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6話 エイフル

 エルトンが眠る病室は隔離され、妹でさえ入ることは許されなかった。

 隔離された病室には患者の様子を見るための小窓が付けられていた。


 小窓から兄を覗き込むミルトの目は赤く腫れ、涙がこぼれている。


 医師からの言葉を思い出すミルト――


「――エイフルの特効薬として、インカ草が乱獲され、現在、自然に生息しているインカ草の情報ありません。残念ですが薬が作れない以上……治す手立てはありません」


「兄さんは……どうなってしまうのですか」


「もって数日かと……」


(兄さん……)


 悲しみに暮れ、涙が止まらないミルトに、かすり声が聞こえてきた。

「ミ……ルト……何を……そんな……悲しんで……いるんだい……」


 驚いたミルトが声の主に目を向けると、エルトンが弱々しく微笑んでいる。

「兄さん……」


 青白い顔で微笑むエルトンは、ミルトの声に小さく頷くと何かを伝えようと口を開いた。

「私の部屋……机の引き出しに……ノートが……入っている」


「兄さん……何を」

 驚くミルトに構わず、エルトンは必死に言葉を続けた。


「ノートに……インカ草の……場所が……書いてある……」


「えっ!?」


「一人は……危険だ……から……ギルドにいる……ロジェという……冒険者を……尋ねて……み……な……さい」


 エルトンはそう言うと意識を失うように眠ってしまった。




 ギルドの一室


 ミルトの話しを聞いたロジェが静かに口を開いた。


「それで、俺を探していたのか」

 あの時……助けた時に、きつく叱ったからかな……



「それで、その『インカ草』は、どこにある?」


 その問いに一瞬驚いたミルトだったが、小さく頷くと周辺の地図を広げ、ある場所を指さした。

(この人は、私の話を信じてくれて、助けてくれる……この人に兄さんの命を賭けてみよう……)


「兄のノートに書いてあった場所は、ここです」



 ……ん? この場所は……

 ロジェには地図で差した場所に見覚えがあった。


「俺がボアーボから、君の兄さんを助けた所の近くだな……」


「はい……あの日、兄さんはインカ草を探しに行っていたみたいです」


 不思議そうな表情のジェマがミルトに問いかける。

「どうして、一人で?」


「兄は、インカ草の生息地が他の人に知られてしまうと……また乱獲されて、絶滅してしまう。そう考えたんだと思います……それに……」


 ……それで……あいつは、一人であんな場所にいたのか……

「ん? それに……?」

 ロジェは、言葉が詰まるミルトに聞き返す。


「……この生息地は、両親が発見したものなんです」


「ご両親が?」

 驚くジェマ。


「はい……私達の両親は、薬学研究所で研究者をしていました……エイフルが広がりを見せ、たくさんの人が犠牲になっていく中、研究の末、やっとの思いでエイフルの特効薬の原型を作りました……けど、完成間近で二人ともエイフルに感染して……そのまま帰らぬ人に……」

 下を向きながら、悔しそうに話すミルトだが、目に涙を浮かべている。


「父と母が亡くなった後に、研究チームが特効薬を完成させてくれました……たくさんの命は助かりました――――が、父と母が残した研究ノートには、記載されていた国内のインカ草生息地のページが無くなっていたんです……ずっと見つからずにいましたが……まさか、兄が持っていただなんて……」


 ジェマがミルトをジッと見ると小さく頷く。


「話しは分かったわ…………でも、ギルドへの正式な依頼となると、お金が掛かるけど……研究所の学生に払えるの?」


 ミルトは、恐る恐る銀貨三枚をテーブルに置く。

「今は、これしか……」


 ジェマはテーブルに置かれた銀貨を見ながら、溜息をついた。

「残念だけど、これだけでは……足りないわ。依頼内容から、金貨三枚は必要よ……」


「……足りない分は、時間が掛かっても、必ずお支払い致します……兄の命が、掛かってるんです」

 ミルトは必死に頭を下げる。


「気持ちは分かるけど……」

 ジェマは申し訳なさそうに答える。


「ドン」

 ロジェが突然、拳をテーブルに叩きつけた。


「これで、良いだろうジェマさん」

 テーブルを叩いた手をどけると金貨三枚が現れた。


 ジェマは立ち上がりロジェを睨む。

「ロジェ……あなたねぇ!! 余計なことするんじゃないの!!」


 いつもはふざけているロジェが、真剣な顔でジェマを睨み返す。

「人の命が掛かっている……金では買えない。 あんたは、命より金をとるのか? 見損なったよ」

 そう言うとロジェはミルトの手を取り、部屋を後にした。



 一人残されたジェマ。


「……『見損なったよ』か……あの、バカ……」


 ジェマは寂しそうな表情で呟いた。

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