皇軍、青森防衛~神軍到来5~
1991/06/08 AM10:12
八戸港上陸
予定より12分遅れて海兵隊第二旅団を含む特別遠征打撃艦隊は着いた。直に海旅二は鉄道に乗り越えた。海二旅を降ろした特遠艦隊は青森湾に突入し、攻撃機とヘリを展開しつつ青森の防衛にあたる。これは後続でやってくる部隊の上陸地点を確保するものであり、艦隊のSSM-ハープン改(艦対特殊ミサイル)で射程範囲外距離からの打撃を期待してのものでもある。
荷物を鉄道に移すのには時間が掛かるため、進は再び艦長の元を訪れていた。今回は善次郎も同伴していた。艦長室で黒茶を飲みながら今後の方針を確認していた。海兵第二の兵器・物資は鉄道で運べるが、『タケミノヅチ』に関してはその巨大さから運搬に支障が出るため青森駅で再度回収することになっている。その打ち合わせでもあった。
「客さんの荷物は後30分で終るだろう。問題の機体に関しては青森で良いのじゃな?」
荒波少佐が黒茶の苦味を味わいながら進に聞いた。まるで孫と話すおじいちゃんだなと善次郎は思った。
「はい。そのとおりでお願いします。少佐」
(ふむ。このやんちゃな坊やもこの老練な少佐には頭があがらないか。理由は皆目検討がつかないが、中々おもしろい図だな。)
善次郎は忠則の癖が移ったかなと自嘲した。
「しかし、荒波海軍少佐。青森湾ではお気をつけください」
「わかっておるよ。いくら予備役が多いとはいえこのご老体も数々の戦場を渡り歩いている。色んな景色を見たよ」
荒波の言葉にどこか哀愁を感じた善次郎はただ頭を軽く下げた。この少佐には自分の心配など必要のないことを悟ったからである。
「でも、本当に気を付けてください。これ以上人が死ぬのは」
進はそこで言葉をきり、黒茶を流し込んだ。甘党の進には苦かったが我慢した。
善次郎と荒波はそれぞれの思惑を含んだ目で進を見た。
「心配は無用じゃな。太平洋は未だに人類側の勢力圏内。危ないのは青森湾の中だけじゃな」
「そうですよ。青森湾の中では動きづらいですからね」
「ふふ、しかし心配されるのは嬉しいものだ」
荒波は昔に妻と娘を亡くしていた。いつも出勤前に娘と妻に送り出されていたのを思い出したからだ。
善次郎には縁のない話だが、人前ぐらいの感覚は持ち合わせていたからそうですね、と相槌をうった。
「では、そろそろ」
そういって、善次郎と進は退出した。それを荒波は優しい笑みで送り出した。