受験レーサー(中二病注意)
シャーペンを握ると
封印された右手に設定された
エンジンの回転数が上がる
ノートに芯が触れた瞬間
レースクイーンを幻視
鼻の穴が膨らんだのに気付き
笑いそうになる
脳内のシグナルが
赤から黄色に
ブルンブルンブルン
口頭で呟く
もちろんネイティブな発音で
時計の秒針が響く
シグナルが青に
カリッカリのモンスター
……いやシャーペンが
ノートの罫線と罫線の狭間を突っ走る
直線
曲線
直角
点
跳ね
止め
丸
自由自在
レースの最中だとわかっているが
愛車を持ち上げ
眼鏡に寄せて
性能に酔う
『勉強しろ』
階下から両親が怒鳴る
まだまだ
レースはここからだ
存在しない助手席に座るヒロインは
あくびで受験生を煽る
見せてやるよ
俺の筆記体
ピットインはここまでだ
シャーペンをノック
ノック、ノック、ノックッッッッッ!
ヒロインの指よりも細い芯が
ノートの上に思い通りの芸術点を刻む
夜の勉強は結局プラクティス
対戦相手は己自身
やがて来る試験に怯えるくらいなら
呑んでかかった方がマシ
見えない金メダルを噛んで
透明なシャンパンを
俺が独占する表彰台の上で浴びる
耳に響く喝采は全て
限界を越えたパフォーマンスの見返り
参考書を開く左手が止まらない
モンスターマシンが
現実の車ではできない軌道で
ノートの下の段へ飛ぶ
いや
トぶ
そのまま平仮名をドリフト
滑る?
何を言ってやがる
シャーペンのドリフトは
アンダーステアを防いで美しい日本語を綴る技術だ
縁起ごときのために
美学を覆せるかよ
おっと
ヒロインのナビが『ここまで』と言っている
今夜は独りの布団でウイニングランだ