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空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Chapter 2 -Tantalus Side-

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Episode 4

 「ま、1週間もすれば治るよ。」

 医者がそう言うのを聞いて、オレたちは胸を撫で下ろした。

 「いやぁ、良かったぜ。ミル、オレのせいだよな。すまねぇ。」

 「そんな、やめてよ。形はどうあれ、アタイは魔法を使えただけで嬉しかったよ。」

 ミルは嬉しそうに、包帯に巻かれた手を撫でた。

 「あ、それなんだけどね。君はもう魔法を使わないほうがいい。」

 医者が言ったことが、すぐには理解できなかった。

 「は?先生、どういうことだよ。」

 「ミル君の魔器官は、生まれつきケガをしているような状態と言えばいいのかな。だから、魔法を使おうとしても、魔法粒子がうまく魔器官を通ることなく、結果、そのほとんどが魔法に変換されることはない。」

 「で、でもよ!オレが魔法粒子を通す量を増やしてやれば、解決じゃねぇか。」

 「ノゾム君。それで何が起こったかは、君自身の目で見ているはずだよ?それは、魔器官を壊しかねないくらいに乱暴なやり方だ。場合によっては、ミル君の魔器官がある手が、丸ごと使い物にならなくなっていたかもしれない。」

 「なぁ、先生。どうにかなんねぇのか?」

 先生は首を横に振った。

 オレは気づくと、先生の胸ぐらを掴んでいた。

 「それでもこの街唯一の医者かよ!なぁ、頼むよ。」

 「気持ちはわかるが、落ち着いてくれ。ミル君の状態は、さっきも言った通り『ケガをしているような状態』ではある。でも、魔器官はまだまだ未知の領域だ。少なくとも今、この街でこれを完全に治せる者は、おそらくいない。」

 襟元を掴む手に力が入る。

 「ノゾム、もういいよ。アタイは大丈夫だから・・・。」

 「で、でもよ!」

 ミルはオレの手を先生の首元から外し、そっと握った。

 「一度とはいえ、アタイはノゾムのケガを治せたんだよ!ホラ、もうここは痛くないんでしょう?それだけで、満足だよ。」

 その笑顔は、震えを隠し切れていない。

 思わず目を逸らしてしまったものの、今度は包帯に巻かれたミルの手。

 「と、とにかく。改めて言うけれども、ミル君はもう魔法を使わないこと。一度過剰な魔法粒子を無理に通したおかげで、変な魔力粒子の経路ができているかもしれない。だから今までと同じ感覚で魔法を使おうとすれば今回と同じことが、場合によってはもっと酷いことが起こるかもしれない。」

 ミルは明るく、先生にお礼を言った。

 繋がれた手から伝わるものは、明らかに明るさではなかった。

 「・・・まぁ、大事に至らなくて良かったぜ。先生、ありがとな。」

 「ちょ、ちょっと!ミル君の次は君だよ。さっきから気になってたけど、随分とボロボロじゃないか。」

 先生は立ち去ろうとするオレを呼び止める。

 「オイオイ、オレはこの通り元気だぜ。なんたって、ミルが治してくれたんだからな。」

 「何を言っているんだ。どこかひどく傷ついているかもしれない。早く座りなさい。」

 「うるせぇ!何度も言わせんな。オレのケガはミルのスーパーパワーで治ったっつってんだよ!」

 走り去ろうとするオレを、ミルが逃さなかった。

 「ノゾム。アタイは大丈夫だから。ちゃんと先生に診てもらおう?ね?」

 「・・・わかったよ。」

 診断の結果、オレは全身の打撲だけで済んでいたらしい。

 ミルが顔を赤らめながらケガの原因を話してくれたのだが、先生は「よくこれで済んだね」と笑っていた。

 診療所を出ると、空は所々よどんでいた。

 「ねぇ、ノゾム。アタイ、討伐隊から抜けたほうがいいよね?」

 隣で歩くミルが、そんなことを言い出した。

 「いや、お前に抜けられると、めっちゃ困る。」

 「・・・ノゾム。正直に言ってほしいな。気を遣ってくれてるのは嬉しいけど、なんて言うか、その・・・」

 ミルは言葉を詰まらせる。

 目を潤ませながら、目先の置き場所を迷っていた。

 そして、一筋の涙と共に口を開いた。

 「つらいよ。」

 「ちょっと待ってくれよ。ほんとに、お前に抜けられるとどうしようもないんだって。」

 ミルは拳をオレに打ちつけた。包帯が赤く滲む。

 「嘘つかないでよ・・・。アタイが今、どれだけ惨めな思いをしてるか、ノゾムならわかってくれるでしょ?」

 「な、なぁ。とりあえず、話を聞いてくれよ。」

 「うるさい!慰めなんて聞きたくない!バカ、バカ、バカバカ!」

 ミルは走り去ってしまった。

 雨が降って来た。

 「・・・帰るか。」

 こうしてオレはそのままベッドに直行した。

 次の日まで動けなかった。


 「・・・なんの用?」

 朝一番でミルを訪ねると、腫れぼったい目で睨まれてしまった。

 「あー、落ち着いたか?」

 ミルは何も答えない。

 「えっと、昨日の話なんだけどよ・・・」

 「聞きたくない。」

 話を遮られてしまった。

 「なぁ、聞いてくれねぇか?」

 「ヤダ。もう嫌なの。」

 オレがどれだけ口を開こうとも、ミルは何度も言葉を被せて来た。

 「あぁ、もう!めんどくせぇ。」

 オレはミルの口に手を被せた。

 ミルは目を丸くするだけで、抵抗してこなかった。

 「ったく、いいか?考えてもみろ。ここでお前が抜けちまったら、オレはあの二人を一人で相手することになるんだぜ?やってらんねぇよ。」

 ミルは眉をひそめ、ポロポロと涙を落とした。

 「あー、どうせあれだろ?その目はまた『アタイに同情するな!』ってところだろ?いや、チーム組み直しとかめんどくせぇし。なんて言うか・・・。なぁ?」

 一瞬目を離しただけで、ミルは涙で顔を洗えそうだった。

 「・・・楽しかったろ?」

 手を離してみても、ミルは何も言わなかった。

 「なぁ、『ミルならわかってくれるだろ?』」

 「でも、アタイはもう魔法も使えない。本当に何もできない。」

 「ま、とりあえず支度しろよ。今日はザードに声かけてみようと思ってんだ。まったく、手のかかるメンバーばかりで困っちまうよな?」

 ミルはすぐ顔を背けて、家の中へと行ってしまった。

 「お、おい。待ってくれよ。」

 「支度をしろって言ったのはあんたでしょ?それとも、アタイの着替えでも眺めようっていうの?」

 ミルは振り返ることなく答えた。

 「へっ、何でもねぇよ。」

 今日は実に心地のいい日だ。気づけばオレは、玄関先でうたた寝していた。

 「ノゾム、ノゾム。起きなさい!こんなとこで寝てないでよ。」

 「ぅん・・・、あぁ、わりぃ。あんまりにも遅いもんだからよ。」

 オレはあくびを噛み殺しながら答えた。

 「そんなに眠かったんなら、アタイのベッドで寝かせてあげたのに。」

 「なんだよ、そんなに着替えを見て欲しかったのか?」

 ミルは、まだ立ち上がってもいないオレに蹴りを入れて来た。

 「ハァ、あんたを心配したアタイがバカだったわ。まあ、いいわ。ザードのところに行くんでしょ?早速行こうよ。」

 その顔には雨上がりすぐの晴れやかさが見えた。

 「あぁ、そうだな。ところでお前、ザードってどこに住んでるか知ってる?」

 「え、そんなの知らないわよ。・・・まさか、あんたも知らないの?」

 「・・・困ったなぁ。」

 オレは追加で3回ほど蹴られた。

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