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7話 冒険者と少女

 ロジェがミルトの手を引きギルドから出てきた。

 呆気に取られているミルトだったが、ハッとした様子で、ぐいぐいと進むロジェの手を引っ張る。


 ロジェは急に力の入った手に驚いて振り返った。

 振り返るロジェの顔を少し恥ずかしそうに見つめるミルト。


「……ロジェさん。その、あの……ありがとうございます。でも、どうして――」


 ロジェは言葉を遮るようにミルトの口を手でそっと塞いだ。

「何も、気にしなくて良い。それより、急いでインカ草を取りに行こう」


「はい、でも……その前にノートを取りに教会に戻りたいのですが、よろしいですか?」

「ああ、分かった」

 二人は光聖教会に向かった。


 ミルトが住んでいる教会宿舎は、入口である礼拝堂の建物を越えた先にある教会の研究施設等が置かれた場所にあった。


「ここから先は、関係者以外は入れませんので、ロジェさんは、ここでお待ちください」

 離れたミルトは急ぎ足で建物の中に消えて行った。


(ここは大きくて広い所だな……)

 そんな事を考えながら、ロジェは礼拝堂前の広場を眺めていた。


 ボール遊びをしている子供たち。

 ロジェの足元にコロコロとボールが転がって来る。

 ロジェがボールを拾うと、「すいませーん」と元気よく男の子が走って来た――が何かにつまずいたのか転んでしまった。


「おい、おい、大丈夫か」

 心配したロジェは泣いている男の子に近寄って行く。

 膝を擦りむき血が滲んでいる。

「わーん、いたいよー」

「大丈夫だ、誰か呼んできてやるから、少しだけ我慢するんだ」

 周りを見渡すロジェの目に、法衣を着た一人の少女が近づいてくる。


「大丈夫、泣かないの」

 男の子の膝に手を向けると優しい光が包み、みるみるうちに擦り傷は治っていった。

「もう痛くないでしょ」


「うん、ありがとう」


 ニッコリと笑いかける少女に泣き止んだ男の子もにっこりと笑い返した。


 ロジェはボールを男の子に渡した。

「ありがとうございます」

 少年はしっかりとお礼を言うと、子供たちのところに戻っていった。


「ありがとうございました」

 法衣を着た少女もロジェに頭を下げる。


「いや、俺は何も……さっきのは回復魔法?」

「はい、ヒーリングです」

「その若さで回復魔法を使えるなんて、大したものだな」

「いえいえ、そんなこと無いですよ」

 褒められた少女は両手をブンブンと振り恥ずかしそうにしていた。


「おーい……ミ……レーラ……おねーちゃん」

 子供たちが少女を呼んでいる。

「はーーい」

 少女はロジェに軽く頭を下げると、子供たちの所に戻って行った。


 ロジェは気づかないうちに、天使のような清楚で美しい少女の後ろ姿に目を奪われいた。



「ロジェさん!! ロジェさん!!」


 急な声に驚いたロジェが、いつの間にか戻ってきていたミルトに気が付いた。

「どうかしたんですか、なんだかボーっとして」


「いや、何でもない……その恰好は……なんとも動きやすそうだな」


 ミルトは青いローブを羽織り、ピッタリとしたボトムスに履き替えている。

「ええ、結構歩くと思いますので……それに、このローブは防御耐性に優れていますから」


「それは心強いな、それにしても……」

 ミルトの全体を眺めるロジェ。


「ミルトは、凄く脚が長いな。走るのが早そうだ」

 スカートで隠れていた時は分らなかったが、ミルトの脚は一見して分かる程に長く、スラリと伸びている。


 目を細めてロジェを睨むミルト。

「何を言ってるんですか? 女の子の足をジッと見つめるなんて、変態ですよ」


「えっ……ははは、確かに、そうだな、すまない。君の足なら、魔物に襲われても逃げられると思ってさ……」

 ロジェは気まずそうに謝った。


「何ですかそれ……もういいです。それでは出発しましょう」

 無表情のミルトが歩き出す。

「あっ、待って待って。この時間から歩いて湖に向かったら着く前に夜になって危険だ。馬で向かうぞ……」

「馬ですか!?」



 借り(うまや)


 馬小屋で馬をブラッシングする男がロジェを見つけて声を掛けてきた。

「あれ、ロジェさん。こんな時間にどうした?」

 男は差し込んでくる太陽の光のせいで眩しそうな顔をしていた。


「急用で魔大陸に行くことになったんだ、馬を借りるよ」

「こんな時間から行ったら、夜になるぞ。大丈夫か? それに、『ボッチ』のお前が可愛い女の子を連れているなんて……珍しいな」


「『ボッチ』?」

 不思議そうな表情のミルトが呟く。


 怪訝な表情を浮かべるロジェ。

「急いでいるんだ。親方には話してあるから、魔馬を貸してくれ」


「あいよ!! Sランクのあんただから、大丈夫だと思うけど、魔物に襲われて貴重な魔馬を殺さないでくれよ」


「だから、そのために魔大陸用の馬、魔馬を借りに来たんだよ」

「確かに、ちげぇねぇ。はっはっはっ」

 ロジェと厩の男は楽しそうに話をしていた。


 そんな二人の会話をミルトは目を丸くして聞いていた。

「『S……ランク』」


 ロジェが馬に跨ると、ミルトに手を差し出す。

「さあ、出発するぞ」


「は、はい」

 差し出された手を掴んだミルトが馬の後ろに座ると、ロジェは勢いよく馬を走らせた。



 町を抜けた街道の先に西門がある。

 西門の先にある大きな河に架かる橋を越えると、魔大陸と呼ばれる大陸が広がっている。

 魔族の魔大陸、人間のヒュー大陸。大昔に魔族と人間の戦争が終結してからは、魔族でも人間でも自由に行き来が出来るため、平和な今では、魔大陸とは少し物騒な名前ではある。

 だが、魔大陸側は魔素が濃いため、魔素から誕生するとされる魔物は、数多く生まれ、しかも強く凶暴であった。



 馬は二人を乗せ、軽やかに走る。

 西門を越えた先で、何かを言いたそうにしていたミルトがロジェに話しかけた。


「ロジェさん……あの、ロジェさんって、Sランクの冒険者なんですか?それに……馬屋の人が言っていた『ボッチ』って何なんですか?」


 ロジェは何とも歯切れが悪そうに答える。

「一応、冒険差ランクはSだが……俺は、その、一人クエスト専門で依頼を受けているから、『ボッチ』って、呼ばれることはあるが――」


「ひとりぼっちの『ボッチ』ですか……」


「まーそうだな……」


「ロジェさん――」

(どうして、一人何ですか?)と言いかけようとしたミルトだったが、口を噤んだ。


「そもそも、ジェマさん。ほら、ギルドにいた赤い髪の女の人。あの人が他の冒険者に言い始めたのが最初で、俺は別に――」

 必死に説明するロジェに、後ろからしっかり抱きつくミルト。


(こんな優しい人なのに、きっと何か理由があるんだね……)

 ミルトはロジェの背中に顔をもたげると、さらにギュッと力を込めて抱きつく。


「ミルト?」


「揺れて怖いので、しっかり捕まらせて下さい」


「ああ、そうか。落ちないようにしっかり捕まっていろよ」

 

 橋を渡ると夕暮れの広野を二人を乗せた馬がひた走る。


 辺りが薄暗くなった頃、湖の畔に到着したロジェは馬を止めた。

「今日はこの辺りで休息を取ろう」


「このまま、インカ草を探さないのですか?」

「……夜は魔物が活発に動き出す。君の兄さんの事は心配だが、俺たちが死んでしまったら元も子もないからな……」


「……そうですね。それにこんな事もあろうかと、一応、テントと新しい下着も準備してきましたら」

「それは凄いな……ん? 『新しい下着』?」


 顔を赤らめて両手を振るミルト。

「いえ、何でも無いです」

 真っ赤な顔のミルトが、恥ずかしそうに下を向く。

(昔、兄さんから、暗くなると男はオオカミに変身するから気を付けろと……それに、ジェマさんからも……)


「じゃぁ、俺はすぐそこで魚を取ってくるから、ここで待っていてくれ。ここなら俺も見えるから大丈夫だ」

 そう言うとロジェは湖に歩いて行った。


 ふぅーと息を吐くミルト。

「テントを建てようかなぁ……」

 道具袋からテント一式を取り出すと、テキパキと設営を始めた。

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