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壊れる日常『粉砕娘 メイスメスガキ登場』

 飛び散る血と脳漿。砕けた肉と骨片。亜里沙の前で生物がただの蛋白質の塊へと変貌する様子がスローモーションのように視界に映っていく。

 鉄臭さ、遅れる悲鳴、耳に張り付く不愉快なメスガキの嗤い声。


「あ……ああ……」


 恐怖に身体が動かない。思考が過去へと引っ張られ、代わりだと言うように嫌な記憶(トラウマ)が浮上してくる。足が震え意識が遠退く。

 真っ赤に汚れたメイスを肩に担ぎ、メスガキと視線が合いそうになる。

 その瞬間、強引に腕を引かれ仕切りの影に押し込まれる。


「気の所為か。さっ、罪深ぁぁぁぁいブサイクは潰さないと」


 重なる悲鳴を背に暴れるメスガキ。その音を聞きながら亜里沙の口を誰かが塞ぐ。


「しっ」


 内海だ。彼が亜里沙を物陰に引き込んだのだ。

 これで一安心、と言いたいところだがこれは一時しのぎにしかならない。


「あ、ありがとう内海君」

「……気にしないで。それより、ヒーローが到着するまでじっとしてないと」

「う、うん。でも逃げられるなら……」


 ヒソヒソと小声で話しながら逃げ道がないか周りを探る。しかし入口まで距離がある。ならメスガキが侵入した窓は? ダメだ、メスガキに近づかなければならない。

 心臓が痛い。加速する動悸に息が上手く吸えない。

 そもそも足が震えて動けない。あんなカワイイ見た目をしているのに、笑いながら人々を虐殺していく矛盾した姿に頭がおかしくなりそうだ。


(隠れていれば助かる……のかな? いや、でも)


 それは他の人を囮にする事だ。人を殺しているのをヒーローが来るまでの時間稼ぎにする。そんな事は亜里沙にはできなかった。

 ヒーローが来るまで()()()()()()? そう考えるだけで吐きそうになる。


「嫌ぁぁぁぁぁ!」

「舞?」


 聞き覚えのある声、舞の悲鳴だ。友人の悲痛な声に意識が現実に引き戻される。

 思わず飛び出しそうになるも再び内海に抑えられる。男女の体格差のせいか動けない。


「ダメだ。出てっても殺されるだけだよ」

「だけど舞が……みんなが」

「じゃあどうする? 竜宮さんが飯塚さんの目の前でミンチになれば時間を稼げるの? 無駄死にだ」


 言葉に詰まる。内海の言う通りだ。普通の女子高生がどうこうできるはずがない。出たところで他の人が襲われる時間が一秒遅れるだけ。

 だけどこのまま震えながら隠れていて良いのか? いや、自分の身を守るのが優先だ。

 そんな自問自答を繰り返し目に涙を浮かべる。


「でも……」

「…………一つだけ方法がある」

「え?」


 内海の声色が変わる。気怠そうなものから凛としたものに。その変化に顔を上げれば、カチューシャで髪を上げた内海がいた。


「これを()()に託す」

「これって……」


 内海から一台のスマホを渡される。いや違う。厳密には別のデバイス。これを亜里沙は知っていた。


「ヒーロースーツのコントロールデバイス? どうして内海君が?」


 そう、叔父である力也が持っているのと同じ物だ。

 何故彼が? 未成年はヒーローになれない。高校生が所持して良い代物ではないはずだ。


「説明は後。俺は使えないけど、竜宮なら使えるはず」

「ちょ、確かにヒーローって特殊な体質が必要で血縁関係で出やすいけど……」

「いいから」


 亜里沙の手を取り人差し指がデバイスの画面に振れる。


「あ……」


 男の手とは思えない滑らかな肌にドギマギするも、別の声が、聞いた事のある声に胸が跳ねた。


『アクセス』


 デバイスがそう言うのと同時に特大サイズの手錠が()()形成され亜里沙に絡みつく。

 一つはベルトのように、二つは亜里沙の両肩から身体に交差するようにバツ印を描き装着される。

 起動した。


(嘘? たしか素質が無い人だとエラーって出るって叔父さん言ってたはず。じゃあ私は……)


 心臓が暴れる。加速する血流に身体が熱くなっていく。


「竜宮。君はヒーローになれる。今この場でみんなを救えるのは……竜宮亜里沙、ただ一人だ」


 そして二枚のカードを突きつける。


「バッテリーカード?」


 スーツの起動と展開、大技のエネルギーに使うカード。力也が使っている物と違い白いカードだ。


「選んで。このまま飯塚さんを犠牲にし、隠れてやり過ごすか。それとも戦うか」


 目の前にある金属のカード。手に取るか否か。どちらを選ぶか迫られる。


「どっちを選んでも、俺は構わない。だから選択するんだ。君自身の意思で」

「……!」


 身体を震わせ息を呑む。そして気合を入れるように自分の両頬を叩いた。


「それずるいよ。選択肢が無いようなものじゃん」


 カードを奪うように取る。友達を犠牲に、そんな事を言われて黙っていられない。選択なんてものは無い。立ち上がるかどうかなのだ。


「俺もサポートはする。頼んだよ、竜宮(ヒーロー)

「解った」


 飛び出す亜里沙。メスガキに駆け寄れば、今まさに舞達に狙いを定めた所だった。


「うーん。玩具に相応しいのはあんたくらいかしら? スポーツマン系の爽やかなイケメンって好みよ」


 舞達を庇うように男子生徒が一人手を広げている。他の男達は情けなく縮こまり、内海を顎で使っていた男子は女子の背中に隠れていた。

 メスガキの手には黄色い玉、ホスドールにする洗脳装置がある。


「待ちなさい!」


 店内に亜里沙の声が響く。


「あん?」

「これ以上好きにはさせない、舞達から離れなさい!」


 勇猛果敢に飛び出したが息が苦しい。周囲には潰された死体が散乱し、吐き気を誘発する血の匂いが充満している。


『使い方は他のヒーローと同じだ。知ってるだろ?』


 ベルトとなったデバイスから聞こえる内海の声。

 言われなくても理解している。ヒーローの戦いは何度も見ている。


「!」


 カードをかざすと銀色の光となって四散。亜里沙を守るように銀色の牢獄が彼女を包む。

 深呼吸をし震えながら檻を掴む。


「……変身(リリース)!」


 そのまま引っ張ると檻が爆ぜる。銀色の光が亜里沙に集まり装甲を形成していく。

 口を閉じたヘビの頭。折りたたまれた翼。胸部を強調した細身で女性的な体型。ヒーローと言うよりもヒロインと言った方が正しいだろう。


『The strongest sword to destroy the enemies of the Earth』


 瞳が紫色の光を放つ。

 そこには翼の生えたヘビと女神像をかけ合わせたような銀色に輝くヒーローが立っていた。


『ハバキリ、出撃』


 ただの女子高生だった竜宮亜里沙。彼女の日常が瓦解した瞬間だった。

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