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女子高生とヒーロー

 いつもの帰り道。学校が終わり一息つく時間。部活に誠を出す者もいるが亜里沙は違う。舞を含めた数人のクラスメートと共に帰路についていた。


「そういえば亜里沙、今日バイトは?」

「明日休みたいって人がいてさ。今日とシフト交換したの。だからお休み〜」


 そう言いながら手をひらひらと振る。

 口元は笑ってはいるものの、亜里沙の目は笑っていない。昼の出来事をまだ引きずってるようだ。


「まだイライラしてるの?」

「そりゃそうだよ。地球の為に命懸けで戦ってくれてる人達を犯罪者扱いするなんてさ。ふざけんじゃないよって感じ」


 眉間にシワを寄せブツブツと恨み言を呟く。

 彼女の場合それだけではない。身内の仕事を罵倒されたのだ。怒るのも無理はない。

 舞だけでなくここにいる全員が亜里沙に同情していた。しかし当事者と部外者、多少なりとも溝はできてしまう。考え方に違いができてしまうものだ。


「けどさ。アメリカで小学生の子を襲った犯人が、ワカラセルンジャーになって無罪になったって話しがあるよね」

「あっ、私も暴露系ネッチューバーの動画で見た。司法取引ってやつだよね」


 ムッと亜里沙が不機嫌そうに睨む。


「ちょ、別にそういう人もいるだろうねって事」

「そうそう。竜宮さんの親戚とか、他にも地球を護るのに頑張っている人が殆どだって思っているよ。けどさ、噂が出るって事は何かあるんじゃないかなって……」

「まあ、ね」


 そう言われると反論に困る。皆が悪意がある訳じゃない。それに、この話しは亜里沙の耳にも届いている。

 気まずそうな空気。俯く亜里沙。どうにかしようと舞が焦る。


「そ、そう言えば亜里沙の叔父さんってどんな人? クリムゾンコングの写真見る感じ、身体大きそうだけど」

「えっとね。めっちゃ筋肉ムキムキ。そんででかい。二メートルあるって言ってた」


 少しだけ亜里沙の顔が明るくなる。それだけ彼の事を信頼しているのだろう。声色もどこか弾んでいるようだ。


「マジ?」

「亜里沙も背高めだし、その辺似てるのかな」

「うーん。叔父さんってお母さんの弟なんだけどさ。そっちの影響は確かにあるかな。竜宮の方に似てたら舞みたいにちっちゃくて可愛いかったのに」


 頬を膨らませ周りとの背を比べる。舞よりクラスメート二人の方が背が高い。そしてその二人よりも高い。

 亜里沙の身長は百六十六。そこまで極端ではないが、どちらかと言えば高身長の部類だ。

 モデルとかやれそう。そう言われて嬉しい気持ちはあるが、正直舞が羨ましい。

 しかし自分の身体にケチをつけるのはナンセンスだ。亡くなった両親の贈り物。それを侮辱するなんて最悪だ。


「それとも、もっとデカくなったら良かったかな。ほら、それならスポーツとか有利じゃない」

「あー。亜里沙って割と運動神経良いよね。流石はヒーローの姪」

「ふふん。まぁね~」


 ふんぞり返りながら歩く後ろでクラスメート達がひそひそ話をする。


「竜宮さんってけっこーチョロいよね」

「うん。単純って言うかさ。悪い子じゃないんだけどねぇ」


 単純。そう、単純なのだ。

 ちょっとだけ家族想いで直線的。それが竜宮亜里沙という人間なのだ。誰だって感じる情愛、それに素直なだけだ。

 二人の前を歩く亜里沙達。その背中はどこか逞しさすら感じる。


「それじゃあさ。亜里沙はヒーローにならないの? 素質って血縁者に出やすいってネットでも言ってたじゃん」

「あー。そもそも女性って素質が発現し難いみたい。それにヒーローになりたいなんて、叔父さんが絶対に許さないよ」


 アハハハと苦笑いが溢れる。

 ヒーロー、ワカラセルンジャー、それに興味が無い訳ではない。いや、なりたい願望はある。


(まあ、メスガキに恨みだってあるし。あいつらと戦う力が欲しいって思った事もある。だけど……私にはその力が無い)


 心の中で悪態をつく。力が欲しい。そう思う事もある。

 自分の手を眺め、そして握る。


 何せ、彼女自身がメスガキの被害者遺族だからだ。


(お父さんもお母さんも、お爺ちゃんもお婆ちゃんもみんな……メスガキに殺された。あいつらと戦う力があればって何度も思った。けど、それは叔父さんがやってくれる。私は普通に生きて、幸せになればみんな喜んでくれる。そうだよね)


 そう自分へ誤魔化すように言い聞かせる。危ない事をしなくてもいい。そんな事、亡くなった家族が望んでいない。

 自分はただの女子高生。無力な守られる存在なのだと意識が呟く。


「あ……」


 不意に亜里沙の足が止まる。そして何かを見つけたように視線が一点に収束していく。


「ごめん、叔父さんだ」

「へ?」


 亜里沙は駆け出し大きく手を振る。


「叔父さ〜ん」


 彼女が手を振る先。はち切れそうなスーツを着た巨大な背中があった。

 周りの人が驚いている中、亜里沙だけは違った。気づいたその大男が手を振り返すとブワッと一気に笑顔が広がる。


「ああ、亜里沙。今帰り道なのかい?」

「うん。あっ」


 と、思い出したように舞達の方に振り向く。


「じゃあまた明日」

「あ……うん。またね亜梨沙」

「また明日ー」


 そう軽く手を振り返しそそくさと歩き出すクラスメート達。その後を一步遅れて舞も追いかける。

 そんな彼女達に手を不利ながら見送る。


「一緒じゃなくていいのかい?」

「いつももここらへんで分かれてるの。皆の家はあっちだから。帰ろう、家に」


 二人が並んで歩き、その影が次第に小さくなっていく。

 舞達は一度だけ振り向き二人を眺める。どこか小馬鹿にしているような、同情するような不思議な視線だ。


「あの人が竜宮さんの言ってた叔父さんだよね? 親代わりだって言ってたけど……なんかすっごい人だね」

「うちのパパみたいなハゲデブよりマシじゃない? でもあの顔はちょっとねぇ」

「でも……」


 愉快そうに笑うクラスメート達とは違い、舞だけは違う笑みを浮かべていた。


「本当の親子みたいで幸せそうだよ」

 

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