青森防衛~神軍到来3~
海兵旅団本部ビルを後にした白燕進は、大型輸送艦『そらなみ』に乗艦した。自分の荷物を個室に運んだ。士官の進には個室が与えられる。簡素な備え付けのベッドに机と小型のパソコンがある。荷物を脇に置き、パソコンを起動させる。胸ポケットから記憶媒体をパソコンに接続する。画面に設計図が表示される。
『タケミノカヅチ』
全長20m
全幅5m
重量20t
日米共同開発としているが、実際は白燕財閥が一手に研究・開発・製造をしている。ただ、開発所が米国の敷地で人員は日本人が多かった為と、国民に対しての安心感と国としての面子を保つ為に要請があったために、日米開発が表上は制式となった。
しかし、高性能なのを引き換えに生産コストと整備上の難しさがネックとなり、未だ両国とも制式化への目処はない。しかし、白燕財閥はこれ以外にも歩兵の生存率を高めるための 『AS』の開発に着手しており、既に試作は完成している。他にも色々あるが、白燕はその実態自体が不確かなものだから何があっても大抵の人は納得してしまう。
進がクリックする度に画面が変わる。その度に試験中の機体や兵器などの詳細なデータが表示される。しばらく見つめていた進だが、艦長に挨拶をし忘れてたのに気付き慌てて艦橋に駆け上った。その時、進はデータを抜くのを忘れていた。
「艦長、白燕大尉です」
「失礼します。挨拶が遅れました。陸上自衛軍|(陸皇軍)特別試験評価実施部隊主任代理の白燕進大尉であります」
進が敬礼をする。皇軍の敬礼にはいくつか有り、陸は右手を右眉毛の端に爪先が触れるように。海は右手を斜めに自分の左肩に付ける。空は右手を自分の心臓付近に拳を付ける。などの事例がある。進は陸の所属待遇になっているために陸式の敬礼となっている。
白の一等航海服を着た老練の男性が進に敬礼しながら自己紹介する。
「我が『そらなみ』にようこそ。白燕大尉。わしがこの艦を預かる荒波海軍少佐だ」
そう言って、はにかんだ笑顔は場を和ませるには十分だった。白髪を短く揃え、白髭を蓄えた老練な艦長は進に席を勧めると、その巨体を椅子に沈み込ませた。
「ふぅ~、いやこの老いた体にはちょっとした航海も体には染みるからの。白燕と聞いたからどんな陰湿な奴かと思ったが、いやいや随分とかわいい少年だ」
進は出されたコーヒーを口に一口含んで、艦内を見渡した。他には数人がいるだけで閑散としていた。進が座っているのは本来なら副長かもしくは乗艦した将官用の椅子だろ。
「ふふふ、驚くのも無理はないが。この艦は最新鋭の艦なのだが、何せ本来の目的が無期延期状態となってしまったのでな。当初装備されていた機器が大半持っていかれてな、人も」
目的とは大陸の反攻作戦のことだろ。確かにそう言われれば、広い割には機器類が少ないわけだ。人員も高齢が多そうだ。その分、ベテランが多いとも言えるが。
「ベテランは多いよ。ただ、大半が古い艦に配属だったものばかりでな。ハイテク機器には弱くて、あちこちから集められた者ばかりじゃよ。かく言うわしもじゃけどな」
荒波が苦笑しながら緑茶を啜る。
「前はどの艦に?」
「長い間、予備役でな。恥ずかしい話だが、当時の参謀長にムカついて殴ってしまってな。艦は駆逐艦『雪風』じゃよ」
駆逐艦『雪風』。天敵との防衛線が始まり、主は陸であったがそれでも水中型の敵との戦闘は世界のあちこちで潜在していた。海軍の艦艇がヨーロッパ戦線に派遣されるときも従事し、十五体の敵を撃破し、しかもほとんど無傷であった。また、往復の航路でも数少ない無傷の艦であり《幸福艦》と呼ばれている。
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作中に『自衛軍』と『皇軍』とありますが、前者が正式な軍隊名で後者は昔の名残で特に士官で呼ばれます。『皇軍』はすべての軍(陸海空)を合わせて言っています。