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空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Chapter 2 -Tantalus Side-

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Episode 3

 朝、目が覚めると隣にミルの寝顔があった。

 身体を起こして辺りを見渡してみると、そこは知らない部屋だった。

 唐突に頭痛と吐き気が襲う。

 昨日の記憶が戻ると同時に、その苦痛が鮮明になっていく。

 唐突に脇腹に衝撃が走る。

 床に叩きつけられて、ミルがオレをベッドから蹴り出したことを理解した。

 「なんであんたがアタイの部屋にいるのよ?!」

 ミルが顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 「イテェなぁ・・・。なんでも何も、あんたが無理やりここに連れ込んだんだろうよ。覚えてねぇのか?」

 「アタイがあんたみたいな得体の知らないヤツを家に連れ込むわけ・・・。」

 言い切る前にミルは慌てて部屋の外へ飛び出した。

 壁に支えられながらどうにか追いつくと、ミルはすぐそばの川に思いっきりもどしていた。

 つられて吐きそうになるくらい、盛大な吐きっぷりだ。

 「オ、オイ。大丈夫か?」

 背中をさすってやるったが、睨まれてしまった。

 しかし、振り払う余裕はないようで、すぐにまた川にえずき出す。

 「ちょっと、うぷっ・・・。触らないでくれる?・・・うげぇ。」

 一通り吐き終えたのか、ミルはその場で倒れ込んだ。

 「あぁ、頭がガンガンする・・・。朝からクソガキがベッドに潜り込んでくるし、もう最悪。」

 「なぁ、昨日のこと、マジで覚えてねぇの?」

 ゲッソリとした顔でミルが睨みつけてくる。

 「うるさい・・・。頭が痛くてしょうがないの。今のアタイに頭を使わせないで。」

 「あんなに暴れ回ってたのに忘れちまうのかよ。酒ってヤベェのな。」

 「さっきからブツクサうるさいのよ。アタイが一体何したっていうのさ・・・。」


 あれは、ミルが5杯目を飲み干した頃だったろうか。

 「アタイはねぇ、別にアンタみたいに強くなりたいってわけじゃぁ、ないわけよ。」

 ミルが空のジョッキを豪快にテーブルに叩きつける。

 「あ、あぁそれはもう7回は聞いたぜ。それで、結局お前はなんで討伐隊に立候補したんだ?」

 「だぁかぁらぁ、言ってるじゃなぁい。私はどうせ、魔法をまともに出力できない、出来損ないですよぉだ。」

 会話に脈絡がなくなってからどれくらい経ったろうか。もう帰りたい。

 アニマは食い終わったらそそくさと帰ってしまい、それに便乗してザードも帰ってしまった。

 そこからずっと、オレはこのトンチンカンと二人きりだ。

 「ちょっと、ノゾムゥ。聞いてるのぉ?それでね、レッジが言ってくれたの。『魔法がショボいのは残念ではあるが、お前は頭がいいし、身体も丈夫ときた。回復魔法なんぞ忘れて、家の畑を手伝ったら良いんじゃないかのぉ』ってね!」

 ミルがオレの肩に寄りかかりながら、ケラケラ笑った。

 「へぇ、お前の魔法、回復なのか。珍しいな。しっかし、ジィさんも思い切ったこと言うぜ。」

 「ん?よく見たら、アンタ飲んでないわねぇ・・・。店員さーん!おかわり二つ持って来てぇ。」

 ミルが店中に響くような大声で言った。

 「お、おい。ちょっと飲み過ぎじゃねぇか?」

 「うるさいわねぇ。第一、みんなムカつくのよぉ!回復魔法のことは露骨に触れないようにしてさぁ!結局みんな、家族だって、アタイのこと馬鹿にしてるんだわぁ。」

 そう言って、わんわんと泣き出してしまった。

 周りの哀れみの視線を掻い潜って、店員がおかわりを持って来てくれた。

 「お、キタキタ!さぁ、ノゾム。カンパイよ、カンパイ!魔法ボロクソの劣等生どもの!魔法の才能で完敗な二人の出会いを祝してぇぇえ、かんぱーい!」

 泣き喚いていたのが嘘のように、ミルはまた騒ぎ出した。

 涙の跡を拭うことなく、一気にそれを飲み干す。

 「お、ノゾムぅ。なんだ、このミルちゃんの酒が飲めねぇってか?お?お?」

 仕方なく、一口飲んでみる。嫌な苦味が口いっぱいに広がって来た。

 「ウァヒャヒャヒャヒャ。顔シカメちゃって!ヒィ、ヒィ・・・。クソガキちゃんには早かったかなぁ。」

 「ちょっとファーストコンタクトを楽しんでただけだし?こんなん余裕だわ。」

 オレは一気にジョッキを空にしようとした。

 が、半分ほど飲んだところでジョッキを置いた。口から喉までパチパチするのが耐えられなかったからだ。

 「まぁまぁ、無理しなさんな。無理やり飲んだって酒が勿体ないでしょぉ。」

 そう言って、ミルはジョッキを取り上げ、残りを飲み干してしまった。

 「プハァ!ま、ノゾムはアタイみたいなオ・ト・ナになるまで我慢するのねぇ。」

 ミルは高らかに笑いながら、床に引きつけられていった。

 これが大人であると言うならば、オレはお先真っ暗だ。

 「おい、ノゾム。今日の会計はツケでいいから、そのアホ帰らせてやってくれ。店の中で吐かれたらかなわん。」

 マスターにそう言われて、オレはミルに声をかける。

 ミルは爆睡していた。

 「アタイだってねぇ!魔法がショボいことはよくわかってるし、魔法がショボいことだってわかってるのよぉ。」

 どうにか酒場から引っ張り出してから、ミルはずっとこの調子だった。

 道端の水路に落ちそうになるのを止めながら、ゆっくりとミルの家へと向かっていた。

 「あ、そうだ。ねぇ、ノゾムぅ。結局アンタの魔法ってなんなの?私だけ喋りっぱなしって、なんかずるくなぁい?」

 「あ?何回も言ってるだろ。オレは厳密に言えば魔法は使えない。魔法粒子を操るだけだ。」

 「魔法粒子を操るぅ?ウァヒャヒャヒャ!それって何もできないじゃない?ウァヒャヒャヒャヒャ!」

 だんだん頭が痛くなってきたのも相まって、コイツを水路に突き落としてやろうかと思った。

 「へっへっへっ。そう思うだろう?でも、オレには必殺技があるんだぜ!ここら一体吹き飛ばせるくらいのヤベェヤツがなぁ!」

 「うわぁ、こわぁい!なら、アタイがみんなを回復させちゃう!」

 そう言い残すと、ミルは近くの通行人に、次々と回復魔法をかけ始めた。

 その威力は驚くほどに貧弱だった。

 あれじゃあ、かすり傷すら一日かけて治すことになるんじゃなかろうか。

 たぶん、通行人らの目には、酔っ払いがなんか触って来た、くらいにしか感じていないだろう。

 「アタイはねぇ、みんなの苦しみを治せるような魔法使いになるの!アンタの必殺技なんて、チョチョイのチョイよぉ。ちょっと、ノゾム。聞いてんの?」

 ミルは楽しそうに、オレの腕を揺さぶった。

 「あ、あぁ。聞いてるさ。とりあえずさ、もう怪我人はいないみたいだから、今日はもう帰ろうぜ?次はどっちに行けばいいんだ?」

 「えっとぉ、もう着いたよぉ?」

 ここは街の広場だった。

 「え、まさかお前って、ここに住んでるのか?」

 「何言ってんの?ここは広場じゃん。」

 「・・・じゃあ、お前の家はどっちだよ。」

 こんなやりとりを両手で数え切れないくらいやったところで、ようやくミルの家に着いた。

 「じゃあ、オレは帰るわ。」

 去ろうとするオレの服の裾を、ミルが摘んできた。

 「なんだよ、今日はもう帰らせてくれ。話は明日聞いてやるからさ・・・。」

 正直、オレは今にも倒れそうだった。

 「・・・だっこ。」

 「・・・は?」

 「疲れた。もう動けない。ベッドまで運んで。」

 そう言うと、ミルは座り込んで、オレに両手を広げて来た。

 「自分でいけよ」と「ヤダ」の攻防の末、負けたのはオレだった。

 オレは身体に鞭打って、ミルを2階にあるベッドへ、どうにか運び切ることができた。

 「じゃあ、今度こそ、オレは帰らせてもらうぜ・・・。」

 しかし、背中を向けた途端、オレはベットに引き込まれていった。

 「お、おい!今度はなんだって言うんだよ!」

 「・・・寂しい。」

 そう呟くミルの顔に目を向けるも、夜の闇が隠してしまっている。

 「みんなが魔法を当たり前に使う世界で、魔法の話を避ける。そんなことして、まともに会話なんてできるわけないでしょ・・・。」

 ミルがオレに腕を絡めてきた。

 「パパだって、ママだって。気を遣ってくれてるのはわかってる。でも、でも・・・。」

 外はやけに静かだった。

 「ねぇ、ノゾム。お願い。もうちょっとアタイのそばにいてよ・・・。」

 オレは疲れ切ったことを言い訳に、そのまま眠りにつくことにした。


 「・・・と、言うわけで、こうなってるのはオレのせいじゃないはずだ。」

 ミルはうずくまったまま、ブツブツと何かを唱えていた。

 「なんだよ?言いたいことがあるなら、はっきり言えよ。」

 「・・・ろす。」

 「え?聞こえねぇよ。」

 「お前を殺して、アタイも死ぬぅ!」

 ミルは真っ赤になりながら、近くにあった農具らしきものを、オレに向かって振り回し始めた。

 「お、おい!落ち着けって。まだ酔っ払ってんのか?」

 「う、うるさい、うるさい!全部知られた!生かしておくわけにはいかない!死ねぇ、死ねぇぇえ!」

 ミルが落ち着きを取り戻す頃には、オレは随分とボコボコにされてしまった。

 「・・・ごめん。ちょっと取り乱した。」

 ミルは涙の跡を擦って誤魔化しながら言った。

 「・・・身体中がスッゲェ痛い。骨が折れてないのが奇跡だぜ。」

 「う、マジでごめん。」

 「謝る気があるなら治してくれよ。お前の魔法、回復なんだろ?」

 ミルは突然、怒りを露わにしてこちらを見てきた。

 「ねぇ、わかってて言ってるよね?いくらなんでも酷すぎない?!」

 「いいから、やってみろって。」

 オレは真っ青になった手の甲を差し出した。

 「あんた、趣味悪すぎるわよ・・・。とにかく、やればいいのね、やれば!」

 ミルは患部に手を添えて、魔法を使い出した。

 「ねぇ、これで満足?アタイの力はこの程度も治せないって、わかりきってるでしょ?」

 オレは何も答えることなく、ミルの手の辺り、魔法粒子が集中している、おそらく魔器官があるだろうところの魔法粒子の流れを早めた。

 アザはあっという間に消えてしまった。

 「え、なんで治ってるの?アンタなんかした?」

 ミルは不思議そうにオレを見つめた。

 「言っただろう?オレは魔法粒子を操れる。お前の中の魔法粒子の流れをいじって、魔法の出力を強くしただけだ。」

 「へぇ、すごいもんだねぇ。アタイでもあんなケガを治せちゃうなんて。」

 ミルは自分の手を嬉しそうに、まじまじと見た。

 次の瞬間、その手が血に染まった。

 「痛い!痛い!ノゾム、私の手、一体何が起こってるの?」

 「わ、わからねぇ・・・。」

 オレたちは慌てて医者の元へ向かった。

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