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顔バレヒーロー

「あーしんどっ。これから叔父さんとどう向き合えばいいんだろ」


 肩を落とし項垂れながら登校する亜里沙の背中は思い。今まで体験した事のない憂鬱感だった。


「帰ってきたのも夜中だし、絶対怒ってるし。そもそも私、これからどうすればいいんだろ」


 頭を抱え考える。ここまで力也とこじれたのは初めてだ。その上ヒーロー……のテスト変身者に仕立て上げられてしまった。これは大問題だ。

 頭が痛い。こうなればこの原因に聞くしかない。どうにかさせなければならない。


(早く内海君にも問い詰めないと)


 意気揚々と校門をくぐり校舎へ。いつもの廊下を歩いているが、今日は妙な視線を感じる。


「おはよー」


 違和感を感じつつも教室に入り挨拶。それが日常だった。

 しかし今日は違う。視線が集まり奇妙な静けさがある。何か珍獣を見るような視線。それが不愉快と言うより不可解だった。


「?」


 おかしい。制服の表裏が逆なのか? 寝癖が治ってなかったか? どれも違う。少なくとも自分の身なりは普通のはず。

 その答えはすぐに飛び出した。


「亜里沙!」

「ああ舞。おはよ」

「おはようじゃないよ!」


 迫る舞。顔が触れる程近く、鬼気迫る勢いで飛びついた。


「なんで言ってくれなかったの? 亜里沙がヒーローだったなんて」


 彼女が食いつくのは当たり前だろう。なんせつい昨日、目の前で亜里沙が何をしたのか見ている。舞だけではない。あの場には他のクラスメートもいた。


「それよりさ、日本で初の女性ヒーローじゃない?」

「女子高生ヒーローとかヤバくない?」


 舞に続き他のクラスメート、さらにあの場にいなかった者も亜里沙に群がってきた。

 興味、好奇心、羨望。あらゆる視線に射抜かれる。


「ねねっ、亜里沙。今変身できる?」

「いやー。その、変身に使うカード持ってなくて。そもそも勝手に変身するのもマズイと言うか……」


 周りの威圧感に思わずたじたじ。正直自分にも解らない事ばかり。話せない事だってたくさんある。

 どうにかしてくれ、教室を見回し元凶を探す。いた。しかし内海は知らん顔。いっさい手助けをしようとしない。


(このっ……全部説明してもらうんだから)


 いらつきながらもみくちゃにされ、一日が始まったばかりなのにもう疲労困憊だった。


「ねえねえ、ヒーロー名なんていうの?」

「ええっと。確かハバキリ? だったっけ?」

「変わった名前だね。ほら、クリムゾンコングとかコバルトクラーケンとか色が名前についてるじゃん」


 みんなの前で変身したのだ。こうして質問攻めになる可能性は考えておくべきだった。だが……


(まっ、こういうのも悪くないかも)


 友達を守れた。クラスメート達も無事だ。それは喜ぶべきことだろう。少しだけホッとする。

 クラスメート達の歓声。人気者になったようで妙に気分が良い。そんな年相応の優越感に亜里沙は頬を緩ませるのだった。




 そして時間は流れ放課後。教師が立ち去るのと同時に勢いよく立ち周囲を見回す。

 内海がいない。休み時間はクラスメートに囲まれ話せず、帰り道で捕まえようと思ったがいない。


(逃げられた?)


 彼の帰り道は知らない。校内であればまだ捕まえられる。

 ハバキリの事を聞きたい。内海が何者なのか知りたい。


「亜里沙、これから……」

「ごめん、用事あるから先に帰るね!」


 舞が声を掛けてきたが相手にしている時間は無い。急いで教室を飛び出し、その勢いに周りは呆気にとられる。

 走る、走る、走る。外へと内海を探しながら走る。しかし校内にはいない、すれ違う事もなかった。


「ああもう! どこにいるの? もう帰っちゃったとか……」


 残念そうに声が溢れる。なんでこんなに早く逃げた? 考えれば納得がいく結論が出てくる。

 今の亜里沙と一緒にいるのは得策か? 答えは否だ。彼に何かしらの秘密があるのなら、それがバレるリスクを避けるだろう。ましてや、クラスメート中から注目を集めている亜里沙の近くなんていたくないだろう。

 諦めるの三文字が頭を過る。


「どうしよう。古典的だけど連絡先を机や下駄箱に入れて……」

「竜宮~」


 数人の男子が集まってくる。彼らも走っていたのか少しばかり息切れをしていた。


「一緒に帰ろうぜ」

「いや、俺が送るよ」

「へ? へ?」


 中には知らない別のクラスの子もいる。何かがおかしい。はっきり言って亜里沙はモテない。別に避けられている訳ではないが、こう()()が見えるような接し方は初めてだった。

 不思議な感覚だ。嫌悪感を感じると言う娘もいれば、愚かと見下し自身の魅力を感じ優越感を感じる娘もいた。

 亜里沙はそのどちらでもない。疑問だった。

 男と女、雄と雌、肉体の構造が違えば考えも違う。もしかしたらあの叔父でさえ美人の前ではこうした下心を見せるのかもしれない。

 そんな事を考えていると男子達が亜里沙の手を取ろうと指先を伸ばす。だがそれが触れる事は無かった。

 背後から引っ張られる感覚。思わず転びそうになった所を誰かがそっと受け止める。


「悪い、待たせた?」


 後ろから聞こえる甘ったるい声。この声色に聞き覚えがある。しかしこの話し方は知らない。


「じゃっ、帰ろう。車用意してあるからさ」


 振り向けば光があった。柔和な笑顔。まるで少女漫画の一コマを切り取ったような光景。

 亜里沙を背後から優しく抱き寄せる内海。しかも制服ではなくスーツ姿。更に前髪も上げ光彩を放つ瞳をさらけ出し亜里沙を見つめる。


「え? 誰?」


 周りも突如として現れた絶世の美男子に目を奪われ時が止まる。誰だ、そう皆が思いながら亜里沙だけは別だ。


「えっと……う」


 シッと人差し指を唇に当て声を止める。今のところこの人物が内海だと周りは気付いていない。当たり前だ。彼の素顔は亜里沙しか知らない。

 それよりもどうして、何故かとさっきまで逃げていたのにと疑問が頭を埋め尽くす。


「ほら、行くよ」


 あれよあれよと手を引かれ校門へ。外へと一歩出た先には一台の車が。車に詳しくない亜里沙にも解る。これはとんでもない高級車だ。

 半ば押し込まれる形で乗れば、中はフカフカのソファが。更には冷蔵庫まで設置してあり、庶民の彼女には未知の空間だった。


「あの、内海君? これ……」

「ああ、うちのベンツ。楽にしてていいよ」

「べ、べんっ!?」

「出せ」


 そう言いながら指を鳴らすと車は走り出す。

 亜里沙でも解る高級車。ご丁寧に運転手つき。まるで漫画のお金持ちキャラのような所作に顎がはずれそうだ。


「悪い、学校では話せなかった」

「……つまり説明してくれるって事だよね?」

「ああ。俺ん家に来てもらう」


 その言葉でピンときた。力也達への圧力、新型のヒーローデバイス、そしてこのブルジョアな現状。全てが繋がる。


「もしかして、内海君の親ってワカラセルンジャーのめっちゃ偉い人?」

「ああ。創設から関わっている」


 ビンゴ。亜里沙の予想はほぼ的中だった。彼は関係者だった。親がワカラセルンジャーの上層部なら何もかもが繋がる。

 予想通りでホッとしたように胸を撫で下ろす。


「そっか。じゃあ内海君のお父さんかお母さんが説明してくれるって事か」

「は? うちの親、両方とも日本にいないけど」


 亜里沙の思考が一瞬停止する。


「え?」

「言ったじゃん。()()()って。家も車も俺名義だよ」

「は………………はぁぁぁぁぁぁ!?」

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