そんな中でも、ミトコンは真っ暗な視界の中に浮かび上がっていた。

 「おい、ノア。これはどういうことや?お前さん、いったい何をしたん?」

 「・・・わかんない!」

 「こんのドアホ!こんな意味わからんとこで、ミトコン様は死にたくないで?!何がなんでも、早く戻るんや!」

 ミトコンが頭を叩く。ボクは自分がここにあることに安心する。

 ここには何もない。音がない。風もない。少し寒い。

 「戻りたいのはボクも山々なんだけれど、どうやって動けばいいかな?地面もないし、掴むものもないんだ。」

 「じゃ、お前さんはどうやってここにきたっていうんや?!とにかく、何か考えるんやぁぁ!」

 ミトコンがさらに暴れだす。

 何かないかな。ボクは改めて辺りを探った。

 見えるもの、なし。聞こえるもの、なし。匂うもの、なし。触れるもの、なし。もちろん、味なんてない。後は・・・。

 「そうだ、魔法粒子!」

 さっきまでは気が動転してたのか気が付かなかった。この空間は、みっちりと魔法粒子で満たされている。

 「だからなんやねん!お前さん、魔法粒子をつかめるとでもいうんか?もっと真面目に考えてくれんか・・・。」

 「大真面目だよ!ねぇ、ボクの魔法って、魔法粒子も消せるのかな?」

 「知らんがな!気になるなら、気が済むまでやってみたらええやろ?そんで、はよ帰る方法をお前さんも考えてくれ!」

 ミトコンは妙に難しそうな顔をしながら、あぁでもない、こぉでもない、と呟いていた。

 ボクはあたりの魔法粒子に意識を集中させた。

 身体の内と外で、その濃さが全然違う。身体の輪郭が帰ってくる。

 ボクは思い切り、目の前の魔法粒子を消そうとしてみた。

 「あ、できた。」

 ボクの前には、ちょうど自分がぴったり収まりそうな、本当に何もない空間ができた。

 そして、身体がゆっくりと、周囲の魔法粒子と共にそこへ吸い込まれていく。

 「ん?ノア。お前さん、なんかしたか?今、動かなかったか?」

 「うん!魔法粒子を消して、その空間に流されたんだよ。これで移動ができるね!」

 「ほ、ほーん。ようやくそのことに気づいたんか。ま、及第点ってとこやろか・・・。」

 ミトコンはなんだか、偉そうに腕を組んで何度も頷いている。

 「あれ?さっきはなんか違うことを言ってたような・・・?」

 「そんなことはもうええねん!さぁ、早よこんなとこ出るで。チャッチャと移動せんかい。」

 ミトコンはすっかり落ち着きを取り戻してくれたようで、肩の上で鼻歌に興じている。

 ボクはひたすらに目の前の魔法粒子を消していった。

 「なぁ、ノア。ところで、どこに向かっているんや?」

 「・・・前!」

 ミトコンの顔が徐々に真っ青になる。

 「このマヌケがぁぁぁ!さっきの場所から遠ざかってるかも知れへんやん!このアホ!アホぉ!」

 「まぁまぁ、なんとかなるでしょ」と言おうとしたところで、急激なめまいに襲われた。

 全身に激痛が走る。

 「お、おい、ノア。急に悶えだしたりして、どうしたんや?」

 「い、痛い・・・。痛い!」

 感覚が変に敏感になる。魔法粒子の存在が痛い。頭が割れそうになる。

 ミトコンの声や姿が、ぼやけてノイズになる。

 息苦しさの中、ふいに、魔法粒子が極端に少ない場所があることに気がつく。

 残った意識を振り絞って、そっちの方向にある魔法粒子を消そうとした。

 しかし、そっちには魔法粒子はない。周囲が魔法粒子に満ち満ちているはずなのに。

 そちらへ向かうのに、何か遮るものがある。

 ボクは必死にそれを手探りで探した。しかし、何も掴めない。

 視界が歪む。真っ暗なはずの視界が、病的な彩りを見せる。

 ボクは力を振り絞り、その方向へ拳を振り下ろした。


 「おい、ノア!早よ起きんかい。」

 目を開くと、どこをみても白銀の広がる、とても寒い場所だった。

 「ヒィ!寒いなぁ。まだまだ夏すら来てないっていうのに・・・。ここはどこ?」

 「知らんがな・・・。とりあえず、どこか寒さを凌げる場所を探さんと、死んでまうで。」

 ミトコンはちょっとおおげさに震えている。

 周囲を見渡すと、ここは森のようだった。この気候にも関わらず、葉っぱは落ちていない。針のような形が何か関係あるのだろうか。

 空はどんよりとしていて、なんだか気分も下がってしまう。

 前後左右が全く同じに見える中、とりあえずちょうど向いている方向へ進もうとしたところで、首の後ろに鋭い冷たさが触れてきた。

 「動くな。」

 驚いて振り向こうとしたところ、首に鋭い痛みが襲う。たぶん、少し切り付けられた。

 「お前はただ質問に答えろ。余計なことを喋れば殺す。」

 ミトコンの方に視線を移してみた。ものすごく震え上がっていて、頼りにならなさそうだ。

 「お前、出身はどこだ?」

 「あ、アフーラ・・・。」

 「アフーラだと?ふむ・・・。では、お前の魔法はなんだ?」

 なんて説明すればいいかわからない。ボクは何も言えなかった。

 「何をウンウン唸っているんだ?・・・まぁ、いいだろう。ところで、お前は一人か?」

 「ま、まぁ、そうだけど。」

 突然、至る所から、背筋が凍るような感じが発せられた。マーチャと戦っている時に感じてきた、魔法発生の感覚。

 咄嗟に前へ駆け出して、後ろを振り返る。

 ボクの首があった場所は、地面から伸びる細い氷のトゲが滅多刺しにしていた。

 ミトコンはすっかり青ざめている。

 「ほう、今のを避けるとは・・・。」

 その声の主の姿は見えない。魔力の感じを見るに、おそらくすぐそばの木の陰にいる。

 「ちょ、ちょっと待ってよ!ボクはただ、ここに迷い込んだだけなんだ!」

 「アフーラからここへ来るまでには、今はなき空間魔法が必須。お前の魔法が空間魔法でない、かつ仲間の空間魔法使いが現れないのであれば、お前はスパイであることが確定する。少なくとも、五体満足で生かしておく理由はない。」

 上空に魔法の起こりがある。しかし、その範囲が広く避けきれそうにない。

 落ちてきたのは、凍るように冷たい雨。消去は間に合わず、身体はすっかりと水浸しになってしまった。

 「ホラ、このままでは凍え死んでしまうぞ?お前の本当の出身国の機密やら仲間の情報を吐くというのであれば、今ここで殺すのはやめてやろう。どうする?」

 あたりはとにかく静かだった。だから、ボクの首根っこを狙って、また氷のトゲが地面を這いずっているのがすぐにわかる。

 「の、ノア!もうここは、嘘の仲間でもでっち上げて、牢屋にでも入って寒さをしのごうや。お前さんは、アイツには勝てんて・・・。」

 ミトコンが腕に引っ付きながら懇願してきた。

 「そ、そんなこと急に言われたって、なんて言えばいいの?」

 「このっボケェッ!テキトーや、テキトー!お前の知り合いの名前でも言ったらええねん!」

 「そんな嘘なんてついたら、後々大変なことになっちゃうよ。」

 「だぁかぁらぁ!今は嘘ついても、後からちゃんと説明すればええんや。今、死んでまうよりずっといいやろ!」

 ミトコンと話し込んでいる隙に、ボクはまた首元へトゲが近づくことを許してしまった。

 「何を一人でブツブツと言っている?仲間と通信といったところか?なるほど、どうりですぐに反撃をしないわけだ。」

 首を一周、トゲの先端が囲っている。まだ触れていないのに、その冷気で身体の芯まで凍りつきそうだった。

 「いや、その、ボクは本当に一人というか・・・。ミトコンがうるさいだけで・・・。」

 そう言うと、ボクはミトコンに額を思い切り蹴り上げられた。いつもの暴言とセットで。

 「お前は一人なのか?それとも、ミトコンという仲間が近くにいるのか?嘘をつくにしても、せめてまともに話してもらいらいものだな。」

 木の向こうから聞こえる声は、かなり呆れているようだった。嘘は言ってないのに。

 「ミトコンはボクのプロタンティスだよ。確かにミトコンを数えるなら二人。でも、本当にそれ以外には誰もいないんだ。」

 「・・・そうか、お前はプロタンティスのことを知っているのか。」

 「知ってるも何も、常識でしょ?魔法小屋でみんな習うことだよ。」

 「それはアフーラの方の常識だ。こちらの土地には、プロタンティスなどいない。噂でしか聞いたことがないが、その姿は実に神々しいものだという・・・。一度くらい見てみたいものだな。」

 思わず、ミトコンをチラリとみた。

 「え、神々しい?これが?」

 ミトコンが険しい顔で、「それはお前のせいやろが!」と、ボクを殴った。

 「ふむ、お前がアフーラから来たというのを、半分は信じてやってもいいかもしれないな・・・。」

 ミトコンが「ちょ、それ、どういう意味や!オイ!」とその声の元へ叫ぶ。もちろん、ボク以外には聞こえていないはずだ。

 氷のトゲは砕け散って、キラキラと空気を輝かせた。

 「よし、お前を地下牢くらいなら入れてやることにしよう。話が本当なら、使えそうだ。」

 そう言って木の影から、ようやく姿を現してくれた。


 突然の襲撃者は、ローズと名乗った。

 ローズが口笛を鳴らすと、見慣れない動物が2頭、あっという間に駆けつけてきた。

 四足歩行のその生き物は、後ろに人が乗れそうな、木製の器具を引っ張っている。

 「まだ信用しきったわけではない。だから、お前にはここに入っていてもらう。」

 そう言って、ローズはその乗り物の後ろに、氷の大きな筒を作り出した。

 大人しくそこに入ると、瞬く間に天井ができあがり、ボクは閉じ込められてしまった。

 そこから間髪入れず、ピシィと何か叩くような音が聞こえたかと思うと、ボクは壁に叩きつけられた。たぶん、あの動物がボクらを引っ張っているんだ。

 しばらくして、壁に顔が入らないくらいの穴が空いた。穴は氷の格子でバッチリ塞がれていた。

 その向こうに、ローズが見える。

 「お前が本当にアフーラから来たというのであれば、手段はどうであれ、それは素晴らしいことだ。」

 次から次へと木々が流れてゆく景色を見ながら、ローズはつぶやいた。

 「確か、空間魔法があった昔はアフーラとどこかの国で交流があったんだっけ。魔法小屋で習った気がするなぁ。」

 「それがワタシたちが今、向かっている、タンナという国だ。しかし、魔法小屋か・・・。本当に実現したのだな。」

 「え?!ローズって魔法小屋ができる前に生まれたってこと?一体何歳なの?」

 実際、ローズはボクよりも高々4つくらいしか上にしか見えなかった。

 「フッ、いきなり呼び捨てか・・・。まぁ、いい。そんなものはもう、数えるのを忘れてしまったよ。しかし、懐かしいなぁ。レッジとサルトイが『タンナに負けないくらい強い国にするんだ!』なんてはしゃいでいたな。と言っても、お前には伝わらないか・・・。」

 「え、レッジ先生とサルトイ王と知り合いなの?!そんな話、聞いたことないよ。」

 「かなり昔の話だからな。それも、まだ生きていることが驚愕なくらいに・・・。それにしても、先生と王ときたか。アイツらも随分と出世したんだなぁ。」

 ローズはボンヤリと遠くを眺めている。もしかしたら、その先にアフーラがあるのかもしれない。

 「ところで、だ。ノア。お前が本当にアフーラから来たというのであれば、どのように来たのかを教えてくれまいか?また会いたい者たちが、向こうにいるんだ。」

 「えっと、それがよくわからないんだ。」

 「わからない・・・?」

 ローズはボクを怪しんでいるようだ。その眼光が急に鋭くなった。

 「説明が難しいんだけれども、ボクの魔法は、現象や物質を消すことができるんだ。それで、何かを消したらここに来た。それ以上わからないんだ。ただ、アフーラからよくわからない空間に入って、そこから無我夢中になって気づいたらここに来てたんだ。」

 「ワタシは今、お前がスパイではないかと再び疑っている。『現象や物質を消す』?そんな魔法があるわけないだろう。」

 見せた方が早いだろうと思い、ボクは目の前の氷の壁を消して見せた。

 ローズは驚きを隠しきれていなかったが、氷の壁を一瞬で再生させてしまった。

 「・・・なるほどな。魔法の気配が全くなかった。お前はやろうと思えば、この距離でワタシを容易に殺せてしまうわけだ。」

 「いやいや、無制限に消せるわけじゃないから。ローズのことを一部でも消したら、きっとボクの身体が持たないよ。」

 「何、正直に言ってんねん!」とミトコンがボクをまた殴ってきた。

 「フ、フフフフ。さてはお前、かなりのバカだな。能天気というべきか。それとも、油断させる作戦か?」

 ローズは愉快に笑っていたが、氷の壁の内側には、氷のイバラが這いずり回っていた。

 「そ、そんなつもりはないよ!ボクを助けてくれるんだから。地下牢っていうのは、ちょっとショックだけどね。」

 「お前はまだスパイの可能性は捨てきれん。疑いが晴れるまでは我慢してもらおうか。」

 ローズが進行方向に顔を向ける。ボクもそれに合わせて視線を動かす。

 木製の大きな壁が近づいていた。

 その根本の入り口らしき場所に、何人かの見張りが立っている。

 彼らは一斉にローズへ向かって姿勢を正し、頭を下げる。

 ローズはそれに応えることなく、壁の内側へと進んでいった。

 「さぁ、ノア。タンナへようこそ。」

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