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初陣、ハバキリ『粉砕娘 メイスメスガキ続投』

「や……やった、変身できた!」


 肌を包む銀色に輝く腕。鋭い爪が伸びた少々凶悪な見た目をしているが、ビジュアルを気にしているような場合ではない。


「はん。なーるほど。邪魔者って訳ね」

「っ!」


 背筋が凍るような冷たい笑顔。人を人と思っていない。動物……否、人形のように見ている軽蔑と嘲笑の眼差し。

 こんな可愛らしい人形のような美貌であるがコレは人間ではない、化物だ。人間をいとも簡単に破壊し肉塊に変えてしまう圧倒的な力を持つ化物なのだ。

 恐ろしい。しかし今は違う。亜里沙には戦う力がある。


「邪魔は潰す!」

『来る』

「わか……」


 ターゲットを亜里沙に変え飛び出す。亜里沙よりも重そうなメイスを軽々と振り上げ迫る。

 戦わなくては。そう心の中で叫び踏み出す。しかし……スーツの紫色に輝く瞳から光が消えた。


「あれ?」


 その瞬間、関節が固まったように動きが鈍くなり身体が重くなる。

 それに気づいた時にはもう遅い。


「フン!」

「っあああ!?」


 メイスのフルスイングが直撃。彼女が感じた衝撃が身体を襲い、軽々と吹き飛ばされ店の壁をぶち抜き外へと投げ出される。

 背中と胸に走る衝撃、回転する視界に意識がかき混ぜられるような気分だ。


「あっく……痛…………くないけど」


 地面を数回跳ね起き上がろうとする。だが身体が重い。間接も上手く動かず仰向けに寝転がったままだ。


『まずいな。エネルギー不足だ』

「はぁ? ちょ、充電したのを渡してよ。こんなんじゃ戦えないって」


 呆れたような内海の口調にこっちが怒りたくなる。

 仮にも兵器なのだ。まともに動かない物を寄越されては命に関わる。むしろ今すぐ脱いで逃げた方が安全かもしれない。


『悪いがスーツのエネルギーは装着者の精神力から供給される。竜宮の気持ちがダメなんだ』

「ふぇ? 根性論でどうにかって……」


 しかしそんな問答をしている時間は無い。


「ザッッッコォ!」


 飛び掛かるメスガキ。メイスを振り上げ体重を乗せて亜里沙へと振り下ろす。


「ヤッバ!?」


 固い間接を強引に動かし腕を前へ突きだす。頭へ一直線、となった所をどうにか受け止める。生身なら腕ごと潰されていた所だろう。スーツが頑丈なおかげでトマトケチャップにならずにすんだ。

 しかしジリジリと圧されていく。


「ほらほらどうしたの? カッコつけた割にはクソザコねぇ。まともに動けないカカシだなんて。ダッサー」

「うっ……くっ……」


 重い。腕だけではない、メイスとメスガキの腕力も乗っているのだ。数秒ながらも耐えているのが驚くべき事だろう。

 必死になりながらも内海の言葉が頭に浮かぶ。


(私の……気持ち?)


 心が揺さぶられる。友人を守ると意気込んでいたが、心の片隅にはまだ()()()()()()()があったのだ。


『チッ。口先だけだったか』

「はぁ?」


 カチンと怒りに火が点く。


『このまま殺されるだろうな。何もできず死ぬだけ。この後の未来は丸ごと消えるんだ』

「そんなの……」


 頭の中で微かに浮かぶ両親の顔。もう写真でしか記憶のない家族の姿。そして力也、舞の顔が思い浮かぶ。

 全部無くなる。死んでただの肉になって消える。


 そんなのは嫌だ。


『竜宮、考えるな、感情で動け。戦えない自分に怒れ』

「私は……」


 膝関節の隙間から紫色の光が溢れる。


『獣になれ。大丈夫だ、君達(ハバキリ)は強い。だって君は』

「まだ」


 肘、肩と関節が光る。


『死にたくないだろ!』

「死にたくないっ!」


 再び目が光り足が動く。がむしゃらに、無我夢中にメスガキを蹴り飛ばした。


「なっ!?」


 数メートルは吹っ飛ばしただろう。しかしダメージは微小。それでも立て直す時間は充分だ。

 さっきまでの重さが嘘のようだ。身体が動く。戦える。生き残れる。


「私は……生きるんだ」


 立ち上り拳を握る。ふらつきながらも背筋を伸ばす。


「優しい彼氏作って結婚して、子供は二人産む。そんでひ孫の顔まで見て天国のお父さんとお母さんに自慢するんだぁ!」


 心の中をひっくり返しさらけ出し叫ぶ。夢を願いを、十代の少女が望む未来を全力で叫ぶ。このまま終わりたくない。未来を掴みたいと轟く。

 その声に応えるようにヒーロースーツ(ハバキリ)の光りは強く輝く。

 だがその心の叫び声でさえ、メスガキにとっては玩具でしかない。


「ハッ。つまんなくてショボい夢ね。そんなの!」


 メイスの先端が青く光る。大きく振りかぶり、バットのように振るうと先端が外れ亜里沙へと飛んで行く。

 当たる。その直前に更に強く輝き……炸裂した。街が揺れる爆発。高熱の風が辺りを包み爆ぜる。

 更に大きくなる悲鳴。その中でメスガキだけが高笑いをしていた。


「キャハハハ! 夢ってのはね、願うものでも目指すものでもないの。踏みにじるも……え?」


 しかしその顔は驚愕に塗り直される。

 爆煙が晴れた先、そこにいたのは木っ端微塵になった亜里沙……ではなく十本の剣が放射線状に広がり盾となっている。

 盾がバラけると傷一つ無い亜里沙の姿が。銀色に輝く装甲には驚くメスガキの顔が映る。


「私は!」


 全身の装甲がスライドし、その跡に紫色の光が血管のように走る。浮かぶ剣は背中のアームに集まり、一対の翼と化して広がる。


「こんな所で、死んで(壊れて)たまるかぁ!」


 目が光り頭部の装甲が三本の角へ。更に口が開き中から仮面が現れた。

 口や鼻のないのっぺりとした顔。楕円形の瞳が幼い少女のような印象を与える。

 変形した。全身からあふれる光が神々しさを与え、剣の翼が羽ばたき風を巻き上げる。


「な、何よ。ちょこっと変形しただ……」


 こんなのは虚仮威しだ。そう嗤おうとしたが、眼前に迫る銀の拳に阻まれる。


「ダアッ!」


 背中のスラスターを吹かし突撃。無我夢中でメスガキの顔面をぶん殴る。拳がめり込む感触、柔らかさと堅さが同時に腕を伝う。

 メスガキは軽々と殴り飛ばされ回転しながら自販機に突っ込む。


「す、凄っ。これならやれる! 内海君、武器とかないの?」

『さっき使っただろ。思念操作式のブレードが十本ある』

「あっ、これね」


 手をかざすと翼から剣が離れ、一本一本が意思を持つように周囲に浮かぶ。


「行け!」


 亜里沙の掛け声と同時に立ち上がるメスガキの周りを囲む。


「くっ……。さっきまで動けなかったのに」


 メスガキの左腕が裂け中の棒を引きずり出す。先端が鉄塊となったメイスを再び取り出し、四方八方から襲い掛かる剣を弾いた。

 上下左右あらゆる方向から来る刃を全てさばくのは不可能だ。白く美しい肌を少しずつ切付け青い血が滲み出す。腕、足、頬、腹。致命傷は避けているも傷はどんどん増えていく。


「ウザイのよ! さっきからチマチマと!」

「だったらこれで!」


 剣を一本握り、斬撃の合間から亜里沙が急接近。振り下ろす銀の剣は速く鋭い。

 その一撃はメスガキの右手首を切り落とした。


「あっ」


 持っていたメイスが落ちる。武器を失い焦る隙に、剣を杖のように地面に突き立て跳躍。ドロップキックを再び顔面に喰らわせた。

 大きくよろけ余裕の表情が失せる。追い詰められたメスガキがやる事は一つしかない。目に涙を浮かべ弱々しそうに顔色を変える。


「このっ……嫌! 誰か」


 だが言葉が続かない。メスガキの口を鋭い爪の生えた手が塞ぐ。


悲鳴(それ)は使わせない」


 スラスターを再び吹かし駆け出す。

 メスガキの頭を掴んだまま、一直線に飛び頭を地面に押し付け引きずり回す。アスファルトに削れた後と青い線を描かれていき、抜け出そうと踠くメスガキの力が弱まっていく。


「おりゃぁぁぁぁ!」


 地面に足を突き刺し急停止。その勢いのまま上空へと投げる。


『今だ!』

「うん!」


 渡されたもう一枚のカードをベルトにかざす。


『ワカラセバースト』


 全身からバチバチと火花が散り身体が熱くなる。思考が燃える、力が沸いてくる。

 人類の敵を倒せと刃が吠えた。


「行けっ!」


 十本の剣が一斉に射出される。刀身は紫の光に包まれより一層鋭利さを増した。

 剣を追いかけるように空を飛ぶ。当然人類の敵であるメスガキが黙っているはずがない。


「このっ、ぶっ殺すのはこっちだ!」


 左腕が裂け、再びメイスを吐き出す。それを左手で握るが、次の瞬間には手首が切り落とされていた。


「え……あぐっ!?」


 その痛みを感じるよりも速く脳に響く別の痛み。亜里沙の拳がメスガキの溝尾を捉えたのだ。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 殴り浮かせる動きに合わせるように、周囲を飛ぶ剣が更に切付ける。頬を殴れば足首を、脇腹を殴れば肘を、一発殴る度に関節を一つずつ切り落としていきあっという間に()()()へと姿を変えてしまう。


「お前を、ブッ壊す!」


 サマーソルトキックで真上に蹴り上げ画面に触れる。 


『ディグニティブレイク』


 飛んでいた剣達は右手に集まり、紫に輝く大剣へと合体する。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「この、ポンコツがぁぁぁ!」


 スラスターが火を吹き飛翔しながら突撃。振りかぶった大剣は空を切り、すれ違い様にメスガキの身体を両断する。

 左右に分かれ、青い切り口からは金属片が落ちる。火花が散り、光と共に大爆発を起こした。


『ミッションコンプリート』


 爆炎を背に剣を投げ捨てる。分解された剣は再び背中のアームに集まり翼へと化し羽ばたいた。


「か、勝った。私……メスガキを倒した」


 興奮と驚愕。複雑な感情が入り交じる中、確かにあるのは歓喜だ。


『やったな竜宮』

「う、うん。やったよ私」


 スピーカーから聞こえる内海の声が平和への合図だ。内心胸を撫で下ろし肩の力が抜ける。


『さて、竜宮には言っておかなきゃならない事がある』

「へ?」

『俺の事は話すな。ハバキリに関して聞かれても黙秘するんだ』

「え? ちょ、何?」


 彼が何を言っているのか理解できなかった。むしろこっちが説明してほしいくらいなのに。


『クリムゾンコングの首が飛ぶぞ』

「…………叔父さんに何をする気?」

『とにかく、お偉いさんの話しに合わせるまで黙っておくのが賢いぞ。じゃっ、今は皆に手でも振っくといい』


 皆と言われハッとする。レストランの方に視線を向ければ、瓦解した壁から出てきた舞が手を振っている。

 助けられた、守れた。それだけで思わず涙が浮かんでくる。

 

 ゆっくりと降下する亜里沙を見上げながら、内海はマイク付きイヤホンを外す。


「プロトタイプでこれか。良いね。未来は変わるぞ」

 

2:メイスメスガキ


 ランク:2

 身長:158cm

 外見年齢:15~16歳

 武装:先端が爆発するメイス

 ホスドールの傾向:爽やかスポーツマン系


 概要:白兵戦に特化したメスガキ。メイスの爆発は非常に威力が高く命中精度や攻撃範囲も高いので、航空、高速戦闘型のヒーローは交戦を避けるべきだろう。総合的な戦闘力はランク2の中では中堅。接近しメイスの投擲を封じれば撃破難易度は高くない。

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