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皇軍、青森防衛~神軍到来1~

 病。古くからありとあらゆる病気が、人類の有史以来密接に関わりを持ってきた。その中には繁栄を遂げた国を簡単に崩壊させた病もあった。時には科学では説明のつかない病もあった。この病も何を発祥に起こったのか不明であり、治療法も発見されなかった。ただ、その病は加速度的に広がりわずか一日で大都市の住民が死に至った。やがて、彼らが有史以来積み上げ、確立していった秩序は崩壊していき、無秩序と化した世界は争いが支配した。そして世界の人々が自らの終りを覚悟したとき、希望が舞い降りた。突如として、世界のあちこちに出現した黒い穴は人々に語りかけた。自らの運命を変え、生き永らえたければ祈れ。強く強く強く、ただ祈れ。さすれば汝らにあらたな楽園が与えられん。

 人々はその語りに耳を傾け、やがて世界のあちこちで人々が生物が精霊が黒い穴に吸い込まれていった。


 ある世界では争いが絶えず、土地は焦土とかし街はインフラがスットプし、物流もとまり人々の心は荒んでいた。人々はやがて自らの脆弱な体を罵り、遺伝子に手を加えるようになった。それは時が進むにつれ、人の容をせず醜く禍々しい容姿となった。しかし、それは強靭な肉体を供えるのと同時に知能の低下に伴った。やがて人々は知能を保ち肉体的にも強靭な支配種に支配されるようになり、互いの縄張りを巡り争いをし始めた。そんな人々にも黒い穴は語り、彼らを導いた。


 そして地球に似て似つかぬ地球。この日、本来なら第二次世界大戦の発端となる〈ポーランド侵攻〉が行われるはずだった。しかし、地球はこの日を境に異世界人が争う戦場とかした。

 ベルリンに現れた黒い穴。そこからはまるで天使のような容姿をした美しき者たちが出現。彼らはヨーロッパを殺戮の嵐で埋め尽くした。そして彼らは中東にも勢力を広げる。

 シベリアに現れた黒い穴。そこからは地獄からでてきたような化物が、その醜い容姿に違わぬ行動に出る。そして彼らはアジアにも足を伸ばす。

 人類はこの天敵の出現に手を取り合い、対抗した。しかし、悲しい事にこのような事態に陥っても完全に人類は手を取り合えなかった。ドイツの技術は資本主義と共産主義の両方に流れ込み、人類はこの二大党によって分割された。そして人類は別々に天敵に対抗することになった。

 

 大日本帝国。当初はどちらに組することもなく、独自路線をいっていた国だが両陣営からの資源の供給のなかった国は次第に衰えていく。これを危険視した当時の新米派の重鎮によって改革が行われ、日本は英国を見本にした民主主義に移行していく。これにはいろいろと問題はあったが、時間をかけ改革は行われアメリカからの技術・資源を得た日本は来る天敵との決戦に備えた。


 そして20年、ヨーロッパは英国本土を残し人類は全滅。

 ヨーロッパを支配した天敵は『神の軍勢』として畏怖されていた。彼らはその矛先を東に向けた。そこにはソ連と死闘をひろげていた『悪魔の軍勢』がいた。

 10年。その間は『神の軍勢』と『悪魔の軍勢』の戦争となった。その間に人類は軍備増強を行い、ユーラシア大陸の防衛線と要塞化に専念。日本は米国の駐屯基地を整備・合同訓練し、遠征軍を組織し反抗作戦のための部隊をユーラシアに送り込んだ。

 そして1970年。英国を中継地点に上陸作戦を開始。それに呼応するようにソ連・中国(共産党)と日本・米国(資本主義)の合同軍が境界線を越え、進撃を開始。

 しかし、人類の反攻は尽く阻止され部隊は各個撃破された。上陸した部隊は海に蹴落とされ、合同軍は重慶の最終防衛線までの後退を余儀なくされた。

 1989年。重慶防衛線も突破され、合同軍は台湾・朝鮮半島から日本に脱出した。ここにユーラシア大陸から人類は全滅した。

 人類に残された地は、南北アメリカ・中南アフリカ・台湾・英国本土そして日本。

 ユーラシア大陸では未だに天敵同士が争い、そして人類の残された地への侵攻を画策していた。


 1991年。

 この日、めっきり減った米国からの定期連絡船に一人の少年がいた。彼の名は白燕進はくえんすすむ。白燕と聞けば、今や畏怖の対象とされている財閥である。世界的な財閥で、今や小さい物はボールペンから大きい物は空母までありとあらゆる物を取り扱う財閥である。また白燕の約9割は元々関係のない人たちで構成されている。才能があり、白燕の掲げる思想に同調する人はいずれ白燕を名乗る事となる。彼は生まれて直ぐに白燕の名を名乗る事となった。

 生まれた彼は直ぐに白燕の秘密研究機関に預けられ、そこで実験体として彼は十数年過ごした。しかし、ある時彼の担当となったのは20歳の若い女性だった。彼女は科学者としては珍しく情人家であり、彼の境遇に同情した彼女は、昔撮った写真や外の世界の事を話した。やがて彼は外の世界に興味を持った。そしてある日、彼女は施設内の職員が寝静まったのを見計らい彼を逃がそうとした。施設をでた彼女は彼にパスポートとお金を渡すとある人の名前を告げる。すると彼女は施設に引き返した。そして彼は彼女に後ろ髪を引かれながらも、外の世界に一歩を踏み出した。彼女がその後どうなったのかは知らない。ただ、自分を逃がした事で彼女が無事でいられるわけがないことはわかっていた。

 ……しかし白燕財閥の情報網はすでにCIAすら陵駕していた。そのため彼の脱走は脱走でなく一部始終監視されていた。しかも生まれてからずっと閉鎖された研究所で過ごした彼には、例え大金があってもそれの使い方がわからない彼は数日後には、白燕財閥の組織に保護された。そして保護と言う名の監視の元、彼はしばらく普通の生活を体験した。そして17歳となった彼は日本に渡ることになった。


 「ここが日本か」

 彼の前には近代的な高層ビルがいくつも見えた。米国で聞いていた日本とは印象が違った。日本では木造建築が主で鉄骨製の建物は少ないと言われていたが、現実は米国に劣るとも劣らないほどの大都市だ。船から降りた彼に黒服の男が近づいてきた。

 「白燕進様ですね。お出迎えにあがりました」

 白燕と聞いた周りの視線が自然と進に集まった。進は気付いた風もなく、慣れた足取りで高級車に乗り込んだ。高級車は直ぐに発進すると白燕財閥のビルにむかった。着いたビルは見上げても頂上が見えなかった。68階建の高層ビルの最上階に白燕財閥の主だったメンバーが集っていた。そこに案内された進は凹型の会議用のテーブルの右端の椅子に腰を降ろした。進が座ったのを確認した代表の一人が会議の開始を告げた。参加しているのは左に文官、右に武官そして、真ん中に会議進行委員がいた。

 「諸兄も知っての通り、本日早朝に監視衛星がユーラシア大陸から『神の軍勢』の大群が日本海を渡っていることが確認された。既に自衛軍は九州に大量に配備していた部隊を青森に送り込んでいる」

 「…青森にはどれだけの部隊が展開しているのだね」

 「青森第8師団の一部に東北学兵旅団、海岸警備隊、後は青函トンネル守備隊と憲兵隊ぐらいですね」

 「ろくな部隊がいないな」

 「既に第2師団の一個連隊と第3戦車師団の一個大体が先発しています」

 「しかし、やってきたのが『神』の側とわな」

 武官の一人が溜息交じりに呟いた。

 ユーラシア大陸の西半分が『神』で東半分が『悪魔』が支配圏だと考えられていた。何故なら戦闘地域以外では監視衛星にもその姿が映らないのである。大都市には一年中濃い霧に囲まれていてあらゆる手段を用いてもその内部を調べる事はできなかった。その為、ユーラシア大陸の極東に位置する日本にやってくるのは『悪魔の軍勢』と考えるのは至って普通の事であった。

 「嘆いても状況はかわりません。勝手に思い込んでいたのはこちらで、あちらさんには関係のないことですから」

 海軍海兵隊第2旅団の司令官となっている白燕善次郎はくえんぜんじろう大佐だ。重慶防衛線では部隊の3割の被害を出しつつも、防衛の一角を支えたとして名将の一人に数えられていた。ただ、その折に小型の悪魔の浸透を許し、非戦闘員にかなりの被害をだしてしまったことに罪悪感を覚えていた。

 「くくく、当然だ。奴らには奴らの都合でな、こちらの都合ではな。だが、問題はその先発している部隊が到着するまで、戦線を持ちこたえられるかだな。くくく、無理だろうな」

 不気味な含み笑いで答えたのは、白燕忠則はくえんただのり中将だ。白燕一族でも希少な変わり者でもちろん嫌われていたが、優秀であり白燕の名を名乗りには十分であった。

 「だからといって、何もせんわけにはいかんだろ」

 「それよりも市民の避難を第一にしてもらいたい。学兵に関してもできれば二線級の戦線か、後方支援などにしてもらいたい」

 発言したのは文官で文部省に勤めている白燕だ。

 「市民の誘導は勿論だが、学兵に関しては自衛軍が到着するまでは主力にせざるをえんな。でなければ、防衛線の構築どころか、市民を安全な場所まで誘導もできん」

 「その誘導ですが、避難はどれほど?」

 善次郎が最近度を入れ替えた眼鏡を直しながら、尋ねた。

 「既に青函トンネルから北海道のルートと弘前駅からの鉄道をピストン運動で避難させている」

 「防衛線の構築に必要な部隊が揃うまでにどれだけかかる?」

 「二日、いや・・・三日だな。だがこれも防衛でわな。くくく、しかも学兵を全面に押し立ててのな。くくく、今いる学兵旅団は全滅必須だな。しかも待機状態にある学兵も招集しなければ間に合わんときている。ふははは、おもしろい実に愉快だ。今度の戦争の勝敗の鍵を学兵に委ねねばならんとわな」

 忠則が腹を抱えて、不規則な笑いをたたえるのを武官などは睨みつけ、文官などはその被害と保護者からの苦情を考え、今から頭を抱えていた。

 「そこで俺というわけだ」

 忠則の笑いを遮る形で発言したのはこの中では新参者になる進だった。古参の忠則の発言(笑いだが)を遮るのはよっぽど度胸がなければできないことであった。

 「誰だ、貴兄は?」

 「白燕進。さっき米国から渡ってきたばかりだ」

 「なぜ貴兄がいるの?」

 「日米が共同で開発した汎用兵器部隊を俺が指揮している。これは既にテストも終り、一個小隊で敵の大隊規模に相当するとされている。自衛軍ならその機動打撃力は一個旅団以上になるぞ」

 進の発言に一部を除いて驚いた。

 「そんな話、聞いたことがない」

 出席者の一人が他のメンバーの心を代弁するかたちで質問した。

 「当たり前だ、これは白燕財閥でも最高機密事項にあたることだ。今、外部に知れ渡るわけにはいかなかった」

 「だとしても、なぜ貴兄のような若造がその事項を知っている?」

 メンバーの中でも最も古いメンバーの一人が青筋をたてている。

 「うるさいよ、爺。別に俺も直接関与しているわけじゃない。さっきも言ったろ?俺は米国の白燕研究施設で操縦の訓練を幼いころから受けていたんだ。そしてその部隊をただ指揮するだけだ」

 進の言っていることに間違いはない。ただ、彼自身も操縦の訓練を受けていた事実を知らなかったのである。これには特殊な操縦方法にわけがある。

 「・・・だからと」

 「その辺にしておいたらどうじゃ」

 今まで黙って会議の成り行きを見ていた一人が口を開いた。白燕勝人はくえんかつと、白燕財閥当主代理としてこの会議の進行を任されている。

 「今話すべきは青森に上陸する敵にどのように対応するかであろう?」

 勝人は会場を一睨みすると各自に指示をだした。


 会議が終わり、進が部屋を出ると声をかけられた。振り向くと善次郎と忠則がいた。

 「なに?」

 「くくく、反抗的な目だ。そう恐れずともよいだろ?」

 「恐れ?」

 「閣下戯れがすぎます。いや、君の部隊だが臨時に私の指揮下に入る事になっている、それで横須賀軍港で大型揚陸艦『そらなみ』に乗艦してもらいます」

 「了承した」 

 進はそれだけ言うと二人に背をむけ歩き出した。

 

 「大変なお荷物を背負うことになったな」

 忠則がおもしろうそうに善次郎を冷やかす。

 「仕方ありません。ただ、私は別にあの子のことをお荷物だとは思いませんがね」

 忠則は善次郎をしげしげと見つめる。

 「物好きな奴だ、貴兄は」

 忠則は善次郎の肩を叩いてさっさと去っていた。

 善次郎は忠則の背中を見送ってから自分も旅団本部にむかった。

  

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