Episode 2
「よく来てくれた!まあ、座ってくれ。」
座ると同時に、王は間髪入れず話を続ける。
「さて、さっそく始めようか。お前、名をなんという?」
「・・・ノゾム。」
「あぁ、今年卒業したヤツだな。よし、採用!近いうちに連絡するから、特訓するなりして待っててくれ。」
「ハァ?ちょっとテキトー過ぎやしねぇか?まだ何も聞かれてねぇぞ?!」
思わず立ち上がって問い詰めると、王は愉快に笑い出した。
「ワハハハハ!お前の話なんぞ、レッジとの酒の席で、頭がおかしくなるくらいに聞いたさ。」
「あのジィさん、王様となんて絡みがあったのかよ・・・。初めて聞いたぜ。」
「王様なんてよしてくれよ。知っているだろう?みんなワレを王と呼びはするが、やってることはインクレム討伐のリーダーくらい。ワレなんぞ、ただ畑をいじるジジィに過ぎん。」
「でも、あんたが王になってから、被害は格段に減ったらしいじゃねぇか。」
王は少し困った顔をしだした。
「どうせ、魔法小屋で聞いたんだろう?レッジのやつが誇張してるに過ぎん。昔からアイツは人を褒めるとなると、大袈裟に言いふらしていたもんだ。」
「そっか、ジィさんの褒め言葉は、大袈裟、か・・・。」
すると、王はまた大袈裟に笑い出した。
「ワハハハハ!どうした、自信を無くしたのか?」
オレは何も言えなかった。
「本当にアイツの言う通りだ、ワハハハハ!なに、心配するな。レッジは魔法についてだけは、確かなことしか言わん。」
カーペットがレッジの家にあるものと同じだった。
「まあ、思いっきりやってみるがいいさ。それにインクレムの討伐はチーム戦だ。お前一人で気張る必要はない。」
もう、辞めるという選択肢はなさそうだった。
「それにお前は、何か必殺技とやらを開発中だったそうじゃないか。『インクレムなんぞ一瞬で片付けられるかもしれんのぉ』などとレッジに言わしめるほどのものを。」
脳裏にあの時の爆発が浮かぶ。
呼吸が狂い出しそうになったその瞬間、後ろの扉が勢いよく開いた。
「オッス、王様。インクレム討伐に立候補しに来たぜ!」
「っちょ、ソークいきなりドアを開けるなんて失礼ですよ。まずはノックからですねぇ・・・。」
やって来たのはソークとウドーだった。すぐ後ろにマーチャもいる。
「突然すみません、サルトイ王。このバカ、ソークは思い立ったがすぐに、人の話を聞かずに突っ込むバカでして、なんというか、その、・・・。」
ウドーが王に必死になって謝っている。五回目の「バカ」を言ったところで、ソークに鉄拳を喰らってしまった。
「ワハハハハハ!ウドーよ、気にすることはない。ワシなんぞただのジジィに過ぎんのだからな!それよりも、演説をして一日も経たずに、こんなにも多くの若者が来てくれて、ワシは嬉しい。ワハハハ。」
ウドーが「ありがとうございますぅ」なんて言いながら平伏しだした。
王はものすごく困惑しながら、どうにかウドーを立ち上がらせた。
「さて、ウドーとソークよ。お前たちのこともレッジからよく聞いている。文句なしの採用じゃ。して、その後ろのお前も参加してくれるのかな?名前は?」
「ま、マーチャいいますぅ。」
マーチャはソークの袖を掴む手がすごく震えていた。
「マーチャというのか。ソークとよく火の海を作って遊んでるのをちょくちょく見かけるぞ。プロタンティスもなしによくあそこまで暴れられるものだ。うむ、採用!」
「よっしゃぁ、思ったより楽勝だったな!」
ソークがウドーの背中を叩きながら言った。
「ちょっと、ソーク。本当に失礼すぎますよ!と、とにかくサルトイ王。全力を尽くさせていただきます!」
こうして3人組は部屋を出ていった。
辺りが一気に静かになった。
「と、とりあえず、オレももう帰るぜ。」
「おぉ、そうか。お前とは少しゆっくり話してみたかったのだが、仕方あるまい。いつでも遊びに来るといいぞ。」
「あぁ、気が向いたらな。」
そして1週間も経たないうちに、オレは王を尋ねることになる。
「おぉ、ノゾム!いつでも来いとは言ったが、こんなに早く来るとは思わなかったな。そんなにワレが好きか?ワハハハ!」
「いや、あんたが呼んだんだろうよ・・・。」
「おぉ、そうだったなあ」と、王は大爆笑。
「・・・用がないなら帰らせてもらうぜ。」
「いや今日はな、お前を中心として良さげなチームが組めそうだから、ちょっと顔合わせをしてもらおうと思ってな。」
「へぇ、結構早く集まるもんなんだな。どんなヤツなんだ?」
「もう、お前以外は揃っている。実際に会いにいった方が早いだろう。」
仲間がいると言う場所への道中、少し足が重たかった。
歩幅がいつもより狭くなる。
どんな顔をして会えばいいのだろうか。
どんな話をすればいいのだろうか。
オレみたいなヤツを、オレのこの力を認めてくれるだろうか。
「ん、もう着いちまったのか・・・。」
王の屋敷は想像よりもずっと狭かったらしい。
ドアに手をかけようとしたが、思うように手が動いてくれなかった。
部屋の中の魔法粒子は3つ。中から声は聞こえてこない。
「どうした、ノゾム。やるって言っただろう?」
そう自分に問いかけた。震える手をどうにか少しずつ、ドアノブに近づける。
「ちょっと!誰なの?ドアの前でブツブツと。」
勝手にドアが開いた。出て来たヤツとしばらく無言で見つめ合った。
「・・・なんか喋ったらどう?」
そいつは腕を組んでオレを睨みつけてきた。
「あ、あぁ。すまねぇ。ちょっと驚いちまってよ。とりあえず、入っていいか?」
「はぁ?悪いけど、ここは遊び場じゃないの。それともこんなところに忘れ物したとでも言うの?」
「いや、王からこの部屋に仲間がいるって言われて来たんだけどさ・・・。」
数秒、俺たちの間を無音が通り過ぎる。
「はぁぁぁぁぁあ?まさか、あんたみたいなクソガキがリーダーやるっていうの?まじあり得ない!」
「え、マジでオレがリーダーなの?代わりにあんたがやってくれたりしねぇ?」
ソイツはピタリと静かになって、ため息をついた。
「まあ、とりあえず入りなよ。言っとくけど、リーダーだけはやらないからね!」
冷たい視線に耐えながら部屋に入る。
予想通り、部屋の中にはさっきのヤツも含めて3人が待っていたようだ。
「えっと、なんか結構待たせちまったみたいだな。オレはノゾムだ。よろしくな。」
誰も返事を返さない。
さっき喚いていたヤツの方を見た。ソイツはムスッとした表情で話し出した。
「アタイはミル。どうせ役に立つことはないだろうから、アタイは気にせず、3人で仲良くするといいわ。」
「ハハ、随分と捻くれたヤローだな。ま、いいや。とりあえず次だ。お前はなんて言うんだ?」
オレは真ん中でうずくまっているヤツを指差した。
「ボクはザード。右に同じく、使い物にならないだろうから、期待しないでください。」
もう、この部屋から逃げ出したかった。
「あぁ、オイラの番か?オイラはアニマだ。この二人みたいに捻くれてるわけではないけど、多分オイラの魔法も討伐には使えないと思うんだ。だから、オイラのことは気にせず、みんな好きにやってけろ。」
「おいおい、それならなんで、こんなところに立候補したんだよ!」
頭を抱えていると、ミルが立ち上がった。
「・・・じゃあ、顔合わせは済んだってことで。アタイは帰らせてもらうわ。」
流石にこれで帰られては困る。オレは咄嗟に立ち去ろうとする腕を掴んだ。
「ちょっと、触らないでもらえる?」
正直言うと、もう七面倒臭かった。しかし、こうなった以上は引き下がるわけにはいかない。
「あー・・・。とりあえず、お茶でも飲まねぇ?」
自分で言っといてなんだが、意味がわからなかった。
オレはコイツらをお茶に誘ったらしい。
そして、もっと意味がわからないのだが、オレたちは今、酒場のテーブルで4人仲良くお茶を啜っている。
「自分で提案しといてなんけどよぉ、全員来てくれるとは思わなかったぜ。」
「なんか、昔のクセでね・・・。」
ミルが外をぼんやりと眺めながらそう呟いた。
「へぇ、お前みたいなヤツをお茶に誘う物好きがいるんだなぁ。」
「レッジのジィさんが昔、よく誘ってくれたのよ。」
ミルの目には涙が浮かんでいた。
「へぇ・・・。オレもだよ。レッジにお呼ばれされまくるってことはだ。お前も相当に落ちこぼれてたんだな。」
「アハハ、その通りよ。懐かしいわ。アタイはずっっと魔法の出力が弱くって、卒業まで毎日のようにレッジの元に通ってたわ。」
「なんか随分と真面目なヤツだな。お前たちも、もしかしてレッジのとこに通ってたのか?」
残りの二人を交互に見た。
「まあ、一時期とはいえ、お世話にはなってましたよ。」と、ザードがボソボソ。
「オイラは別に。というか、そもそも魔法学校すら行ってねぇだ。」と、アニマ。
「そうか。じゃあアニマはどうして来てくれたんだ?」
「いやぁ、オイラがノゾムらについて来たっていうより、たまたま目的地が一緒だっただけだぁ。」
すると、店員がアニマの前に、山盛りの肉とパンを置いた。
「あんまりにも待たせるもんだから、腹減ってたんだぁ。」
そう言って、アニマは美味そうにがっつきだした。
「なんかオレも腹減って来たなぁ。なんか頼むか。お前らもなんかいるか?一個くらい奢るぜ。」
「あら、いいの?!じゃあアタイは酒!マスター、ちょっと早いけど、いつものやつ持って来て!」
ミルは酒が飲めるようなトシには見えなかったので、少し驚いた。
「ボクは初めて来たので、わかりません。お任せします。」
オレだって、レッジに数回連れてこられただけで勝手がわからない。
視線を泳がせていると、アニマの食べている肉が目に入って来た。
「じゃあ、アニマが食ってる肉のヤツをオレと食おうぜ。気になってたけど、一人で食うには多すぎると思ってたんだ。」
ザードも気になっていたのか、うっすらと笑みを浮かべてくれた。ずっと俯いてるけれども。
ここでようやく、オレも肩の力が抜けて来た。
なんとなく、このメンバーでもやっていけるような気がした。




