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8話 少女と冒険者

 辺りは暗闇に包まれ、湖が月の光をゆらゆらとなびかせている。


 メルノワ湖の畔で焚火をするロジェとミルト。

 パチパチと燃える焚火の周りでは、ロジェが先ほど掴まえてきた魚が香ばしい匂いを漂わせている。


「もう焼けただろう。ほら」

 ロジェは焼けた魚を手に取ると、ミルトにそっと差し出した。


「ありがとうございます」

 礼を言い魚を受け取りったミルトだが、どう食べれば良いのかわからずに、一口目を躊躇していた。

 ロジェの魚を頬張る姿をチラッと見ると、同じようにパクリと口を空け、魚にかぶりついた。


「……おいしい、おいしいですね」

 焼きたての魚は肉が柔らかく、皮はパリパリ。

 ミルトは美味しさに、顔がほころんでいる。


「こうやって取れたての魚を外で食べるなんて初めてで……ロジェさんにも会えたし、世の中、悪い事ばかりでは無いですね」

 ミルトはロジェの顔を見るとニコっと微笑んだ。


「……やっと笑った」

 ミルトの笑顔をみて、ロジェはほっとしたように呟いた。


「ミルトは、その年齢でエリート研究員なんだろう? 俺はバカだから、難しい事は分からないけど、勉強や研究で毎日大変だろう」

「会ってからずっと暗い顔をしていたからな……そりゃ、兄さんの事があるからだろうけど、今みたいな笑顔……明るく元気な笑顔、凄く似合っているよ」

 ロジェはミルトに微笑んだ。


「え、え、え」

 急なロジェの笑顔と言葉に驚いたミルト。

(明るい笑顔が似合ってる!? そんなこと今まで言われたことないけど)


「そ、そ、そんな暗い顔でしたか、兄さんが心配だから……いや、今でも心配ですけど……そんなに暗い顔でしたか?」


 不意にロジェと目が合うミルト。顔を赤らめる。

 しばしの沈黙の後、空気に耐えきれなくなったミルトが、慌てて話し出す。

「そ、そ、そ、そう言えば、ロジェさんはテントを張らないんですか?」


「ああ、そうだな」

 ロジェは立ち上がると、ミルトが設営したテントの横に指輪を向けた。

 指輪から魔法陣が地面に現れると、階段が出現した。

 階段の奥にはドアがあり、中は小さな家のような部屋になってる。

「俺は、この中で寝るが、何かあれば直ぐに出て行くから大丈夫だ」


 ミルトは興味を持ったのかメガネをクイっと上げると、食い入るように入口を見ている。

「何ですかこれは?」

「これは魔法ハウスという魔道具で、広くは無いがトイレも風呂も完備した部屋になっている」

「へぇー、そんな便利な物があるんですね」

「ああ。それに、近くに侵入者があれば、中に居ても警報で知らせてくれる(すぐ)れ物だ。まー、あまり流通していないがな」


 ロジェの話しを聞いたミルトが頬を膨らまして少々怒っている。

「そんな素晴らしい物があるなら、私もそこに泊めてくれたら良いじゃないですか」


「いや、そこまで広く無いから二人は無理だ」

「そうですかー」

 プイっと横を向くミルト。

 そんなミルトを見て、ロジェが笑う。


 焚火を前に静かに湖を眺めるロジェ。

 気が付くとミルトの体がウトウトと揺れている。

「ミルト、そろそろ寝たらどうだ?」

「はい……そうします。おやすみなさい」

 ミルトは自分のテントに入って行った。


 辺りを警戒しながら火の番をしているロジェ。

(今日は魔物の気配が感じないな……珍しいくらい安全だな……俺も寝るか……)

 ロジェは、魔法ハウスに入って行った。


 寝ていたミルトが目を覚ました。

(起きてしまった……)

 時折聞こえる水の撥ねる音、何かの鳴き声、風の音なのか、ザワザワと樹々が掠れる音。

(今の音、何……)

 テントに一人で寝るミルトは寂しさもあり、怖くなっていた。

(ロジェさん……起きているかな……)

 ミルトは立ち上がると、テントを出る。

 焚火は、まだ燃えていたが、そこにロジェの姿は無かった。


 辺りを気にしながら恐る恐る魔法ハウスのドアの前に進むミルト。

 コンコンコン

「ロジェさーん」

 ドアをノックするミルト。


 ドアが開くと、驚いた表情のロジェが現れた。

「どうした、ミルト。何かあったか?」


 恥ずかしそうなミルトが、もじもじしている。

「いえ……その、眠れなくて……」


「ははは、そうか。初めての野宿だから、緊張しているのかもな。何か温かい飲み物でもだそう。」

 そう言うとロジェはミルトを部屋に入れると、入って直ぐのテーブルの席に座らせた。


「ここが、魔法ハウスの中ですか。結構広いじゃないですか」

 見渡すミルトが、驚いて話し出す。

「ここはキッチン兼休憩場所だな、向こうはトイレと風呂。そっちは寝室だ」

「きちんとしているですね……」

 ミルトはハッとする。

(男の人の部屋に初めて入ったわ……しかも二人きり……)


 ロジェがミルトの前にカップを置く。

「ホットミルクだ。温まるから、きっと眠くなるだろう」


「ありがとうございます」

 ドキドキしているミルトがカップに口を付ける。


「そうだ、確かあそこに……」

 ロジェがキッチンで何かを探している。


「あった、これも食べなさい」

 そう言うとロジェはクッキーのようなお菓子をテーブルに置く。

 テーブルに置かれていたカップを手にすると、横にあるソファーで座り飲みだすロジェ。


 ミルクを飲み干したミルトが大きなあくびをした。

「どうだ、眠れそうか?」

「はい……その、お願いがあるんですが……」

「ん? 何だ」

「その、一人では心細いので……ここで寝てはいけませんか……?」


「……うーん、寝るところが無いぞ……」

「あの、どこでも良いです。良ければ、そこのソファーでも……」


(俺がソファーで寝ても良いが……ベッドは男臭いからな……仕方ないか……)


「ああ、分かった。それで良いなら……」

「ありがとうございます」


 ミルトがソファーで横になると、ロジェが毛皮の布を掛ける。

「おやすみ」

 そう言って寝室に戻ると、ロジェはベッドで横になり眠りについた。



 目を覚ましたロジェが、大きなあくびをする。

(いつもより良く眠れた気がするなぁ……)


 両手を広げ体を伸ばすと、右腕が何かに触れた感じがした。


 ロジェは不思議と右腕に目をやると、そこにはミルトがスースーと寝息を立てながら幸せそうに寝ている。


(ミルト……疲れていたんだな……無理もないか、兄の事、魔大陸の旅、まだ若い女の子には大変だもんな……)




(てっ!?)


(なっ……なんで、ミルトが、ここで寝ているんだ……)


(昨日は俺、一人でベッドで寝たよな……)


 一旦、自身の置かれた状態を確認するロジェ。


(……大丈夫……俺、服を着ている……ミルトも……服を着ている……)


 思考を巡らせるロジェに気付いたミルトが目を覚ました。

「おはようございます、ロジェさん」

 笑顔のミルト。


「ミルト……何でここで寝ているんだ……たしか……ソファーで寝ていたよな……」


「あっ……そうでした。ごめんなさい。夜中にちょっと不安になって……ロジェさんに声を掛けても起きないから……」


 ロジェは唖然としている。

(……いつもなら、気配で目が覚めるんだが……)


「あの、何もしてないですよ。私……」

 ミルトは恥ずかしそうに呟いた。


「『何も』って何のことだ……」


「ああ、いえ、何でもないです、あははははっ」


「そーか……うん。 よし、起きて出発の準備だな……」

「そうですね。 インカ草を取りに行かないと」

 二人は起きると、何とも気まずい雰囲気の中、出発の準備を始めた。


 準備を終えたロジェが湖の奥を指差した。

「インカ草の場所は、湖の向こう側だな。ここからは、歩いて行くしかない。畔に沿って進んで行こう」


 ミルトは目の前に広がる湖を見て、溜息をつく。

「はぁー……結構、遠いですね。行きましょう……」


 そう言うと、二人は気まずい雰囲気のまま、無言で歩き続けた。


 ボアーボと遭遇した林を越え、太陽が真上に差し掛かる頃、ロジェは疑問を感じていた。


(魔大陸に入ってから、魔物に遭遇していない……なぜだ……)


 ミルトが黙々と歩くロジェに声を掛ける。

「ロジェさーん、少し、休憩しましょうよ」


「ああ、分った。少し休もう」


「ひー、足が疲れました」

 ミルトは近くの岩に座ると足を伸ばしている。


「しかも結構、暑いですね。頑張らなきゃ」

 着ていたローブの襟元をパタパタと仰ぐミルト。


 周りを確認したロジェがミルトに近寄ると、湖とから少し外れた場所を指差した。

「あの先が、インカ草の場所みたいだな。ここからじゃ、何も見えないが……」

「そうですね、父さん達の地図によればあの辺りですね。もう少しで兄さんを助けられます」

 安心したように笑うミルトがだったが、ローブの襟元から赤い首飾りが現れた。


「その首飾りは……」

 ロジェは、その首飾りに見覚えがあった。

「それは、ジェマさんが持っている『魔除けの首飾り』だよな……どうして君が?」


「えーっと……それは、その……内緒です……」

 何とも歯切れの悪い答えのミルト。


 ロジェは予想外の答えにポカンとした。

「内緒?」


「そ、そうです、内緒です」

 ミルトは立ち上がると、インカ草に向けて歩き出した。


「ほら、行きますよ。ロジェさん」


(魔除けの首飾りは、気配を薄くして魔物に存在を気づかせない魔道具だ……だから魔物に会わなかったのか……でもあれ、レアアイテムだと思ったが、ジェマさん以外も持ってるんだな……意外と流通してるのか?)

 ロジェは釈然としないまま、ミルトを追いかけるように歩き出した。



 さらに歩くこと、数刻。

 樹々を抜けた二人の前に大きな沼地が現れた。

 まだ、陽の出ている時刻だが、周囲は薄暗く、沼の色は紫がかった異様な雰囲気が立ち込めている。


 ミルトは両親の残した地図を確認する。

「ロジェさん、たぶん、ここら辺がインカ草の生息地です」


「ああ……そうか……魔素が濃い……気を付けた方がいい、それに、あれは毒の沼地だ……ん?なんだ、あれは……」


 沼の中央には、浮島のような場所が、陽の光にあたり輝いている。


「あ!? ロジェさん、あそこに草や花がたくさんありますよ」


 嬉しそうに沼地に掛かる橋を渡ろうと走り出すミルトだったが――ロジェが遮るように腕を出し、ミルトを止めた。


「ロジェさん?」

 ミルトが険しい表情のロジェを見つめる。


 ロジェが見つめる沼地に目をやると、沼から這い出るように、たくさんの死体が湧き出てきた。


 その光景のあまりの恐ろしさに、ミルトは言葉を失い、呆然と化物達を見つめていた。

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